第57話 嘘
中田に殴り飛ばされた後、ジンジンと痛む顔を抑えていると、薫がいきなり怒鳴りつけてくる。
「奏介君! いきなり何言ってんだよ!! あんなの怒るに決まってるじゃん! 彼女は『千尋』じゃなくて『千歳』!! 名前間違えて、しかも『愛してる』なんて最低だよ!!」
「え? 俺、『愛してる』なんか言った?」
「言った!! ちゃんと謝らなきゃダメだかんね!!」
薫に怒鳴りつけられ、呆然としていると、畠山君がやれやれと言った感じで歩み寄り、俺のグローブを外しながら切り出してくる。
「…あいつ、キックボクサーだったんだな。 ボクシングと比べたらマイナーだし、サウスポーのキックボクサーなんて、そりゃ言いにくいわなぁ…」
呆然としながらグローブを外してもらい、痛む右肩を見てみると、蹴られた部分は内出血を起こしていた。
「身長差があってよかったな。 あれが首に当たってたら、頭が吹っ飛んでたかも知んねぇぞ?」
畠山君の言葉に何も言えず、内出血を起こした部分を見つめていた。
放課後。
当たり前のように、公園で待っている制服姿の千尋を見て駆け寄り、いきなり千尋に切り出した。
「ファイティングポーズ取って」
「だからさぁ…」
「いいから取れよ!!」
思わず怒鳴りつけると、千尋は諦めたようにファイティングポーズをとっていたんだけど、両手でこぶしを作り、顔の前に出しているだけで、カッコよさがみじんも感じられない。
『全然違う…』
瞬間的にそう思い、大きくため息をついて歩き始めた。
「ちょっと! 奏介? 私、頑張ってファイティングポーズ取ったんだよ?」
「真似事だろ?」
ため息交じりにそう言うと、角からトレーニングウェアに身を包んだヨシ君が現れ「うぃ~」と言いながら駆け抜けていく。
『え? それだけ? って行っちゃったし… ロードワーク中かな?』
そう思っていると、千尋が切り出してきた。
「今の人、同じ学校の人だったんだね」
「…本当に知らない?」
「うん… 奏介と同じ学校の人なんでしょ? 」
「…お前、俺にどれくらい嘘ついた?」
「え? 嘘?」
「嘘つきすぎて、どれくらいなんてわかんねぇか」
「嘘なんかついたことないよ」
「それも嘘だな」
「どうして? なんで嘘だってわかるの?」
「今の人、中田英雄の息子だから」
千尋は言葉に詰まったように黙り込み、見る見るうちに顔が青くなっていく。
「お前、本当は誰だよ?」
はっきりとそう言い切っても、千尋は黙ったままでいるだけ。
無理やりカバンを奪い取り、千尋が引き留めようとする中、カバンの中を漁ってみると、学生証が視界に入る。
それを取り出し、千尋の手が届かないよう、自分の頭よりも高い位置でそれを開くと、そこには【通信制課程 普通科 田中春香】と書かれ、横には顔写真まで添えてあった。
思わす噴き出した後、春香に切り出した。
「なんだよこれ?」
「ち… 違うの!」
「この写真、お前だよな? 再婚して苗字が変わった? 下の名前が変わった理由は? なんて嘘つくの?」
「じ… 実は…」
「もういいや。 何にも聞きたくないし、顔も見たくない」
「違うの! 改名したの!!」
「つーかさ、俺、同じ学校に本物の千尋見つけたから」
はっきりと嘘をついた後、春香はその場に立ちすくみ、俺は自宅に向かって駆け出してた。
自宅に戻った後、すぐに春香のラインをブロックしていたんだけど、少しするとインターホンが鳴り響き、出ようとする親父に切り出した。
「俺なら居ないって言って」
親父は何も言わずに玄関に出て「奏介ならまだ帰ってませんが…」と切り出していた。
『本物の千尋か… 中田が千尋だったら、マジで幸せなのにな… なんであいつ、千歳なんだろ… 本物の千尋、今どこにいるんだろうな…』
大きくため息をつきながら、ボーっとテレビに流れるボクシングの試合を眺めていた。
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