第45話 閃光館高校
時刻が21時に迫った頃、ようやく朱護学園野球部の今日の練習は終わり、部員はそれぞれの帰路につく。
守と結も、いつも通りに学校からそれほど離れていない自宅に向けて歩いているのだが……いつもと違い、2人の間に会話は少ない。
「……じゃあ、また明日な」
結の自宅の前まで来たところで、守はそう言って結と別れようとする。
今日の試合での活躍を忘れたかのように淡々と今日を終えようとする守を見て、結は思わず守を引き止めようとした。
「あっ、うん……いいんだよね? 今日はもうこれで……」
「ああ。……負けた日は、ヒットも打点も全部なかったことにしよう……最後のミスがなくても、きっと俺は同じ判断をしていたと思うよ」
「そっか……ねぇ、守。確認してもいい?」
「……いいよ」
「……最後のミス。まだ引きずってるわけじゃないよね?」
「……もちろん。今は次の試合で活躍して、お前と何をするかってことだけ考えてるぜ」
冗談めいた顔でそういう守を見て、結はほっと一安心した。守の性格上、余裕のない時にはこんなことを彼は言えないと知っているから。
「……もう、なにそれ。……まあいいや、それなら安心したよ」
「……今日、チャラになっちまった2打点、次の試合で稼いでみせるからな。……だから、期待しててくれよ」
「……私はいつも守に期待してるよ。……待ってるからね?」
……同時刻。川崎市内にある閃光館高校野球部寮にて……
「っしゃあ! 見たか下手クソ! これで同点じゃあ!」
「F○CK!!! 今のはどう見てもcenterの打球だろうが! 何でrightを操作させんだこのクソゲー!」
規則が緩い閃光館高校野球部寮のとある1室では、毎日のように夜のゲーム大会が開かれている。今日は忍足と東郷がパワプロ対決をしているようだが、やはり野球ゲームというだけあって操作する側の熱も入り……その騒ぎ声に耐えかねた隣室の住民、小木が怒鳴り込む事件にまで発展した。
「うるせぇぞTT兄弟! 今何時だと思ってんだ! パワプロなんてやらずにプロスピでもやってろ!」
「
「プロスピで2meterの選手createしてもテメェがbigになるわけじゃねぇぞ!」
「ああっ!? テメェら言ったな!? 俺に禁断の身長イジリをしたな!? よし殺す!!!」
超がつくほど下らない理由での喧嘩が始まると、それを見物しに野次馬も何人か集まってくる。
その野次馬の中には、閃光館高校のエースと主将も混じっていた。
「おいお前らいい加減にしろ! ここらでやめねぇと監督が飛んで来るぞ!」
「やれやれ。この3人は相変わらずだねぇ……うんっ! 実に高校生らしくていいと思う! 青春だねぇ!」
「今時ルーキーズみたいな青春なんて求められてねぇよ! お前も止めろ青海ィ!」
穏やかな見た目に似合わず昭和のヤンキー漫画が大好きなエース、
「……ったくお前らはどうしてこういつも……喧嘩なんてもう日常茶飯事に感じてきたことが恐ろしいわ……」
「ははっ! いいことじゃないか、キャプテン。君もこの2年半で充分わかったんじゃないのかい? 僕達の絆は喧嘩で壊れるどころか……むしろ強化される。そんな昭和じみたチームが、この閃光館高校だと」
「yes! カイジの言う通り、殴り合って互いを知ってこその俺達だ!」
「こういう日々の積み重ねのお陰で、遠慮のないプレーが出来るってもんよ。俺達にとっての喧嘩はスキンシップと同じだ」
「俺はたまに本気でテメェらを殺したくなるけどな……」
エース青海の言葉に、さっきまで喧嘩をしていた忍足、東郷、小木のスーパーカートリオは揃って同調する。
そんな生来の不良少年達を見て、真面目な野球少年の田口は大きな溜め息をつくのだった。
「……ったく、この不良どもが……まあいい。試合で活躍さえしてくれりゃ、俺も文句は言わんよ」
「……分かってらぁ。俺達野球バカが存在意味を証明出来るのは、グラウンドの上だけだ」
「散々周りに迷惑かけてきたカスなりのケジメとして……甲子園には行かねぇとな」
「……I want to victory. 欲しいのは勝利だけだ」
「……うん、みんないい闘争心だね。来週を迎えるのが楽しみで仕方ないよ」
目指せ欲望の甲子園 竹腰美濃 @bcad0210
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