第60話 隠し玉
翌日。
朝から学校へ行き、電車を乗り継いで中田ジムへ行ったんだけど、挨拶をしながら中に入ると、そこにはヨシ君と凌、智也君のほかに、女性と成人男性の姿があった。
成人男性を見て『どっかで見たことがある…』と不思議に思っていると、その人は俺に歩み寄り、切り出してきた。
「広瀬、無事にたどり着けた?」
その言葉で、迷子になったときに道案内してくれた人だとわかり、慌てて切り出した。
「あ! あの時の!! あの時は本当にありがとうございます!!」
少しだけ話していると、ヨシ君が間に入り「兄貴、こいつ知ってんの?」と聞いてくる。
「ああ。 迷子になってたから道案内した」
「ダッセ。 ぼーっとしてっから迷子になんだろ」
その後も3人で話していたんだけど、とてもじゃないけど女性に暴力を振るうような人に感じられず、疑問ばかりが浮かんでいた。
すると、英雄さんが歩み寄り、和人さんに話しかけた。
「カズ、今日休みか?」
「ああ。 配達が遅れて、材料ないんだよ。 もう少ししたら顔出しに行くけど、すぐ帰ってくるよ」
「じゃあなんか作ってやってくれないか? みんな合宿の時に頑張ってたし、簡単なものでいいから」
「ん。 わかった」
和人さんはそう言った後、英雄さんとともに中田ジムの面々のもとへ。
その後、トレーニングが始まり、部員たちは二人一組なり、中田ジムの面々にボクシングを教わっていたんだけど、途中から一人ずつ名前を呼ばれ、中田ジムの面々がミット打ちを受けてくれることに。
一人2分ずつミット打ちをし、一番最後の畠山君がミット打ちをし終えた後、英雄さんに言われ、智也君相手にミット打ちを始める。
英雄さんの指導の元、しばらくミット打ちをしていると、智也君が手でやめるよう合図を送ってきた。
手を止め、智也君の視線の先を見ると、シューズとグローブを持った中田が立っている。
部員たちは、自然と手を止め、中田の事に注目していたんだけど、中田は慌てたようにシューズとグローブを背後に隠し、ジワリジワリとその場を離れようとしていた。
『そっか。 あいつ、ここに通ってたんだっけ…』
和人さんが中田に駆け寄り話しかけていたんだけど、英雄さんに「止めるな!」と怒鳴られてしまい、ミット打ちを再開。
中田の事が気になりつつも、ミット打ちを続けていると、英雄さんが切り出してきた。
「よし! いいぞ! 今の感じ、しっかり覚えとけよ」
「はい」
「少し休憩してろ。 隠し玉見せてやるからしっかり見とけ」
「はぁ…」
不安に思いながらもリングを降りると、英雄さんが叫ぶように切り出した。
「次! 千歳!! 来い!!」
「いや… あのさ…」
「早くしろ!!」
「あのですね… 話を聞い…」
「さっさとしろっつってんだろ!!」
「聞けっつってんだろ!!!」
中田の怒鳴り声に、ジムの中はシーンと静まり返ると、英雄さんは顔を真っ赤にし、中田に向かって怒鳴りつけた。
「てめぇ… 父親に向かってなんて口の聞き方をしてやがんだ!!」
「黙って待っとけ!!」
中田はそう怒鳴りつけた後、苛立った様子でバンテージを巻いていると、英雄さんもバンテージを手に巻き、グローブを嵌め始めた。
『…父親? え? 父親って言ったよな!? マジで!? ちーって千歳だった!? やっべ!! マジで!!?? 』
思わず胸が高鳴り、慌ててリングを降りたんだけど、中田のキレている様子を見ると話しかけられず。
凌と智也くんは慌てたように駆け寄り、中田にグローブを嵌めながら少し話した後
、中田はマウスピースを着け、ゆっくりとリングの上へ。
「うちの隠し玉らしい。 しっかりと見とけよ」
智也君に言われ、リングの上に立つ中田を見ていると、中田は待ち構える英雄さんの前で、右利きのファイティングポーズを取っていた。
右利きのファイティングポーズを見た瞬間、モヤががっていた幼いちーのシルエットが頭に浮かんだんだけど、モヤは一瞬にして晴れ、リングの上に立つ中田と完全に一致していた。
『千尋って言うのが間違いだったんだ… 本当は千歳だったんだ…』
胸の奥がギュッと締め付けられる中、ガラスの壁越しに見つめていたことを思い出しながら、英雄さんと戦う千歳の事を、ずっと見つめていた。
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