第44話 安心感

親父が自室にこもった後、智也と桜は俺の部屋に移動し、3人で飲んでいたんだけど、桜は千歳が心配なのか、頻繁に部屋を見に行っていた。


千歳の部屋から戻るたびに、桜は「座りながら寝てる」とか「かなり腫れてきた」とか、いちいち状況報告をする始末。



「そんなに心配なら千歳の部屋で寝れば?」


「…襲っていい?」


「怪我人相手に何言ってんの?」


「だってさぁ。 千歳だよ? カズ兄と違って強いんだよ? アル中じゃないんだよ?」


「アル中じゃねぇよ!」


「んじゃ時期アル中に訂正して、ちょっと見てくる!」


桜はそう言った後、勢いよく立ち上がり、千歳の部屋へ向かっていた。


智也はそれを見て、笑いながら切り出してきた。


「どっちが本物の兄妹なんだか、わかんないっすね」


「本物の兄妹はかなりドライだぞ? ドラマみたいにイチャイチャしねぇっつーの」


「そりゃそうだけど…。 千歳の彼氏は苦労すんだろうなぁ…」


「なんで?」


「桜ちゃんがいて、ヨシとカズさんが居るんでしょ? さらに英雄さんまで構えてるんだからさぁ… 普通の男は逃げるっしょ。 俺なら間違いなく逃げるし」


「確かに。 親父のことだから『世界チャンプじゃなきゃダメだ』とか言い兼ねないよなぁ…」


「どうします? ものすげー外人連れてきたら」


「英語圏なら大丈夫だろ。 親父、海外留学行ってたから英語話せるはずだし」


「マジ!? すげー以外!!」


智也が声を上げると、桜は部屋に戻るなり「癒されるわぁ…」と、安心したように切り出してきた。



そのまましばらくの間、話しながら飲んでいたんだけど、桜は定期的に千歳の部屋に行っては戻り、行っては戻り…


気が付くと、智也は寝息を立て始めていた。



「桜、そろそろ帰れ」


桜が部屋に戻ったタイミングで切り出すと、桜は不貞腐れたように「なんで?」とだけ。


「智也潰れたし、いい加減帰れ」


はっきりとそう言い切ると、氷を入れたグラスを持ったヨシが、ノックもなしに部屋に入り切り出してくる。


「兄貴、ウィスキーと炭酸頂戴」


何も言い返す気力もなく、黙ったままテーブルの上を指すと、ヨシは智也を足でどかして座り、ハイボールを作り始めていた。


『たまり場か?』


そう思いながら話していると、智也がムクっと起き「あ、ヨシだ。 俺のDVD返せ」と切り出した。


ヨシは慌てたように部屋に行き、どう考えてもアウトなパッケージをしている成人用DVDを何枚も持ってきて、智也に聞いていた。


「どれだっけ?」


桜は照れることもなく、パッケージを手に取り、平然と「この子かわいいね」と話し始めていた。


「桜、照れたりしねぇの?」


「必要なくない? あたし、このメンツだったら、一晩二人っきりでも、何もない自信あるよ?」


桜の言葉に、避難した時のことを思い出し「だろうな」としか言えなかった。



男としてみてなければ、女としても見てない。


『安心しきってる』ってことなんだろうし、その証拠に、一晩二人で過ごしても、何もなかったんだけど、胸の奥に違和感だけが残っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る