第14話 缶チューハイ


「あのね、昔めっちゃ大恋愛したんだよね。今でも思い出すくらい好きだったんだけど……」


時計が0時を回る頃、地元に残る親友に電話をかけていた。

酔いが気持ちを大きくしたのか、咲いた昔話に乗じたのか、私は学生の頃のひと夏の思い出を語っていた。


自分を大事にしてくれない元カレとの恋が癒えた頃、友人に好きな人ができて協力するために、友人の好きな人の家に誘われたことがあった。


BBQの肉と、ガチガチに固まっている友人に話しかけ解している時だった。


「ちゃんと食べれてる?」


そう話しかけてきたのは友人の好きな人の従兄弟である彼だった。

レモン味の缶チューハイを片手にした彼が自然と隣に座った。


ボサボサの髪と分厚いメガネ。きっと陰キャと呼ばれるような見た目の彼だが、前髪から覗く凛とした瞳に私は心を奪われた。


「おっ、お酒飲まれるんですね。何歳ですか?」


「あー、そうだね。君の2個上かな。実はまだ19。」


「内緒ね。」と子供のように笑う顔が頭から離れることはきっとこの先もないだろう。


「好きです!付き合ってください!」


そこからの私の行動は早かった。

数ヶ月後、無事に恋が実った友人に誘われて友人の彼氏の家に行った時、偶然ゲームをしていた彼の姿を見て勢いに任せて告白をしてしまった。


しっかり友人達に見られてしまって恥ずかしかった。


彼は顎に手を当てて少し考え込んでから口を開いた。


「俺さ、SNSとかLINEとか一切何もやってないのね?」


「それでもいいです!好きです!」


「……俺ちゃんと女の子と関わったことなくてさ、君の事を大事にできるか分からないから、ごめんね。」


突然の告白に困惑したような、それでも年下に対して甘い優しさを見せず大人の対応をしている彼に、思っているより惚れ込んでいるんだと自覚してしまった。


「……まだ諦めきれません。」


「でもね…」


「だから!まだ好きでいたいです、この気持ちを楽しませてください!」


彼の言葉を遮った言葉が部屋中に響いた。

驚いた彼は目を丸くして、涙が溢れそうな私の目を見つめていた。


「いいよ。」


今思えば、彼の優しい気持ちを利用したのだと思う。

ことある事にイベントに誘って告白しては、玉砕するを繰り返していた。

仲を取り持ってくれていた友人カップルには申し訳ないことしたと反省している。


1年後の冬、私は受験を控えていた。

夏祭り、お盆休み、クリスマス、正月、ことある毎に彼を誘っていたため、連絡の取れない期間があったということは私にはキツかった。


それでも勉強を疎かにしていい理由にはならないと思い、思い出してしまう時間を作らないように夜まで勉強に没頭した。


その甲斐あってか、私は希望の大学に合格し、地元を離れることになった。


出発の日、その人を呼び出したら駅のホームまでついてきてくれた。


「私、もうここに戻ってくるの少なくなると思います。」


「そうだね。」


「あっちでもっとかっこいい人と付き合うかもしれません。」


「いいんじゃない?」


「私、あなたのことめっちゃ好きです。付き合ってほしいです。」


「そろそろ乗らないと新幹線間に合わないよ。」


彼に促され、電車の出入口に立った。


扉が閉まるアナウンスが聞こえる。


「それじゃあ、またね。」


「ううん、さようなら。」


「またね。」といえば「またね。」と返してくれる人だった。初めて彼から突き放された瞬間だったと思う。

恋心を持ったまま私が苦しまないように、彼なりの餞別だったのかな。


ゆっくりと流れ出す風景と、溶けた雪かこぼした涙か分からない足元の水溜まり。


彼が優しく笑っていた。


時は戻って現在。結婚したいと思える程の彼氏ができた。

愛を知らなかった親友は今では一児の母である。


「今でもその人の事好きなん?今の彼氏もそういう系じゃね?」


ポテチを噛む音と共にスピーカーから聞こえてきた。


「いや〜好き、なのかなぁ?ただタイプだっただけな気がする笑」


時はたくさん流れた。色んな人と出会い、別れて大人になった。


今でもあの頃の子供だった恋心は、駅のホームに置いてきたまま。


取りに戻ることは、この先もないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アネモネ恋話 ジョボバンタ竹田 @huduki_0817

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