第8話 待ち人

「お帰りなさい。出張どうだった?」


 …………



「鍵あけっぱにしないで。それから来るなら連絡」



「現場近かったからさ、いいじゃん。風呂も借りたよ」


 勝手知ったるのね。


 風呂どころか、もうビールまであけちゃってんじゃん。




「出張だったんじゃねえの? なにその荷物。明らかにデート帰りじゃん」


「ちゃんと出張してきましたー。ちょっと買い物しただけだもん」



「なんだよ、可愛くすねるなよ。やわらかいほっぺたに触りたくなんだろ」



「やだ祐、私の石鹸使ったでしょうっ。気に入ってるんだからやめて」


 限定だったから、もうあれしかないんだから。




「ほっぺた触るとさぁ、別のとこも触りたくなるじゃん?」


「……疲れてんの」


 首筋のにおいを嗅ぎに来た頭をグイっと遠ざける。



「なぁに? その態度。  そんな冷たいと、ちょっと俺傷つくんですけど」




「ご、ごめん。でも疲れてるのはほんとだから」

 やばい、祐の目が座ってる。

 機嫌が悪くなってきた。



「あ、あのさ。挟むので勘弁して。それも好きだよね?」


「お、それはいい案だが……やっぱりお前の中でイキて―わ」


 頼んだのに、どんと押されて私は簡単にベッドに縫い留められる。


「目隠しと手を縛るのどっち? あぁ、足首と手首繋げようか。ほら、足開けよ」


「やぁっ」



 最初からそのつもりだったくせに。

 ちゃんと縛るもの用意しちゃってるじゃん。



「シャ、シャワーも浴びてないのに」


「そんなんしたら愛美の匂いもとれるだろーが。いいんだよ。俺はのにおいが好きなんだから」



「もう、祐、変態臭いっ」



 最後にシャワー浴びてきたけど、帰るまでに少しは汗かいてて恥ずかしいよ。




「あーもう黙れっ。あんまの騒ぐんなら、口にさるぐつわかませるぞ」


 やだやだそれはいやっ。


 



「おとなしくしときゃ、俺は優しいんだからさ」




 祐が優しかったことなんてない。

 気持ちよくはしてくれるけど。


 痛くはないけれど。



 なんで今日なのよっ。

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