Quest 3-11 まずは一撃
「お金増えたらなに買おうかなー」
手に握りしめた木の賭け札――当然偽造できないよう魔法がかかっている――を眺めながら大金持ちになった未来を想像する。
周りが確勝と疑わず大金を賭けているのと同様にボクたちもリーダーくんの勝利を確信して有り金全部突っ込んだ。
怪訝な顔されたけど同じパーティーだと言えば受け入れるよね、胴元も。
カモが増える分には問題ないんだからさ。
「マナトさんが勝ったら給料10年分マナトさんが勝ったら給料10年分マナトさんが勝ったら給料10年分」
「アリアスさん壊れちゃった」
「仕方ないよ。普通はああなる」
「ラトナはたくさん美味しいものを食べるの! キリカはどうするの?」
「うーん、考えてるんだけど結構ボクって無欲なんだよねー」
リーダーくんやみんながいればそれでいいからなぁ。
……あ、そうだ。
前に彼におすすめしたアレとかいいかもしれない。
今の宿屋暮らしも楽しいけどやっぱり四人だと手狭になってくるしね。
「おおっ、入ってきたぞ」
「あれが冒険者か〜。思ったより若いんだな」
「でも、可哀想だよなぁ。負け試合に出なきゃいけないんだから。こんなので有名人になっても嬉しくないだろ」
「いいじゃねぇか。おかげで俺たちはいい思いできるんだからよ」
「それもそうだ。オレ、かみさんに頼んで3か月分の小遣いぶち込んでやったぜ」
「がははっ! そりゃ酒も美味くなるわな!」
エール片手に幸せそうなおじさんたち。
あ~あ、それが飲めるのも三か月後だよ。しっかり味わってね。
『冒険者ギルドから選出されたのはわずか二か月でDランクまで昇格を果たした【
これから彼が成し遂げることを考えれば少しでも愛想はふるまっておいたほうが良い。
「……あっ、こっちに気づいたよ」
「ホント!? マナトー! 頑張れー!!」
「マナトさーん! 勝ってくださーい!」
隣の二人が大きな声で声援を送る。
他にリーダーくんを応援する人もいないからすごく目立っていた。
普段なら人の目は避けたいけど今日はお祭りだし、なにより彼の華々しいデビュー戦だ。
チームメイトとして、彼を慕う者としてボクも元気になる魔法をかけてあげよう。
「リーダーくん、愛してるよ」
想いを口にして投げキッスをしてあげた。
ふふふ、これで彼の勝ちは100%を超えて120%になったね。
ボクという勝利の女神が微笑んだのだから、ただの勝ちは許さない。
完勝。
望むのはそれだけさ。
「……いつかユウナとキリカの修羅場が起きそうで怖いの」
「心配は不要さ。だって、ボクは彼と結ばれなくても構わないからね」
「そうなの?」
「ああ。ボクは死ぬまで彼のそばに居れたら、それでいいのさ」
さて、ボクのご主人様の雄姿を見届けるとしようか。
だから、ラトナ。
君のその不審人物を見るような目はスルーしてあげるよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
優奈、ラトナ、アリアスさん、キリカ。
みんなからパワーをもらった俺は宮城と向かい合っている。
今回の試合。審判を務めるのは他の誰でもない。
【最強】セシリア・アルキメスだ。
彼女は司会席の隣でこちらに厳かな視線を注いでいた。
「おい、なによそ見してんだよ」
「ああ、悪い。お前の顔を視界に入れたくなかったんだ」
「もったいねぇな。こんな近くで拝める機会は今後ないぜ? 手を合わせてお辞儀でもしたらどうだ?」
「大金積まれても見たくねぇよ。お前レベルの男の顔なんてさ」
バチバチと視線がぶつかり、火花が散っている。
普段ならこんな口喧嘩には付き合わないが、こいつばかりは話が違う。
一切遠慮をしなくていい男。
世間からの評価は確かにお前の方が上かもしれない。
だけど、それも今の内だ。
正面からぶつかって伸びきった鼻を叩き折ってやるのはせめてもの情け。
ちょっとでもしおらしくなれば今後生きやすくなるだろうさ。
感謝してほしいのは俺の方だね。
