第6話 道晴が絵を描けなくなった理由

俺は昔、キャンバスに筆を振って絵の具を撒き散らす手法の見事な絵を描く事が多くコンテストでも大賞を取ったりしていた事がある。

世間でも相当に認知され俺は有名の階段を登っていた。

のだが.....俺はとある日から一切絵が描けなくなる。


そのとある日とは。

簡単に言えば.....幼馴染が事故に遭って居なくなった日から描けなくなったのだ。

そして描けなくなったと同時に高校の試験も出来なくなり、引き篭もったのだ。

全ての歯車があの日、止まった。


俺は幼馴染が心から好きだった。

とても愛していたのだ。

だけど幼馴染は.....俺の言葉に傷付き事故に遭い引っ越して居なくなった。


そして俺は.....後悔に明け暮れる日々だ。

俺自身がまだクソガキだったのだ。

だから傷付けたのだ.....。


俺は一切話せず.....幼馴染は居なくなってしまった。

何処に行ったかも告げずに、だ。

呪縛で俺はもう何も手が付けられなくなりそのまま.....絵からも全てからもフェードアウトした。


幼馴染をモチーフに何時も絵を描いていた事もあったのでその事も影響しているだろうな.....。

それから今に至っているが.....。


栗葉にはいつか話すつもりだ。

一応、栗葉は.....俺のせいで幼馴染が引っ越した事を知っている。

だけど交通事故の事は知らない。

だから.....いつか話そうと思っている。


その中で俺は.....今、愛花を見ている。

愛花は俺にニコニコしていた。

俺は少しだけ苦笑しながら見つめていると。

怒った様に栗葉が口を出した。


「もー!お兄ちゃん!女子ばっかり!!!!!」


「またお兄ちゃんになってるぞ。栗葉」


「良いの!そんな事は今はどうでも!何でお兄ちゃんの周りは女の子ばかり!?」


「.....俺だって好き好んでこんな状態になっている訳じゃねーよ」


愛花は栗葉を見ながら、貴方煩いですね黙って下さい、とニコッとした。

オイオイ。可愛いのに怖いんだが。

ハァ?、と威嚇する栗葉。

そしてその笑顔のまま俺に向いてきた愛花。

それから要件を出してきた。


「単刀直入に言いますね。.....絵の業界に戻って来て下さい。道晴さん」


「.....嫌だと言ったら?」


「.....私は貴方の才能は見過ごせないです。だから.....お願いです」


「.....」


俺は愛花に事情を説明する。

絵を見ると吐き気がするとか頭痛がするとか。

すると愛花は.....顎に手を添えた。

それから、.....彩飾でもダメですか?、と聞いてくる。

俺は全てに首を振った。


「.....無理だ。あの頃の俺はもう死んだ。もう何も出来ないただのしがない高校生だよ」


「.....そうですか.....じゃあ今度一緒にデートしましょう」


「.....いやちょっと待て。意味が分からないんだが.....何故そこまで飛ぶ」


いきなり何を言ってんだ。

栗葉が、ちょ。ちょ。ちょ!!!!!、と割って来るが。

煩いです、と黙らせる愛花。

だが今度ばかりは黙ってられないと栗葉が、ガルルルル、と怒る。


「私のお兄ちゃんを取らないでくれない!?このビッチ!」


「.....言いましたね?この清楚な私にビッチ呼ばわりとは。このクソガキ」


「おい。今、クソガキって言ったろお前.....」


「あら?言ってないですよ?道晴さん」


今明らかにクソガキっつったな。

俺は額に手を添えながら盛大にため息を何発目か分からないが吐く。

それから狼の栗葉と熊の愛花を見つめる。

何だってこんな事に.....。


「それに!お兄ちゃんは絵が描けないって言ってるでしょ!このビッチ!」


「私は徐々に慣れてもらうつもりです。貴方の様なしょうもないカスよりかは私と一緒に居た方が安全です」


「カスって。.....ストップだお前ら。ここは1年の教室だ。煩い。.....外に出てから戦え」


その言葉に、道晴さん(お兄ちゃん)はどっちの味方なの?、と聞いてきた。

この場合、どっちの味方でも無い。

俺の高校生活を脅かすな。

頼むから。


「.....まあ良いでしょう。いずれは戻って来てもらう為には道晴さんとデートは大切です。いつからデートしますか」


「.....悪いな。愛花。デートなら一切する気はない。俺は.....色々あって人を好きにはなれないから。だから.....デートじゃなくてただの付き合いなら行くよ」


「.....聞いた噂通りですね。やはり.....じゃあデートじゃなくても良いです。付き合って下さい。絵に慣れる為に絵を観に行きます」


「ああ、そういう事なら付き合うよ」


そんな会話をしていると。

栗葉が俺を嫉妬の眼差しで見てきていた。

いや、何でだよ。

思いながら栗葉に向く。


「栗葉。何でそんなに嫉妬しているんだ」


「.....べっつに」


「.....?」


俺は首を傾げる。

それぐらい気付いてよ.....、とも聞こえた気がしたが。

俺は気のせいだろうとそのまま愛花に向いた。

そして愛花に、いつ行くんだ、と尋ねる。

するとこう答えた。


「今週の日曜日でどうでしょう」


「分かった。じゃあその日で」


「有難う御座います。道晴さん」


ちょ。ちょっと!日付を勝手に決めないで!、と話を割ってくる栗葉。

それから.....手を握って俺をジッと見上げてくる栗葉。

潤んだ目で悲しげな顔をしている。

お兄ちゃん。約束、私とも付き合うよね?、と、だ。

俺は、あ?ああ.....、と返事する。


「.....慣れる為の運動の邪魔するつもりは無いから.....私は土曜日で良いから、ね?」


「わ、分かったよ。付き合うから」


何故こんなに必死なのか分からないが。

でもまあそう言うなら付き合おう。

思いながら愛花に向いた。


愛花は、じゃあこれで失礼しますね、と教室を出て行く。

俺は、じゃあな、と見送る。

そうしていると愛花が振り返って栗葉を睨んだ。

警戒する栗葉。


「.....負けないですからね」


「.....私だって」


栗葉は愛花を睨む。

俺は顎に手を添える。

その言葉の意味が分からなかったから、だ。

でも.....何だかかなり冷え込んでいる。

その事だけは分かった気がした。

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