ギャルと陽キャが二人っきりでイチャラブする夜

 夜のゴミ出しもこう冷え込むと家から出るのがイヤになる。

 ジャンパーを着込んで闇夜を歩き、帰りはダッシュで自宅に引き返した。


 いや、ところがだ……。


「お帰りなさいませー、ご主人様ーっ♪ なんちゃってー」


 玄関を開くとそこにメイド服姿のクロナがいて、彼女は子猫を胸に抱えて、俺に笑顔のお出迎えをしてくれていた。


「な……何やってんだよっ、お前っ!?」

「むふふっ、喜ぶと思って♪」


 店内ではそうもいかなかったが、自宅だと周囲の目を気にする必要もない。

 ちっぽけな独占欲が突然に満たされたのか、内心で俺は嬉しい気持ちで胸が熱くなった。とは絶対に言えない。


「んな……っ、んなわけ――」

「おおっ、顔ニヤケてるよー? だるんだるんにとろけてるよーっ?」


「うっ……。ま、まじか……?」

「うっそー♪ でも喜んでくれて嬉しいよっ、与一ぃ♪」


「てめ……くそ、謀ったな……」


 日に日に大きくなってゆくカマタリは、喉を鳴らして包容にリラックスしている。

 豊かな胸の谷間を枕にしてな……。


「ねぇねぇ、これから一緒にゲームしようよ。ネットで占いとか診断もしよう! 与一は何月何日生まれ?」

「それは、その格好でか……?」


「もち! メチャ気に入ってくれたみたいだし……?」

「それについてはノーコメントだな」


 ヘッドセットは付けていないが、それがまた普段のクロナと仕事のクロナが入り交じって魅惑的だ。

 俺なんかの視線に嬉しそうに破顔して、俺の手を引く。


「とにかく一緒にコタツはいろ!」

「正気か……」


「バレちゃったものはしょうがないし、開き直ってもっと楽しいことしようよっ!」

「お前ってやつは、どこまで前向きなんだ……」


 引っ張られるように――というよりも実際に引っ張られて玄関から居間に運ばれて、コタツの同じ面に並んで入った。

 当然狭い。近い。肩と肩がぶつかり合う。甘い匂いがいっぱいで、こっちは気が気じゃなかった。


「診断とゲームどっち先にする?」

「診断で頼む」


 診断の方がまだ落ち着いていられそうだからな……。


「誕生日は?」


 一緒に同じスマホの画面を眺めて、俺たちは診断ゲームを進めてゆく。

 女の子っていうのは、本当にこういうのが好きだな……。


「ふむふむ。おとなしい子と明るい子、どっちが好み?」


 人の横顔をクロナがガン見した。

 クロナもその質問に並々ならぬ興味があるようだった……。


「選ぶほどではないが、明るい方かもしれない」

「むふっ♪ ……じゃ次ね、犬派? 猫派? ていうか猫派だよねっ?」


「まあ、どちらかといえば……そうかもな」


 嬉しそうだ。気持ち半分、誘導されているような気もしないでもないが……。

 本人が喜んでいるのだからよしとしよう。


「次! 独占欲は強い方だっ!?」

「いや、いきなり独占欲って……。答えなきゃダメか、これ……?」


「ダメ。診断にならないもん。ね、与一は独占欲強い?」

「……そうだな。自覚はなかったが、強いのかもしれない」


 こういうのは、実際にその局面に遭遇するまで、自分ではわからないのだろう。

 俺はきっと独占欲が強い。そのことに今気づいた。


「マジで!?」

「ああ、この前もつまらないことで嫉妬を――いや、次に行こう」


「ズバリ! 貴方はエロい?」

「……は?」


「与一ってエッチ? スケベ? エロいことばっか考えてるっ!?」

「……んなもんっ、答えられるかアホーッ!!」


 隣に女の子が寄り添っているこの状況で、私はエロですと答えたらフラグしか立たない。

 そのフラグを俺は折らなければいけないのに、衝動に身を任せてしまえと、バカなことを思う俺がいる。


「あははは! 与一はムッツリスケベだから、イエスだね」

「勝手に決めつけるなよっ!?」


「だってそこは一緒に暮らしてたらわかるし」

