第195話 作戦

その後も、桜と公園のベンチに座り、話をしていたんだけど、大きな問題がいくつかある。


千歳の着替えは、クローゼットの中にあるとしても、どれを持って行けばいいかもわからないし、就職先に提出する書類がどこにあるかは見当もつかない。


「『机の引き出しにある』って言ってた」


とは言われたものの、どこの引き出しなのかもわからないし、正直めんどくさい。


親父に会わせないようにしながら荷物を持って行くしかないんだけど、ジムは隣だし、親父は防犯もかねて、頻繁に家を出入りするから、正直言って隙がない。


桜も同じことを考えていたようで、頭を悩ませるばかりだった。


「どうすっかなぁ…」


桜と二人で考えていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえ、振り返るとスーツ姿の智也が歩み寄ってきた。


「あれ? 二人で花見?」


「違う!」


桜はそう言った後、智也に事情を話すと、智也は『フフン』と言わんばかりに声を上げた。


「俺の助けが欲しい系?」


「お前に助けられんの?」


「実はさ、俺、英雄さんに『HP作ってくれ』って頼まれてんすよ。 うちの会社、そういう系だから。 今度、ジムオーナーとトレーナーの写真を撮影しに行くんだけど、英雄さんの時に時間かけて、ちーがその隙に自分で荷物まとめれば問題ないっしょ!」


「ちなみにそれっていつ?」


「今度の火曜っす。 カズさんと桜ちゃん、仕事休みっすよね? 所属プロ選手として、二人の写真も載せようと思ってたから、火曜にしたんすよ!」


智也は自信満々で胸を張りながらそう言い切り、小さな不安が頭を過ったけど、それ以外に方法はなさそうな感じ。


桜は歓喜の声を上げ、作戦の詳細を話し合っていた。



翌週の火曜。


桜は近所のパーキングに車を停め、千歳と二人で待機。


ジムで親父と吉野さん、高山さんと話していると、智也が撮影機材を抱えた二人と仲に入り、親父の写真を撮影し始めたんだけど、智也が細かく指示を出し、親父の視界に千歳の部屋が入らないようにしていた。


「英雄さん! じゃあファイティングポーズ取りましょうか!!」


親父は『流石元世界チャンプ』と言いたくなるくらい、リングの上でファイティングポーズをとると同時に表情を作る。


「はい! じゃあ次は笑顔ください!!」


「笑顔の時はリングから降りましょうか!!」


「グローブつけましょう!!」


智也の声が響き渡る中、親父は1時間以上も言われるがまま。


しばらくすると、千歳の部屋から桜が大きく手を振り、少し後に撮影が終わっていた。



すると、親父がふと思い出したように切り出した。


「あれ? 桜は?」


ふと見ると、桜は千歳の部屋で何かをしている。


『あのバカ! さっさと出てけよ!!』


「お、親父! さっきの写真、チェックしなくていいのか?」


慌てて親父に切り出すと、智也は慌てたようにノートパソコンを広げ、親父とともに写真を選び始める。


『あっぶね… 早く出てけよ…』


千歳の部屋と親父を交互に見ながら、早く出ていくことを祈っていた。



しばらくすると、桜と千歳は部屋を後にし、ホッと息をつく。


「カズ、桜に電話してすぐに来るように言えよ」


親父に切り出され、桜に電話をすると、桜ではなく、千歳が電話に出ていた。


けど、ここでばれたら元も子もない。


電話に出たのが『千歳』だとバレないように、切り出した。


「あ、桜? 今どこ?」


「桜ちゃん、運転してるよ」


「ね、寝起き? いつまで寝てんだよ?」


「運転してるって」


『悟れよ!!』


軽くイライラしながら千歳と話し続け、結局桜が来ないまま撮影を終えていた。



この日以降、千歳は桜とルームシェアを始めてしまい、『置いて行かれた感』でいっぱいになってしまう。


『千歳が高校卒業したら出ていこうと思ったけど、まさか先を越されるとは…』


そんな風に思いながら毎晩のように、一人で酔いつぶれていた。

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