第13話 太郎さんあざますっ!



「いやぁ、家電が軒並み生きてるなんて、羨ましいにも程があるね!」


 合同遠征の次の日の朝。

 流石にもう冷凍食品も無くなって来たものの、湯煎で温めた缶詰を惣菜に、炊飯器で普通に炊いたお米をたらふく食べた太郎さんは、風呂にも入れて超ご機嫌だったらしい。

 明けて今日、いつもの様に溶いた粉ミルクをかけたシリアルを朝食に食べながら、未だにご機嫌な太郎さんである。

 粉ミルクも溶いた後に一度冷蔵庫で冷やして居るので、冷たいミルクがかかったサッパリしたシリアルは、かなりお気に召したらしい。


「これで鶏でも飼っていたら、もっと完璧だったのだろうな」

「あー、鶏良いですね。学校の飼育小屋とかに居ないんですか?」

「中学校にはそんな施設無いのだよ。アレは小学校で命に対する学びがどうとかで置かれるものなのだから」


 なるほど。こんど小学校を探してみようか。いや流石にもう生き残ってないかな?


「あ、ココロさん。割れたガラスなんですけど、秋元さんが直してくれましたよ」

「………はっ!? え、魔法で?」

「そんな魔法は流石にまだ無いよ。単純に同じ窓枠の家を外で探して、無事な物を持ってきたんだ。嵌め直すのは難しくないからね」

「え、マジですか。うわぁ、ありがとうございます! あ、シリアルお代わり要ります?」


 私はちょっと感動した。

 両親が残してくれた家の傷を直してくれたのだから、感謝もひとしおである。

 朝食くらいいくらでも振舞おうじゃないか。


「さて、ココロ君。外を見てくれたまえ」

「はい? 外ですか?」


 そう言われ、残ったシリアルを口に流し込んでから席を立って、ダイニングからリビングに移動して暗幕カーテンをチラッと開ける。

 すると、二メートルくらいだった塀が真っ黒に染って三メートルまで伸びて、ひしゃげた鉄門は取り除かれ、どう開閉するのか分からない塀と同じ色の巨大な門が出来てた。

 目をくしくし、ぱちぱちした後もう一回見ると、そこには変わらず超強化された塀と門があった。

 チラチラと正面以外の門も見てみると、同様の強化がされている様だった。

 ダイニングに戻った私は、フローリングに土下座して感謝を示した。


「ありがとうございますっ!」

「いやそこまでやられると逆に困る。普通に喜んでくれ」

「あざますっ! でもいつの間に!」

「昨日、君が気を失った後に、残った魔力で下準備だけして置いたのでね。そもそも私は魔法専門に育っているので、魔力は三人の中で一番残っている。だから回復も早く、朝は少し早く目が覚めたもんだから、チャチャッとやってしまったのだよ。ついでに周辺の家も魔法で崩して置いたから、目立ちはするが、隣の家を使って塀を超える様な事も出来ないはずだ」

