第44話 月が呼び戻す後悔

「ねぇ、ツバキ。もうちょっと寄って」

「待って。これ以上動いたら、ミツバちゃんが落ちちゃう」

 夜、ミツバの部屋に集まって、ベッドで眠るミツバ達。五人並んで眠るベッドは狭く、身動きする度にベッドの端にいるミツバが落ちそうになっている

「狭い……」

 五人の真ん中にいるユリは、サクラとミツバに挟まれて身動きできず、どうにかしようとあたふたと動いている

「何だかゴメンね……」

「ううん。前はよくこうやってみんなで寝てたから」

 体を横にして、落ちないように踏ん張りながら謝るミツバに、サクラがクスッと笑って答えていると、ミツバのいる方な反対側からナツメの声が聞こえてきた

「そういえば、久しぶりかも」

「そうなんだ……。久しぶりなんだ……」

 ナツメの言葉に、ちょっとしょんぼりとするミツバ。心配そうにサクラがミツバの様子を見ていると、サクラに背を向け、すぐ側にある窓を見た

「月が……」

 窓から見える月に気づいてポツリと呟いた。すると、声に気づいたのか、月を見ないようにサクラがミツバの目をふさいだ

「ミツバちゃん。見ちゃダメだよ」

 サクラ達の動きに気づいたナツメ達が、二人の様子を見ていると、ミツバがサクラの手をほどいてベッドから降りて窓辺に歩きだした

「ミツバ、どうしたの?」

 無言で歩くミツバに、ナツメが恐る恐る声をかけた。だが、返事をせずにいるミツバをサクラも黙って様子を見ていると、ミツバの本が突然ふわりと浮いてミツバの前に現れた

「本を止めなきゃ……」

 本をぎゅっと抱きしめ月を見ながら呟いたミツバを心配そうにユリとツバキが見ている

「本を止める?」

「ミツバ、何を言ってるの」

 と、ユリとナツメが言うと、サクラがミツバの側に駆け寄り後ろからぎゅっと強く抱きしめた

「ミツバちゃん!」

 サクラの叫び声も反応せず、まだ月を見ているミツバ。抱きしめられたまま後ろに引っ張られて、やっとサクラがいることに気づいてゆっくりと振り向いた

「サクラ……ゴメンね」

 と、少しうつ向いて呟いたミツバ。すると、力が抜けたようにサクラに体を傾けた。だが、サクラがミツバの体重が支えきれず、一緒に床に倒れてしまった


「サクラ、ミツバ。大丈夫?」

 慌ててユリがサクラとミツバに駆け寄っていく。ツバキとナツメも、体を起こして、サクラとミツバの様子を心配そうに見ている

「……サクラ、やっぱりミツバと何かあったの?」

 と、強い口調でナツメがサクラに問いかける。だが、サクラは振り向くことも答えることもなく黙ったまま、ミツバをぎゅっと抱きしめている

「何をしたの!」

 ベッドの上に立って、更に大声でサクラに対して叫ぶナツメ。その大声に一瞬ビクッと怯えるユリ。サクラは何も言わずミツバを見つめたまま。静まり返ってしまったサクラの部屋。すると突然、沈黙を破るようにツバキの声が部屋に響いた

「……本が!」


「ツバキどうしたの?」

 声に驚いたナツメが慌ててツバキの方に振り向くと、うっすらと今にも消えそうな本をツバキがぎゅっと抱きしめていた

「私の本が……」

 消えそうな本を見て泣きそうなツバキ。ユリとナツメもどうしたらいいか分からず、ただ呆然とツバキを見ていると、消えそうな本が全て姿を現していく。ちゃんと見える本にツバキがホッと胸を撫で下ろしていると、ナツメがツバキを優しく抱きしめた



「ユリちゃん、ミツバちゃんを一緒にベッドに……」

「う、うん……」

 ゆっくりと二人一緒に動かして、ミツバをベッドに乗せていく。ちょっと荒めに体を動かされても起きなかったミツバに布団をかけて、サクラがふぅ。とため息つくと、ミツバが抱きしめていたツバキを、そっと離してサクラを睨んだ

「サクラ、ミツバと何をしたの?」

「教えない……ミツバちゃんも、いつか思い出したとしても、きっと言わないよ」

「サクラ!」

 苛立ちが募り怒った声で叫ぶナツメを不安そうにユリとツバキが見ている。怒られているはずのサクラは気にせず、ミツバの隣で布団のなかに入って、ゆっくりとナツメ達の方に顔を向けた

「眠ろう……ミツバちゃんが起きる前に起きなきゃいけないから……ねっ」

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