「くっ……。勘弁してくれ……」


 診断を選んだのは間違いだった。

 これならゲームの方がマシだ。診断ではなく、尋問ではないかこんなもの……。


「お、出た出た」

「やっとか……」


「貴方の理想の相手は、小悪魔タイプです。独占欲の強い貴方は、潜在的に振り回されることを望んでいます。ふむふむ……そうだったんだー……」

「頼む、真に受けないでくれ……」


「えーっとあとね、今月のラッキーカラーは、ピンク」

「男がピンクはきついだろ……」


 茶畑さんくらいの色男ならまだしも、俺がそんなもの身に付けたら浮くわー……。


「ラッキーアイテムは塩唐揚げです」


 この診断サイト、唐揚げ業界の回し者か……?

 最近、唐揚げ屋が繁盛していると聞くが……なぜ塩唐揚げ限定なんだ……?


「なぁクロナ、明日は唐揚げにするか?」

「賛成ー! 凄いね、診断サイトって! おかげで唐揚げ食べられるー!」


 茶畑さんから塩唐揚げのレシピを教わった。

 彼の腕は一流だ。もっと色々教わりたい。


「じゃあ次々、次はこっちの診断しよう! 前世診断!」

「まだ続くのか……」


 しかも前世とは、うさんくささが天元突破だ。

 占いとか診断というのは、そういうものなのだろうな……。


 ふと、横目で彼女の胸をのぞき見た。

 ムッツリスケベというのは、悔しいが当たっている……。

 というより、これが嫌いなやつなんてホモ以外にいないだろ……。


「出たよっ、なんと与一の前世は――カタツムリだって!」

「微妙過ぎる……」


「ちなみに私は……やった、スズメだって! かわいい!」

「もし前世で出会ってたら食われてたかもな……。風呂入れてくる」


 前世がカタツムリというのは、それなりにショックだ。

 せめてアンモナイト、いや、人類がよかった……。


「えー、もっと診断しようよーっ!」

「後でな。これ以上側にいたらおかしくなる……」


「おかしくなってもいいよ……? うち、与一に感謝してるから……」


 普段あれだけ奔放なクロナが、妙に慎ましいというか、ひかえめな声色で言葉を返してくる。

 さらには恥じらいに身を揺するものだから、それが青年のハートに突き刺さらないわけがなかった。


「ねぇ与一……うちに変なことしてもいいよ……? 与一がそういう目で見てるの、わかってるから……」

「そうやって言うのはいいが、もし俺が本気になったら、お前どうするつもりなんだ……」


「へへへ……心の準備とかは出来てないけど、部屋を借りた日から覚悟はしてるよ。……あ、おしっこかな」


 カマタリの姿が編みかごの中にない。

 見ればトイレの中で、小さな身体をこわばらせてふんばっていた。子猫とは思えない渋い顔だ。


「いや、あの顔は大きい方だ。片づけは任せた」


 猫砂を後ろ足で物体Xにかけるカマタリを見守ってから、俺は風呂を洗うことにした。


 いつもより念入りに磨いて、風呂が焚けるとクロナと順番に温まってから、今日という刺激的な一日を終わらせた。

 この日、俺は知った。ギャルとメイド服の奇妙な親和性を……。


「なんでそっちに着替えるんだよっ、パジャマ着ろよっ!?」

「あ、パジャマの方がグッとくる……?」


「まあ、それはそれで……じゃなくて、わざとやってるだろお前っ!?」

「あははっ、今日は楽しかったね、超楽しかったね、与一っ! サービス券かっぱらってくるから、またお店に来てね!」


「……いや、それはその、まあ、そうだな。一応考えておく……」


 それと、湯上がりスメルを放つメイド服の破壊力も知った。

 心臓は常に高鳴りっぱなしで、その晩はもう大変だった。


 これが純粋な好意なのか、あるいは情欲に汚れた感情なのか、クロナが魅力的なあまりに今はよくわからない……。

 男って、バカだ……。

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