第191話 バレンタイン
千歳とリストバンドの交換をした数日後。
高校生最後の学期が始まり、千歳は松葉杖生活を終え、リハビリと就職先である秀人さんの知り合いの『倉田さん』に会いに行くようになっていた。
俺も自宅に戻り、留学手続きとトレーニングに時間を取られてしまい、思うように動くことができずにいた。
そのまま数週間が過ぎ、千歳と学校へ行った昼休み。
学に呼び出され、部室に行くと、俺のロッカーの前には段ボールが置かれ、中には大量のチョコが入っている。
「何あれ?」
「チョコっすよ。 今日バレンタインじゃないっすか。 1年の奴らが、『奏介さんに渡してくれ』って押し付けてきたんすよ」
「いらねぇよ?」
「そう言うと思って、ちゃんと言ったんすよ? 『千歳さん以外のチョコは受け付けないはずだ』って。 でも、ダメでした。 あれ、どうします? このまま捨てます?」
「いや、返しに行くよ。 黙って捨てるのは悪いだろ?」
「優しいっすねぇ…」
学から呆れたように言われ、黙ったまま段ボールを持って学の教室へ。
段ボールを教壇に置き、『受け取れない事』を告げても、誰も取りに来ようとはせず、そのまま自分の教室に戻っていた。
放課後。
玄関で千歳のことを待っていると、またしても女子生徒からチョコを押し付けられそうになり、断り続けながら千歳を待っていた。
すると、千歳は今朝は持っていなかった大きな紙袋を持って俺の前に。
不思議に思いながら千歳に切り出した。
「何それ?」
「チョコ。 女子陸上部の子たちがくれた。 奏介は何個もらった?」
「全部断ったよ。 しっかし、すさまじい量だな…」
「カズ兄はこの5倍貰ってたよ」
「カズさん、男から見てもカッコいいもんな。 学生時代は相当モテたと思うよ」
そう言いながら千歳の持っていた紙袋を持ち、ゆっくりとバス停に向かって歩き始めた。
バスに揺られた後、話しながら歩き、千歳のおじいちゃんの家の前で袋と交換するように可愛くラッピングされた袋を手渡され、思わず驚いてしまった。
「これってさ…」
「カズ兄に教わりながら、美奈たちと作ったんだ」
思わず笑みが零れ、嬉しさのあまり抱きしめたい衝動に襲われる。
「やべぇ… トレーニング、さぼっていい?」
「ダメだよ。 父さんに殺されちゃうから」
「ちょっとだけなら大丈夫じゃね?」
「ダメ! さっさと行け!」
千歳に強く言い切られ、不貞腐れることしかできなかった。
「しゃーねーなぁ… 夜、ラインする」
そう言った後に走り出し、自宅に向かっていた。
家に着くと、親父からメールで【今日は遠方で接待だから遅くなる】と受信していた。
返信をしながら千歳からもらった小さなチョコケーキを1つだけ食べ、嬉しさに包まれていた。
ジムでのトレーニングを終えた後、千歳にラインをしてから駆け出し、千歳のおじいちゃんの家へ。
おじいちゃんの家の前につくと、千歳は俺を見るなり、笑顔を向けてくる。
急いで千歳に駆け寄り、息を切らせながら切り出した。
「うち行こ」
「え? なんで?」
「千歳が欲しい」
「駄目だよ。 テストまで1か月切ったよ?」
「今回だけ! 今回だけ目瞑って!」
「今回だけって… お父さんいるんでしょ?」
「遅くなるって言ってたから大丈夫」
「途中で帰ってきたら怖いから嫌だ。 …テスト終わったら、おじいちゃんたち『旅行に行く』って言ってたから、それまで我慢しよ? ね? 今は、コンビニなら付き合う」
千歳に説得するように言われ、軽く不貞腐れながら手をつなぎ、ゆっくりとコンビニに向かって歩いていた。
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