第25話 漁師の良心

 カイルの提案で一度、船の様子を皆で見に行くことになった。

 タイロンが漁師達の後ろについて、逃げ出さないように見張っている。


「カイルは、どうしてあんなことをおっしゃったのですか?」


 隣を歩いていたカイルにミーナは、漁師達には聞こえないくらいの声で尋ねた。


「あの状況で話をそのまま続けてしまうと、お互いが感情的になってしまうと思ったんだ……理由はまだ分からないけれど、他の町に続く道を通れない状態にしてしまったぐらいだからね。だから、こうやって移動している間に少しでも冷静になれる時間を作りたかったんだ!」


「そうだったのですね。」


 カイルは、漁師達と話をしていた中でも、冷静に物事を判断していたようだ。


「おい、何を喋ってるんだ! お前、何か企んでいるのか?」


 漁師は何か察したのか、カイル達を怪しんでいる。


「道に迷わないようにするために、船が置いてある場所を確認していたんです。」


「……。」


 おそらくカイルの理由に納得はしていないだろうが、漁師は話すのを止めた。

 再びクロス町を経由して、船が置かれている道を進む。


 海が近いということもあってか、船着き場と同じくらいの距離で、すぐに着いた。

 そこには、何隻かの漁船があった。

 漁師達は、何か言いたげな表情であったが、口をつぐんでいた。


 カイル達は、船の近くまで足を進めた。

 船は、お世辞にも綺麗とは言えず、ボロボロの状態であった。 


「船がこのような状態でしたら、漁に出ることは難しいですよね。」


「これは、酷いな……」


 ミーナとタイロンが話す。 


「可哀想ですね……」


「おぉ、分かるか? 俺達可哀想なんだよ!」


 カイルの言葉に、漁師が反応を示す。


「いえ、可哀想なのは、この船ですよ。こんなにボロボロの状態にまでなって…… 皆さんは漁師なのですよね?」


「仕方がないだろ! 取引していた店が無くなってしまって、漁師を続けることが出来なくなったんだ!」


「それでも、船を手入れをすることは出来ますよね…… それに、他の町への道を通行できないようにしたのも納得することは出来ません」


「それは、お前の言う通りだ。道を通行できなくしてしまったのは、町の人達が自分達のように困れば良いという身勝手なものからだった。でも、今さらどうこうなる問題ではない。」


 漁師の言葉を聞いて、カイルは考える。


「皆さんが変わりたいと思うのであれば、一つ心当たりがあります。メレンポッドはご存知ですか?」


「あぁ、近くにあるからな……」


「そこでお店を営んでいる、クックさんという方が魚の仕入れ先を探しているそうです。とても良い方で、僕達も助けてもらいました。一度、話を聞いてみてはいかがでしょうか?」


「でも俺達は、ここには居られないくらいのことをしてしまった……」


「まず、町の人達に謝りましょう! そして、道を直すのを手伝って、船もまた海に出れるように修理するんです! 僕達も手伝いますから。」


 その言葉を聞いて、漁師達が集まって話をしている。

 しばらくすると、結論が出たようだ。

 漁師達は、カイル達の前に並ぶ。


「ぜひ、宜しくお願いします。そして、今までの失礼を皆さんにも謝らせてください。」


 変わろうとする気持ちがあったのか、カイル達に伝えると、漁師達は頭を下げた。

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