第155話 不器用

宿舎に戻った後、みんなは体育館でストレッチをしていたんだけど、千歳は英雄さんに駆け寄り話し始める。


少し話した後、英雄さんは俺のもとに駆け寄り切り出してきた。


「足、攣ったんだって?」


「はい。 でも、もう大丈夫です」


「これからロードワーク行くけど、念のため休んでろ」


英雄さんはそう言った後、みんなと共にロードワークに行き、俺は朝食の準備をしているカズさんと桜さん、千歳と薫の手伝いをしていたんだけど、星野が起きてこない。


「星野は?」


「生理痛がひどいんだとさ」


朝食の準備を終えた後、薫に切り出したんだけど、桜さんが呆れたように答えるだけ。


その後、みんながロードワークから戻り、朝食をとった後にトレーニングが始まったんだけど、俺は昨日に引き続き、光君とマンツーマン。


『なんで光君とマンツーなんだろ?』


不思議に思いながらミット打ちをしていたんだけど、光君はマンツーマンでついているせいか、細かい部分までもを丁寧に教えてくれていた。



しばらくミットを打っていると、英雄さんが大声で切り出してきた。


「ちー! 奏介! スパーやれ!!」


光君に肩を叩かれながらリングに上がったんだけど、千歳を殴ることができず、グローブばかりを狙っていた。


けど、千歳はパンチが当たる瞬間、ガードを引き、自らパンチを貰いに行ってしまう。


『なんで? なんでパンチを貰いに行ってんの?』


千歳の行動で、パンチを出すことが怖くなってしまい、必死に千歳のパンチをガードし続けてた。


千歳のパンチをガードし続けていると、突然、右肩に衝撃が走り、ガードごと吹き飛ばされる。


『左ハイキック? 全然見えなかったぞ…』


その威力に呆然としながら肩を抑えていると、英雄さんが抑える中、千歳は怒りを抑えきれない様子で俺に言い放つ。


「ボクサーなんだからちゃんと殴り合えよ!!」


「だって、相手は千歳だろ!? 女を殴ることなんかできねぇよ!!」


「甘っちょろい事言ってんじゃねぇよ!! リングに立ったら対等だろ!! 自分で『対等になりたい』っつってきたんだろ!? だったらちゃんと殴り合えよ!!」


『そういう意味で言ったんじゃねぇよ…』


小さくため息をつき、英雄さんが必死で抑える千歳を眺めていたんだけど、千歳はかなり苛立っているのか、英雄さんだけでは抑えきれない様子。


すると、桜さんがリングサイドに立ち、小声で俺に切り出してきた。


「夕べ話してたんだけど、千歳、自分より強い男じゃないと、英雄さんが認めてくれないから嫌なんだって。 彼氏のポジションが欲しかったら、ちゃんと殴り合って、ダウンさせなきゃだめだよ?」


「けどさ…」


「けどもクソもないの。 千歳はあんたに自分よりも強くなってほしいんだよ。 だから、あんなに必死でブチ切れてるの。 ほかの誰でもない奏介にね。 つまり、どういうことかわかる?」


「…彼氏になってほしいって事?」


「そういう事。 不器用だから、あんな形でしか伝えられないんだよ。 わかったら、全力で行ってこい」


桜さんに背中を押され、リング中央に行くと、千歳は俺を睨みながら構え始める。


『…どうなっても知らねぇかんな』


覚悟を決めながらリング中央に行き、千歳とグローブを合わせていたんだけど、千歳は体が小さいし、ちょこまかと動き回るせいで、狙いが定めにくく、パンチが当たらない。


『んのやろ… ジッとしてろ! この馬鹿!!』


何度もパンチを繰り出したんだけど、尽く躱され、弾かれてしまい、思わず千歳に抱き着いた。


英雄さんに引き剥がされてはパンチを繰り出し続け、千歳のパンチを食らいまくる。


『すげー… 面白いくらいに当たんねぇし、狙いがわかんねぇ… どこを狙えば当たってくれんの?』


次第に何も聞こえなくなり、千歳の動きに集中していると、千歳の視線が俺の右ボディを一瞬だけ見てくる。


『右ボディ!』


そう思った瞬間、またしても右肩に衝撃が走り、体勢を崩してしまった。


「あ、ごめん。 ついつい左ハイキック撃っちゃった」


「ごめんじゃねぇよこの馬鹿! フェイントで左ハイキック撃ってんじゃねぇよ!! ボクシングで勝負だろうが!!」


「だからごめんって言ってんじゃん!! 裸足だからついつい撃っちゃうんだって!」


英雄さんが宥める中、痛む右肩を抑えながら千歳と言い合いをし続け、みんなの笑い声に包まれていた。

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