「本当にあざますっ!」

「いやいや、レベルも上がって魔力量もぐんと増えて、威力や効果も上がっているからね。むしろいい練習になったよ」

「人が出来すぎている!」


 太郎さんが言うには、門の開閉は風魔法で風車を回して鎖を巻き取り作動させる方式で、風魔法を使えない者は絶対に開けられないらしい。

 一応鍵も付けてあるので、風使いが居たとしてもとりあえず大丈夫だ。

 門も広く、今使っているトラックも悠々と中に入れられるし、壁の外側にはネズミ返しもあって、とことん侵入者を拒む仕様となっている。

 壁が黒いのは、土を固め過ぎたら黒くなったらしい。

 壁の中にはわざと周囲の瓦礫などを混ぜて補強もしてある至れり尽くせりの拠点改修だった。


「多分強度は充分なはずだ。元が土だから風化が怖いが、まぁ風化する前にちゃんとした建材を使って補強すれば良いだろう」

「あざっす!」


 散々お礼を言って、息子さんが喜びそうな物資も渡して、その日の昼頃に太郎さんは帰って行った。

 次のショッピングモール攻略は三日後で、今度はあの使えない中年達は置いてくる約束だ。

 ただ、もし他のスキル持ちでやる気充分で太郎さんも同行を認める様な人材が居たら、その時はその人を連れて来るらしい。

 ちなみに今度はここが集合場所だ。


「よし、三日の内に自分達でも出来る防御策はとっておこう。幸い全員自力で土魔法使えるしね」

「……姉ちゃん、さすがにあのおっさんレベルは無理だぞ。凄かったんだからな」

「そりゃ魔法特化型の人だからね。レベルも高いし」


 そんな訳で、三日の間に周囲の土地から大量の土砂や瓦礫を回収しながら、自宅の壁や扉も超強化していく。

 土をギッチギチに固めると粒子が結合するのか岩っぽくなり、結構な強度になった。

 そして一階の玄関と窓は全て取り払い、完全に侵入出来なくさて、出入口は正面二階のベランダを使う事にする。

 今なら私はジャンプするだけで行けるが、他は流石に無理だ。

 なので正面に池を掘って水を張り、その上に足場を乗せて、水魔法で足場を浮かせる。そんな仕組みで出入りする事になった。

 そこに水があるなら魔法のコストは安くなるとはいえ、今のままだと雪子も春樹も魔力不足で辛い思いをするが、ショッピングモール攻略が始まれば魔力問題は解決するし、魔法持ちでも魔力が潤沢に無いと入れない家なんて防犯的にも最高なので、頑張って説得した。

 ただ私の説得より、秋菜が実際に楽々出入りをしている様を見て納得してくれた様だった。何か思う所があるのだろう。

 ここまでやれば取り敢えず大丈夫だろう。


 そして三日後。


 今回は夏無し親子全員と私が参加するので、トラックも持ち出す。

 どうせだから向こうで放置してある車からガソリンを回収する予定だ。

 この車がレギュラー車なのかハイオク車なのか分からないが、同型の車から回収すれば問題無いだろう。

 運転席に雪子、助手席に私、秋菜と春樹と太郎さんは荷台に乗ってもらう予定である。

 そして、今日の私は装備がいつもと違っている。

 バックパックとタクティカルベストはいつも通りだが、模造刀が三本に増えて、代わりにライフルの採用を止めた。

 ハンドガンも一挺増やして両の太ももに装着して、模造刀は腰の右に一本、左に二本装着する。

 タクティカルベストにはアタッチメントを交換してハンドガン用のマガジンポーチを計十本と、カラのマガジンを仕舞うフリーラックを取り付けてあり、当然マガジンも十本装着してある。

