第62話 勧誘

千歳がリングを降りた後、部員たちはトレーニングを再開し、俺はヨシ君相手にミット打ちをさせてもらっていた。


パンチを繰り出すたびに、ヨシ君は「うぇ~い」と言いながらミットでガチ殴りを繰り返し、すぐ横で見守っていた英雄さんは、大きくため息をついていた。



休憩中、周囲を見回すと、千歳の姿がなかったんだけど、英雄さんが歩み寄り、俺に切り出してきた。


「奏介だったっけ? 広瀬に居たよな?」


「はい」


「ビギナーコースじゃ筋トレだけだろ? なんで広瀬にしたんだ?」


「英雄さんがいらっしゃるって聞いたので…」


「俺が?」


「はい。 かなり昔、ミット打ちさせていただいたんです。 その時にめちゃめちゃ感動して…」


「あー、東帝の体験会の時か! あの時はしょっちゅうやってたからなぁ! そうか。 お前も来てたのか!」


納得したように何度も頷く英雄さんに、『違います』とは切り出せずにいると、英雄さんが再度切り出してきた。


「広瀬からうちに移籍するか?」


「え? 中田ジムにですか?」


「ああ。 広瀬に高い金払って筋トレだけしてたんじゃ割に合わないだろ? ま、お前次第だけどな」


「来ます! 来たいです!!」


「親に話して、今度来てもらえよ。 詳しいことは俺から説明するから」


「今来させます!!」


英雄さんの言葉に興奮し、すぐに親父に連絡をした。


親父は本当にすぐに来てくれて、英雄さんとともに1階へ。



その間、休憩時間になったんだけど、部員たちは中田ジムの面々と話しはじめ、薫は女性に話しかけられていた。



しばらくヨシ君と話をしていると、智也君がヨシ君に切り出してきた。


「つーかさ、引っ越しってどうなるの?」


「ああ、あれな。 親父とガチ勝負できるくらい強いし、今回は大丈夫なんじゃね? あれ? そういやちーは?」


「帰ったんじゃね? どっちに帰ったかは知らねぇけど」


「じいさん家かな?」


ヨシ君がそう言い切ると、親父と英雄さんが2階に上がってきたんだけど、親父はうれしそうな表情で英雄さんと話し、笑顔で切り出してきた。


「奏介、来週から中田ジム入会できるぞ。 それまでは体験入会扱いにしてくれるから、明日から通って大丈夫だ」


「マジで?」


「ああ。 広瀬はこっちで手続しておくから、安心して英雄さんに指導してもらえ。 英雄さん、ビシバシ指導して下さい! よろしくお願いします!」


親父の言葉を聞き、うれしさのあまりガッツポーズを取っていると、畠山君が羨ましそうに見てくる。



トレーニングを再開し、ヨシ君にボコボコにされまくった後、部活終了の時間になったんだけど、英雄さんが切り出してくれて、そのまま隣にある自宅へ。


みんなと自宅に行ったんだけど、キッチンでは和人さんがケーキをカットし、お母さんはお皿やコップを準備しているだけ。


『千歳がいない… じいちゃんの家に帰ったのかな…』


少し残念に思いつつも、リビングに案内されていた。

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