第96話 天才
ケーキを食べた後、千歳は『じっとしてられません』と言わんばかりに部屋に行き、階段を駆け下りてきたと思ったら、玄関を閉める音が聞こえてきた。
奏介は千歳の行動が気になるようで、親父に切りだしていた。
「千歳、ロードワークですかね?」
「ジムじゃねぇか? サンドバック蹴りに行ったんだろう」
「見に行ってもいいっすか?」
「俺に言うなよ」
親父は笑いながらそう言っていたんだけど、奏介は痺れを切らせたように立ち上がり、ジムへと向かっていた。
凌と畠山も奏介を追いかけると、桜が呆れたように切りだしてくる。
「千歳、休むことも大事なのに…」
「ジッとしてらんないんだろ。 初の公式戦だしな」
「そういえば、カズ兄は試合出ないの?」
「店が忙しくてトレーニングできてないからなぁ。 今出ても瞬殺されるだろ」
「千歳と同じ試合に出ればいいじゃん」
「プロだから出れねぇんだよ。 ま、気が向いたら考える」
その後、親父と桜の3人で、ジム員の話になったんだけど、奏介の成長が凄いようで、親父は絶賛していた。
「奏介は努力家だし真面目だし、このままいけば、あいつは将来、世界チャンプになるかもな。 ただ、純粋すぎるのがネックなんだよなぁ…」
「ああ。 フェイントに引っ掛かりまくるもんね」
「基本的に、疑うことをしないだろ? その結果、田中につけられたしなぁ…」
親父が不安そうに言い切ると、桜が不安を吹き飛ばすような口調で切り出した。
「ま、いいんじゃない? まだ高校生だし、これからでしょ。 ヨシ君に相当痛めつけられてるし、奏介はこれからだよ!」
「そうか? 変な女につかまらなきゃいいけどなぁ…」
「千歳だったら安心じゃない?」
桜がはっきりと言い切ると、親父は言葉を失ったように水割りを飲み込んだんだけど、桜はそんなことを気にせず、平然と切り出した。
「千歳なら奏介も安心できるし、スパー相手になるから世界チャンプに近づけるっしょ」
「スパーし合う彼氏彼女って嫌だな」
「えー? そう? それで夢が叶うなら良くない? 千歳もキラキラでピカピカ見れるし。 喧嘩したらリングでケリつけられるじゃん」
「そう思うのは桜だけだろ?」
はっきりとそう言い切ると、親父は不貞腐れたように自室に籠ってしまう。
母親はそんな親父の背中を見て、呆れたように切り出した。
「桜ちゃん、あんまりお父さんをいじめないでね? お父さん、奏介君のことを本当の息子だと思ってるのよ。 ヨシがふざけ過ぎるから…」
「あ~。 ヨシ君って英雄さんに似てるよね?」
「昔のお父さんそっくりよ? 小さいときから『天才』って言われて、調子に乗って、何度もいろんな人に怒られてたのよ。 カズが生まれて、日本に戻ってからは別人になったようにトレーニングばっかり。 ヨシを見てると、昔の自分を見てるみたいで嫌なんだろうね。 ヨシは正真正銘の天才だから。 実体験で『どんな天才でも、トレーニングを続ける努力家には敵わない』って思ってるから、奏介君みたいな真面目な努力家を推したくなるんだろうね」
「なるほどねぇ… おばさんは奏介と千歳がくっついたらどう思う?」
「それは本人が決めることでしょ? 私たちがなんて言おうが、気持ちまでは変えられないじゃない」
その後も、二人は女子トークに花を咲かせてしまい、居ずらくて仕方なく、さりげなく自室に戻っていた。
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