第2話 怪しげな男
「いらっしゃいませ……」
とりあえず挨拶はしてみたのだが、男が誰だか分からず、常連のお客さんでないことだけは分かった。
次の瞬間、怪しげな男は背中に手を回しながらカイルに対して剣を振りかざしてきた。
「斬られる……」
カイルは目を閉じた。不安な気持ちが押し寄せてくる。
だが、斬られた感覚はなかった。
恐る恐る目を開けてみると、怪しげな男は振りかざした剣を机に置く行動をとっていた。
「この剣だが、いくらで売れる?」
「あ、あの……僕は手伝いの者でして、よく分からないのです。もう少し待って頂けるのであれば、店の主人も帰ってきますので、査定もしてもらえるかと思うのですが……」
「悪いが、私は忙しいんだ。その剣を預けておくから、明日の朝までに査定を済ませておいてくれ!」
怪しげな男は強い口調で話す。
「い、いえそのようなことを、僕一人で決めれるわけには……」
カイルが最後まで説明をする前に、怪しげな男は逃げるように、店から立ち去ってしまった。
「どうしよう、困ったな。でも、この剣……どこかで見たことがあったような?」
今起こった、この状況を受け入れることが出来ないまま、閉店の片付け作業に取りかかるカイルであった。
日が暮れてきた頃、約束通りダグラスが店に戻ってきた。
「カイル、店番ありがとう。助かったよ……」
「それよりも大変なんだよ、ダグラス! 少し前に怪しい男が店にやって来て、剣の査定を依頼してきたんだ。この剣なんだけど見てよ!」
「これは…… カイル今すぐ裏の資料室から、剣に関する本を持ってくるのじゃ!」
「分かったよ。」
普段、店ではダグラスに対して、丁寧な言葉遣いで話すことが多いカイルであったが、この時ばかりは焦りや不安からか日常会話のように話す。
カイルは、ダグラスに言われた通り急いで資料室に向かうと、多くの本が部屋中に埋め尽くされていた。
種類別に整理されているため、装備品というカテゴリーから剣に関する本を探す。
「あった、この本だ!」
部屋を後にしたカイルは、ダグラスに本を渡す。
ダグラスは、慣れた手つきでページをめくると、あるページで手が止まった。そこには、国宝品と記されていた。
「やはり、あの剣は国宝品のようじゃな……」
「どうしてそれが分かるの?」
「剣に刻まれた印を見るんじゃ! 国の印である紋章が彫られておる。」
「でも、偽物という可能性もあるかも……」
「残念じゃが、それはない。この剣を見ただけでも、相当の価値があることは、知識を持った者であれば、誰でも分かる。」
「そんな。これからどうすれば良いのかな? 明日の朝には、あの男がまたここに来てしまうよ。」
「剣なら、この店にもある。その男は剣についての知識が無いようじゃから、わしがこの店にある偽物の剣とすり替えて、本物に少しでも近づけるよう、仕上げてみせるわい!」
ダグラスから頼もしい言葉を聞くことが出来た。ただ、ダグラスは鍛冶屋などのプロフェッショナルというわけではないので、上手くいくかは未知数な状況である。
ここで、カイルに疑問が生じた。
「どうして、この店に来たのかな?」
「それなら、簡単じゃ。ここが、栄えていないからじゃよ。こんな田舎にある店が、国宝品かどうかなど分からないと思ったのであろう!」
「でも、王国は国宝品が盗まれてしまって、混乱をしていないのかな?」
「実は、わしもそこが気になっておる。じゃが、今日はもう疲れたじゃろ? カイルは家に帰って休みなさい……」
「分かったよ。」
その後カイルは、いつものようにダグラスに挨拶をして家に帰った。緊張と疲れからか、夜ご飯を食べることもせず、すぐに眠りについたのだった。
次の日の朝、カイルは急いで店に向かった。店に入ると、二本の剣がテーブルに置かれていた。
「おはようございます、ダグラス。用意が出来たのですね!」
「あぁ、なんとかな…… これを見せて、男の反応を伺うことにしよう!」
「分かりました。でも、本物の剣はどうするのですか?」
「そうじゃな。あの男が居なくなるまではとりあえず、お前が隠れて持っていなさい。」
昨日の会話とは一転して、店でのダグラスに対する言葉遣いも元に戻っていた。
それだけ昨日の出来事が、カイルにとって冷静さを失う出来事だったとことが想像できる。
カイルは、専用の袋にダグラスから預かった剣を入れて、大事に腕に抱え込むようにして持っている。そして、本がおいてあった資料室に身を隠した。
ダグラスは、カイルが隠れたのを確認した後、営業を開始した。
しばらくすると、店のドアが開いた。事前にカイルに聞いていた特徴と一致する。
昨日の怪しげな男が、足早に店に入ってきた。
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