第12話 僕がエリナのスキルを調べた話


「ヴァーミリオン……? まさか宮廷魔法士のトップである、ヴァーミリオン卿の……!?」


「はい。その孫なんです。彼女」


 エリナの近くに居た生徒たちが一気にその距離を離した。居心地の悪さを感じたのか、エリナもこちらにとっとこやって来て、そのまま僕の後ろに隠れる。


「しかしそれにしても、この年齢で禁術を操るなど……ッ、まさか……!」


 男性は何かに気付いた素振りを見せると、近くの教員に耳打ちした。教員は「直ちに」と一礼しこの場を離れていく。なんだろうか?


「失礼を承知で、エリナ・ヴァーミリオン様にお願いしたいことがございます」


「……な、なんですの?」


 僕の服の端がきゅっと掴まれた。どうやらエリナはこの男性の事を怖がっているらしい。眼が怖いもんなこの人。わかるわかる。


「――貴方に『秘跡ひせき炙紙かいし』を使わせて頂きたい」


「なん……だと……?」


 その言葉が出た瞬間、僕は息を飲んだ。


 『秘跡ひせき炙紙かいし』とは、この国に伝わる人間の天恵……『ユニークスキル』を暴く為の魔法紙だ。スキルの事細かな内容を映しだすこれは、本人も知らない弱点や欠点すら暴き出すという。


 これはよっぽど希少なスキルにしか使われない。一般人のスキルの解析には本来、もう三等級は下のアイテムで事足りるからだ。『秘跡ひせき炙紙かいし』は最上位、国宝級のアイテム。そんなものを使う、なんて。


 いや……でも確かに、幼い頃からこと魔法に関して、エリナに常識は通じなかった。その非常識さは彼女の叔父、宮廷魔法士ベルアーク・ヴァーミリオンですら「なにこれ意味わかんない」と自信を喪失し匙を投げ直視するのを止めた程である。そりゃあユニークスキルの一つや二つ持っていないと話が合わない。


 エリナはどんなユニークスキルを持っているのか?

 正直な所、僕もかなり気になる。


「お待たせしました、ジルベルト殿」


「ありがとう」


 男性……ジルベルトさんは、白い手袋を受け取り両手にはめると、次いで木製の文箱を受け取って、ゆっくりと蓋を開けた。僕は一生懸命に飛び跳ねたが、身長差があり過ぎて何も見えない。子供の体が恨めしい!


「さあエリナ様。これをお持ちください」


「持っているだけで良いんですの?」


「はい。やがて文字が浮かび上がりますので、それまで持ち続けて頂ければ」


 エリナが不安そうにこちらを見る。僕は黙って頷いた。同時にジルベルトさんへ釘を刺す。


「エリナが見せるのは一部だけで構いませんね?」


「もちろんだ。私たちは彼女の全てを暴くつもりはない」


 よし。言質はとったぞ。


 スキルを暴かれると言う事は、彼女の弱点を曝け出す事にもなる。強力無比な能力なのは間違いない以上、それを利用しようとする人間もいずれ現れるだろう。だから弱点は誰にも知られない方が良い。


 ……なんて僕が色々と思いを巡らせていると。


「なかなか出ませんわね」


 エリナは痺れを切らして紙をひらひらさせていた。


「だーめだよそれー見えちゃうからぁー!!」


「?」


 僕はすかさず彼女に耳打ちをする。


「……エリナ、あんまり動かすと文字が出ないらしいよ」


「そうなんですの? じゃあ静かに待ちますわ」


 ひらひらが止まった。うん。彼女はその辺のリスクとか全く考えていない。僕がしっかり彼女を守らなきゃだめだ。


 ~10分後。


「あ。出ましたわ!」


「……随分とかかったなぁ」


「驚いた。これ程に時間が掛ったのは初めてだ」


 教員の男性が驚いていた。ジルベルトさんは仏頂面のまま、静かに口を開く。


「エリナ様、一部を見せて頂けますか」


「僕が見せます。 ……エリナ、少し借りて良い?」


「もちろん。クロスには全てを委ねていますもの」


 屈託のない笑顔が眩しい。僕は紙を受け取り、中身を読まないように一番上のスキル名と、やや下の文面だけが残る様に紙を折った。これで重要な部分は見えないだろう。そして覗くジルベルトさんと一緒に文面を読む。書かれていたスキル名は――


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