第113話 邪魔
千歳と光君は、そのまま立ち話をしていたんだけど、光君は千歳の頭を撫でたまま、手を離そうとはしない。
あまりにも苛立ち、千歳を押しのけるように立った後、光君に切り出した。
「初めまして。 英雄さんにお世話になっている菊沢奏介です」
「君がか。 カズから噂は聞いてるよ」
「噂って何すか?」
光君が何かを言おうとした瞬間、いきなり背後から突き飛ばされ、壁に叩きつけられ、振り返ると怒りに満ちた表情の桜さんが立っていた。
「邪魔。 いつまでもんなとこ立ってんじゃねぇよ」
桜さんはそう言うと、千歳の腕に腕を絡ませ、千歳とリビングの奥に行ってしまう。
「大丈夫か?」
光君は笑いを堪えながらそう聞き、俺の肩をポンポンと叩いた後、英雄さんの隣に座っていた。
仕方なく、凌の隣に座ったんだけど、俺が座った途端、英雄さんが光君に切り出していた。
「凌も初めてだよな?」
「そうですね。 凌君の階級は?」
「今はライトなんですけど、スーパーフェザーに変えようと思ってます」
「え? なんで?」
思わず会話に入ってしまうと、凌は呆れたように答えていた。
「だってさぁ、ライト級ってただでさえ人口多いじゃん。 しかも、ヨシ君と奏介もいるんだろ? 勝つ見込み無いじゃん。 やるからには世界チャンプ狙いたいし、智也君もそれが原因でスーパーライトにしたし。 二人が居なくなれば、2階級制覇も夢じゃないじゃん?」
「甘いな…」
英雄さんと光君は、二人で声をそろえはじめ、気が付くと、4人でボクシングの話をし続けていた。
しばらく話していると、光君が思い出したように、桜さんとカズさんの3人で話していた千歳に切り出す。
「キックの試合、出るんだって?」
「はい… まぁ…」
「左ミドルは健在?」
「いやぁ… どうでしょうね…」
さっきまで桜さんと普通に話していた千歳は、急に口ごもり始める始末。
光君からの質問を、千歳は口ごもりながら躱していたんだけど、その表情を見ているだけで、苛立ちが募ってしまう。
「そんなに気になるなら見に来いよ。 5日からキックの練習始まるぞ」
英雄さんが切り出すと、光君は興奮したように声をあげていた。
「マジっすか! 絶対来よ!」
「左ミドル、やばかったんすか?」
凌が光君に切り出すと、光君は何度も頷き、凌が切り出した。
「左ハイキックじゃなくてミドルっすか?」
「え? ハイキックもすごいの?」
「男を1撃ダウンさせてましたよ? くらった男が、勢い余って転がって、リングアウトしてました。 そういや、奏介も食らったんだよな?」
凌の言葉を聞き、みんなの視線が俺に向いていたんだけど、千歳はそっぽを向くばかり。
「ど、どうだったかなぁ? 忘れちった!」
苦笑いを浮かべながらそう言い切ると、千歳が立ち上がり、凌の首根っこをつかんでキッチンに向かっていた。
数分後。
千歳は満足そうな表情でリビングに戻ってきたんだけど、その少し後に凌は俯き、目を潤ませながら俺の隣へ。
『泣かされたんだ…』
黙ったまま凌の肩を叩き、普段よりも小さく縮こまっている凌の隣で、英雄さんたちと話し続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます