第94話 夢

買い物を済ませた後、映画を見ていたんだけど、映画の内容がいまいち。


試合のシーンはよくできてると思うんだけど、主演男優のトレーニング不足が目立ってしまい、期待外れのまま映画を終えていた。



映画を終えた後、少し遅い昼食を食べながら映画の話をしていたんだけど、千歳も同じことを思ったようで、「動きが堅かったね。 ヨシ兄の方が断然強い」と言い切っていた。


昼食を食べた後、スポーツ用品店をはしごしていたんだけど、全身の痛みが引いていくのがわかり、普通に歩けるように。


新しい黒いグローブとバンテージを買い、千歳はアンクルサポーターとバンテージを買っていたんだけど、会計を済ませると、千歳が切り出してきた。


「ジム行って試してみる?」


「ジムかぁ… どうしようかな…」


「早めに慣らしておいた方がいいんじゃない?」


屈託のない笑顔でそう言われてしまうと、『二人でいたい』と言葉に出すことができず。


「そうするか」


渋々、千歳の言う通り、ジムに向かっていた。



ジムにつき、更衣室でカズさんにもらったトレーニングウェアに身を包んだ後、2階に上がると、リングの上では凌と智也君がスパーリング中。


買ってきたばかりのシューズを履いたんだけど、店で見た時よりもかっこいいし、千歳と二人で選んだことが嬉しすぎて、自然と顔がほころんでしまう。


少し後に、トレーニングウェアに身を包んだ千歳がジムに現れたんだけど、千歳の顔を見た途端、大はしゃぎしたい気持ちに襲われてしまい、高鳴る胸を抑えきれず、千歳に切りだした。


「やべぇ! マジかっこよくね!?」


「よく似合ってるじゃん」


「マジで?」


「ま、黒が似合わない人はいないけどね。 バンテージ巻いてあげる」


千歳はそういった後、新しいバンテージの封を開け、俺の手に巻き始めた。



『いっつも一言多いんだよなぁ…』



そう思った瞬間、いつかカズさんに言われた言葉が頭を過る。


【照れ隠しで減らず口叩いてるだけ】


『照れ隠し』と思っただけで、千歳の減らず口ですら愛おしくなってしまった。


真剣な表情でバンテージを巻いてくれる千歳は、誰よりもキラキラと輝いて見え、幼いころの記憶を呼び戻してくれる。



『あの頃、本気で世界チャンプになりたかったんだよな… 千歳の真似をしたら、英雄さんみたいになれるんじゃないかって、本気で思ってたんだよな… かなり遠回りしたけど、今、ここにいることが嘘みてぇ…』



黙ったまま真剣な表情の千歳を見つめていると、グローブを嵌め終えた千歳が切り出してきた。


「きつくない?」


「大丈夫だよ。 しっくりいってる」


「バンテージ、早く自分で巻けるようになりなよ?」


「千歳に巻いてほしいんだよ」


そう言った後に立ち上がり、サンドバックの前に立つ。


しばらくサンドバックを殴っていると、ヨシ君が切り出してきた。


「奏介、遊ぼうぜ」


「うっす。 何ラウンドやります?」


「あ~。 適当」


「了解っす」


リングの上に立ち、ヨシ君とスパーリングをし始めたんだけど、以前だったら、1撃でダウンしていたヨシ君のパンチは、余裕でガードできるようになったし、躱すことも苦ではない。


3分間のスパーリングを終えると、ヨシ君が切り出してきた。


「相当撃たれ強くなったな」


「マジっすか?」


「ああ。 もっとフェイントを組み合わせて、ノーモションパンチも普通に出せるようになれよ」


ヨシ君の指導で、フェイントやノーモーションパンチの出し方を教わっていると、英雄さんが近づき、ヨシ君と二人で指導を始め、夢のような一時を過ごしていた。



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