 ハンドガンと魔法で中距離も対応出来る近接寄りの魔法剣士スタイルだ。


「あ、おねーちゃんきたよ」

「見えてる見えてる」


 門の外でトラックを降りて太郎さんを待っていると、予想よりも人数を引き連れた太郎さんが現れた。

 些か話しが違うな? と思ったけど、今更彼を疑う必要も無いので、とりあえず事情を聞く。


「太郎さんいらっしゃい。随分多いですね」

「ああ、不安かもしれないが、みんなやる気がある子なんだ。是非同行させて欲しい」

「もちろん、あの現場を見た太郎さんが大丈夫だと思ったなら、コチラは問題無いですよ」


 集まったのは、前に見た事のある太郎さんの息子さん。多分私とほぼ同じくらいの年齢だと思う。

 そしてその息子さんと仲の良さそうな男の子が五人。つまり彼らが友人なのだろう。


「太郎さんと息子さんと、その友人が五名の七人ですね。こちらが四人なので、計十一人ですか、大所帯ですね。トラックで行くつもりなのですけど、荷台でも大丈夫ですか?」

「ははっ、もう道交法なんて言ってられないかなら、構わないよ」


 すると男の子六人が「よろしくお願いしまぁースっ!」と体育会系な感じで揃って頭を下げた。

 うんうん、前回の中年よりよっぽど好感触だ。


「それじゃ、どうします? ここでブリーフィングします? 向こうでも駐車場は安全だと思いますけど」

「そうだね。ここでも大まかに決めて、向こうでもやろうか。確認し過ぎてダメと言う事もないだろう」

「それもそうですね。……それで、先に一つ聞きたいんですけど」


 私は男の子達を見た。

 全員が、太郎さんと同じ様な杖を持っているのだ。


「ああ、気が付いたかね。実は秘密裏に育ててた魔法使い達だよ」

「うっはぁー、前回よりよっぽど良い感じじゃないですか。レベルは聞いても良いですか?」

「まぁ君程のレベル相手に隠しても意味が無いだろうからね。全員八だよ」

「うっわ良い戦力」

「そう言えば、ココロ君は前回で何レベルになったんだい? 私は二十三だったのだが」

「レベル教えるの開き直ってますね。三十一です」

「……ぬぅ、これから魔法も鍛えて行くのだろうし、私のアドバンテージがどんどん失われていくな」

「いやいや、太郎さんも武器に魔法入れてぶん殴るスタイルやれば良いじゃないですか。相変わらず魔法特化のまま物理も鍛えられますよ」

「ぬぅー……、流石に腐肉相手には無理だろうから、手頃なモンスターが居たら試してみようか」


 雑談を終えて、ブリーフィングを始める、

 今回はこちらも育成したい人材を連れて行くので、綿密に擦り合わせないとどこで擦れ違って事故に繋がるか分かったもんじゃない。


「はいおねーちゃん、おにーちゃんとおかーさんは、あきながおしえるよ?」

「秋菜入れた三人の火力なら、腐肉を複数相手にしても押し切れそうかな?」

「ならココロ君には是非コチラに入ってもらいたい。流石に私一人では五人も見切れないのだ。自分で連れて来て何を言ってるんだと思うがね」

「あ、違うんです! 父ちゃん悪くないんです! 俺が皆誘って来たからでっ……!」

「あ、別に怒ってないから大丈夫ですよ。皆、純魔法使い型で良いんですか?」


 第二次、私と秋菜にとっては第三次だが、第二次ショッピングモール攻略作戦という名のレベリングは、まず前回と同じようにエントランスから侵入してまず索敵。

 あの中年四人と同じ轍を踏まない様に、秋菜、雪子、春樹の秋菜グループと、太郎さんと息子さんと友人二人の太郎さんグループ。そして残った男の子を私が率いたココログループの三組が、それはもう念入りに索敵をしてからエスカレーターを登る。

 そして登った先で前回のように大量に出たならエスカレーターを降りて引き撃ちで倒す。出なかったらテナントを一つずつ虱潰しにして腐肉を探す。

 それぞれのグループで私、秋菜、太郎さんがフィニッシャーを務め、遭遇した腐肉を仕留めない程度に一旦燃やし、そこにレベリング勢が攻撃を加えた後にフィニッシャーが仕留める。

 この形でレベリングが可能かをまず調べ、可能だったら続け、無理だったり、効率が微妙だったりしたら一旦引いて作戦を練り直す。


「こんな感じで良いですかね?」

「大丈夫だろう。最悪は私かココロ君が全力で暴れれば切り抜けられるだろう」

「んー、出来れば暴れるのは最小限に抑えたいですね。燃やしまくったら物資が無くなっちゃまうので……」

「………そうだったね」


 作戦会議が終わり、私が担当する太郎さんに選ばれたレベリング勢を紹介される。

 黒髪の坊主が水島勇気くん。黒髪の無造作短髪が村上明くん。一人長めの茶髪でちょっとチャラそうな男の子が谷森志貴くん。

 太郎さんに私の強さとか色々言い含められているのだろうか、「おなしゃすっ!」と元気よく挨拶をしてくれた。


「それじゃユッキーとアッキーとシッキーね。よろしく。とりあえず、上下関係とか煩いことは言わないから、言葉は好きにしてくれて良いよ」


 この三人が私の担当に選ばれたのは、本人達が私のスタイルを聞いて熱望したかららしい。

 魔法剣士に憧れてしまったか中学生よ。もしかして二年生かな?

 私も十七歳なので歳上ではあるけど、中学時代なんてほんの数年前の話だし、滅んだ世界で年齢の上下でとやかく言うつもりは無い。

 だから私も雪子の事を保護した立場から呼び捨てにしているのだ。

 ……当時はイライラしてたから呼び捨てにしてたのだけど、今はそう言う事にしてる。


「刀かっけぇ」

「やべぇ、本物かな」

「今の世界なら探せば落ちてそうだけどな。ヤクザの家とか」

「「それだっ!」」

「男の子元気だなぁー。ちなみにコレは模造刀だよ。ゴブリンに殺された父の形見だから欲しがらないでね」


 そんな感じで、一通りの確認と擦り合わせが終わった私達はトラックに乗り込み、ショッピングモールへ向かうのだった。


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