第50話 二人の叶わない願いごと

「みんなで飲むと落ち着くわね」

 ふぅ。と一息ついて微笑むアルノ。側で紅茶を飲んでいたユリが答えるようにゆっくりと頷いた

「ミツバちゃん、体調大丈夫?眠くない?」

「大丈夫だよ。ありがとう」

 本が現れてから元気のないミツバを心配するサクラに、ぎこちない笑顔で返事をしているミツバ。そんな二人の様子を、ミツバの本を持ったままのアルノがニコニコと笑ってみている



「あの、アルノさん……あの……」

 一番最初に紅茶を飲み干したナツメが、アルノに話を聞こうと恐る恐る声をかけた

「ミツバちゃんの本は主に思い出が書いてあるわね」

 と、ナツメの話に答えるようにテーブルにミツバの本を置き、ページをめくるアルノ。そのページを見ようと、ユリとツバキが少し前のめりになって本を見ている

「思い出ですか?」

「まあ、ホンの少し魔術のことも書いてあるけど、ほぼ全部夢で見たことね」

「夢の記憶……」

 と、アルノの話にミツバが、ポツリ呟いて夢のことを思い出そうと考え込みはじめた



「ミツバの本は、何が書いているんですか?」

「サクラとの思い出ね。まあ、大体私も知ってる思い出だけど」

「私達を忘れてたこととかは……」

「残念ながら、書いてないわ」

 ユリとナツメの質問に答えていくアルノ。すると、ミツバの本の話が始まってから、話に入らずうつ向いているサクラにツバキが気づいた

「サクラ、大丈夫?」

 ツバキが声をかけても、無言で返事をしないサクラ。そんなサクラの様子にホンの一瞬、リビングが静かになった


「サクラに聞きたいことが、たくさんあるだろうけど、その前に……」

「アルノさんは、二人が何かしたのか、何が起こったのか知ってるんですか?」

 リビングに流れる嫌な雰囲気を変えようと話はじめたアルノ。その話を遮り問いかけたユリ。話を途中で止められてアルノが、ふぅ。とため息ついた

「いいえ、知らないわ」

「じゃあ……」

「ただ、二人が何かをしようと願ったことはわかるわ。それが例え叶わないことだとしても……」

 とアルノが言うと、サクラとミツバに目を向けたアルノ。ナツメやユリ、ツバキだけでなく、家政婦達も二人を見つめている。全員の視線を感じてうろたえるミツバに対し、サクラはまだうつ向いたまま。またリビングに静かな時間が流れてく。すると、このまま待っても二人とも何も言わないと思ったアルノがミツバに本を渡して、家政婦達を呼んだ

「さてと、そろそろ帰ろうかしら。みんな。また家に遊びに来てね」

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