『それではただいまよりルールを説明させていただきます!』
このまま放っておけば開戦の合図もなしにおっぱじめそうな雰囲気だったが、司会による観衆への説明が入る。
『武器、魔法、スキルはすべて使用可能! 禁止されているのは命を奪う行為のみ! それ以外なら何をしてもいいという冒険者が有利な舞台となっております!』
宮城は【勇者】の立場上、ふさわしい振る舞いと高い方が求められる。
それゆえに多彩な手段をとれる冒険者側のが有利になっているわけだ。
単純に運営が実力差を考慮したハンディでもあるが。
『片方が気絶。もしくは降参した時点で試合は終了! そして、ジャッジを下すのは我らが誇る【最強】――セシリア・アルキメス様だぁぁぁ!!』
民衆の歓声に立ち上がって応えるセシリアさん。
やはり彼女の人気はすごい。
そして、目の前の男も同じ立ち位置まで登り詰めようとしている。
性格も腕も全然足りないないけどな。
「なぁ、江越。いいこと教えてやろうか?」
断ってもどうせ勝手に話し出す。
視線で続きを促した。
「あそこにいるアルキメスさんはな、俺の剣の先生でもあるんだ」
知ってるよ、言うことの聞かない生徒だって愚痴られている。
「俺はお前が到達できない高みにいる。この事実が理解できるか?」
「…………」
「適当に打ち合ってやるから降参しろ。ほら、構えろよ」
俺たちが構えをとれば試合開始のゴングが鳴る。
宮城の名声を高めるただのお披露目行事だ。
さっさと終わらせたいのがよくわかる。
俺たちの会話が聞こえないからって言いたい放題。
だけど、あいにく俺はやる気に満ち溢れている。
「宮城。お前はあの日、俺に地獄を見せてくれたよな」
「なんだ? 恨んでるのか?」
「いや、俺は感謝してるんだ。おかげで俺は生まれ変われた」
ぎゅっと拳を握りしめる。
皮はめくれ、丸みはなくなり、汚れてしまった。
だけど、俺は今の方が好きだ。
「だから、お礼にお前にも見せてやるよ」
自慢の拳を突き出して、いつも通りのスタイルで構える。
「本当の地獄ってやつをな」
「……ぷっ……あははは! お前が? 俺に地獄? いつまで夢見てんだよ、てめぇは!」
「夢見ているのはお前だ。俺が現実を叩き込んでやるからしっかり覚えて帰れ」
「ほざくなよ、無能が……! 【
奴の手に大剣が握りしめられる。
見せつけるように何度か振り回すと剣先をこちらに向けた。
構えだけは一人前。見せかけだけは本当に立派だよ。
かつては恐怖を覚えた大剣にも使い手が宮城じゃ迫力を感じない。
木の枝を持ったセシリアさんの方が脅威に感じるくらいだ。
「お前の剣がかわいそうだ」
「……どういう意味だ?」
「使い手が三流のせいで宝の持ち腐れってことだよ」
『それでは交流試合――はじめ!!』
「江越ぃ!!」
開戦と同時に飛び出した宮城。
頭に血が昇った直情的な攻撃。
ただ躱すだけなら簡単だが、それでは観客もつまらないだろう。
奴の自信を完膚なきまでに叩き潰す。
宮城修司という人間をここで一度殺す。
そのためにも一発で終わらせるわけにはいかない。
そうだな……30%程度でちょうどいいか。
大きな反動をつけた大剣による袈裟斬り。
タイミングを計って俺も懐に入るように前へと踏み込んだ。
「なっ!?」
密着することで宮城が【大英雄の剣】を振り下ろしても刃は俺を斬れない。
自ら接近して間合いを殺す動きに驚く宮城。
対人戦も、対魔物戦も経験が全く足りないから容易に対応される。
「次は俺の番だ」
「ちっ! 調子に乗る――っ!?」
脚を股下に割り込ませて退かせない。
無理に動こうとしても筋力で負けているのでバランスを崩して倒れるだけだ。
傾いていく体に宮城の表情が驚愕に染まる。
「――
その隙だらけの顔面に拳を叩き込んだ。
「まずは一撃」
物理法則を無視して吹き飛ぶ宮城。
鮮血が宙を舞う。
さぁ、地獄の幕開けだ。
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