Quest 2-7 二人の目指す道
無事にクエストをクリアした俺たちは新パーティーでの初クリアとキリカの参入を祝うことにした。
熱々のステーキやホクホクの野菜、味わい深いスープ。
美味を堪能し、どんちゃん騒ぎをした疲れから宿についてすぐ眠った。
そう、そこまでは覚えている。
「……なんで?」
問題はどうして隣でキリカが眠っているか、ということだ。
ちょっと待て、ちょっと待て。
全く思い出せない。お酒は飲んでいないのに情けない脳みそである。
優奈とラトナはどこに行ったんだ?
まだ寝ているのか?
場の空気に酔っていたからまだ隣のベッドにいる可能性は高い。
「と、とにかくここから出ないと……」
俺はそっとベッドから抜け出ようとする。
しかし、件の少女によってそれは妨げられた。
「うぅ……んっ……」
足を絡ませて、ぎゅっと腕に抱き着いてくるキリカ。
慎ましやかとはいえ確かに感じる膨らみ。柔らかさ。
意識しないわけがない。
不幸中の幸いなのは彼女が服を着ていたという事実か。
「キ、キリカさん……?」
「すぅ……すぅ……」
返ってくるのは規則正しい寝息だけ。
人生のゲームセットは避けられた。
よぉし、落ち着け。
まず確認すべきは優奈たちの存在だ。
細心の注意を払って寝返りを打ち……視線の先にあったのは空っぽのベッド。
「ふぅぅぅぅ……」
とりあえず生き残った。
最大の危機を乗り切ったおかげで冷静さを取り戻す。
……思い出してきたぞ。
俺は童貞を失っていない。そもそもキリカは俺たちとは別の宿に泊まっているからと言って別れた。
なのに、ここにいるってことは日をまたいでから来訪したのは決定的。
そして勝手に部屋に入れないので優奈たちが中に入れてあげた。
証明完了。
「俺は無実だ……!」
そうと決まればさっさと離れよう。
あらぬ誤解を生まないためにも迅速な行動を……!
「おいていかないで……」
「…………」
キリカのつぶやきは俺を止めるには十分すぎる効果を持っていた。
どうやら寂しがり屋が起きるまで、この態勢でいることが確定した。
もうどうにでもなーれ。
やけくそ気味に開き直った俺は思考を放棄する。
隣の彼女にならってまどろみの世界へと落ちた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ごめん、リーダーくん! 迷惑をかけてしまった」
目の前で手を合わせて平謝りするキリカ。
あれから彼女が目覚めたのはお昼頃。
その間に優奈たちは帰ってこなかったわけだが、キリカによれば二人は街へと買い物に繰り出したらしい。
ちょうどご飯を食べるにいい時間だったので、俺たちは食堂で腹を満たしていた。
「いやぁ、遊びに来たら二人に留守を任されたんだけどね。寝不足だったのもあって、そのまま二度寝してしまったというわけさ」
「……一応聞きたいんだが、なんで同じベッドを選んだんだ?」
「それは……乙女の秘密だね」
「恥ずかしい理由か」
「言及しないのが優しさだよ!」
どうやら正解らしい。
彼女の言葉に従って、この話題はもう終わりにしよう。
「……で、どうするの? 僕たちも出かけるかい?」
「ダンジョンも入れないしな。案内とかってできたりするか?」
「得意分野だよ」
そう言ってキリカはニカッと笑う。
俺たちの行動方針も決まった。
王都は王宮がある中央区を中心として二分割されている。
正門に近い半分を商業区、残りが住居区。
俺たちが泊まる宿は商業区にあって、キリカとぐるりと一周する形で観光していた。
「たまには、こうしてゆっくりするのもいいな」
最近は休みもなかったし、久々に羽を伸ばせる。
露店で買ったパンをかじりながら、新鮮な景色を楽しんでいた。
「そうか。リーダーくんは冒険者だからあまりこっちまで来ないよね」
「キリカは違うのか?」
「ボクは一時期住んでいたからね。前のパーティーでマイホームを買ってさ」
「マイホーム?」
「冒険者もずっと宿暮らしってわけにはいかないだろう? だから、都市に定住すると決めたら家を買ったりするんだよ」
収入も少なかったからボロい物件だったけどね、とキリカは恥ずかしそうに笑う。
マイホームか。
今までは余裕がなかったけど、もうDランクだもんな。
「そういう選択肢もあるのかぁ」
「リーダーくんは王都に住みたいのかい? ボクとしてはオススメだけど」
「……いや、ここではマイホームは買わないと思う」
「どうして?」
「俺はもっと最前線に行くつもりだからな」
先生たちのあとを追いかけたいのも理由の一つ。
それ以上に力を与えてもらった者の使命として魔王を倒したい気持ちがある。
もっと多くの人々の命を救う。
守りが固められている王都よりも最前線を目指すのは俺にとって至極当然の考えだった。
「それはユウナたちも知っているのかい?」
「ああ。魔王を倒す。それが俺たちの最終目標だからな」
「……へぇ、そうなんだ」
「そういえばキリカには伝えてなかったよな。……ついてきてくれるか?」
俺の問いかけに彼女は即答しない。
いつもの飄々とした様子も感じられない。
どこか思いを馳せるように空を見上げる。
「最近の子はすごいよね。魔王を倒すって意気込んでさ。みんな当たり前に言ってる」
「キリカは違うのか?」
「ボクはそういうのはいいかな。楽しく、笑いあえていればそれでいい」
「……憧れの人に追いつきたいってのは?」
思わずアリアスさんに聞いた話を投げかけると、ピタリと彼女の足は止まる。
俺たちだけ時間に取り残されてしまったみたいに動かない。
「……すまん。悪いことを聞いた」
「いいよ。もうずっと昔のことだしね。それに珍しくボクに関わって生きているから」
「……会ったりしないのか?」
「しないよ。今は何してるんだろうなぁ」
そう言うキリカの瞳には哀情が混ざっていた。
……天邪鬼め。
聡明な彼女はきっと自分の気持ちを理解して遠ざけている。
だけど、それを俺が指摘するのもまた違うのだろう。
いつか彼女自身が向き合うときに、少しでも背中を押してやればいい。
「はいはい、もうこれで終わり。ボクにじめっぽいのは似合わないや」
「……だな。商業区に行くか。にぎやかだろうしな」
「そうしよ、そうしよ。ほら、リーダーくん行くよ!」
「あっ、おい! 急に走るなって!」
キリカは俺の手を取って駆け出す。
夕方になって宿に戻るまで俺たちの手は離れなかった。
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