第31話 気になる

「奏介、ロードワーク行くのか?」


放課後、部室で着替えていると、畠山君にそう切り出された。



「ああ。 部活以外じゃトレーニングできないしさ」


「広瀬は行ってるんだろ?」


「最近行ってない。 彼女が『行くな』って言うんだよね…」


「ふーん。 んじゃ昼寝してるわ。 戻ったら起こして」


「おう」


短い返事をした後、部室を後にし、勢いよく走りだした。



学校から近所にある公園の周りを1周する、およそ5キロの距離を走り始めたタイミングで、見覚えのある人影を見つけていた。


見覚えのある人影にどんどん近づくと、制服姿の千尋が笑顔で立っていることに気が付き、急いで千尋に近づいた。


「あれ? どうした?」


「一緒に帰ろうと思って」


「俺、部活なんだよね。 行かないとかなりまずいんだ」


「それより、これ見て! ここのドーナツ屋さん、口コミですごく評判いいの! 今から行かない?」


「部活中だし、最近トレーニングさぼってるから、トレーニングしないとさ…」


「…本当は私と一緒に居たくないんだ」


千尋はそう呟いた途端、目から涙をボロボロ零しはじめ、慌てて千尋を引っ張り、物陰に隠れていた。


「一緒に居たくないとかじゃなくて、部活サボると顧問に怒られるんだって」


「怒らせておけばいいでしょ?」


「そう言う訳にはいかないんだって! さ、最近太ってきたから、ダイエットしないとまずいんだよ。 俺がデブったら千尋も嫌だろ?」


千尋は俺の言葉を聞いた途端、黙ってうなずいていた後、当然のように切り出してきた。


「じゃあ好きって言って。 言ったら部活行っていいよ」


「好きだよ」


千尋に向かってそう言った後、千尋は嬉しそうに抱き着いてきたんだけど、胸の奥にモヤっとしたものが残っていた。



結局、千尋に時間を取られてしまい、ロードワークに出ることができず、ボクシング場に戻ることに。


中に入ると、制服を着ているショートボブをした小さい女が、薫と話をしていた。


「あ、菊沢君…」


薫の言葉に見向きもしないまま、ボトルに入った飲み物を飲み、タオルで顔を拭いた後、薫に「マネージャー?」と切り出した。


「そそ。 1-Bの中田千歳さん」


思わず顔をジッと見たんだけど、見たことがあるような無いような、不思議な感じがする。


「中田? …中田って、んな訳ないか」


タオルを放り投げ、リング上でゴロゴロしているみんなに「はじめるぞ~」と声をかけた。


畠山君のパンチをミットで受けていたんだけど、どうしても新人マネージャーの中田が気になる。


『中田… なんとなく目元が英雄さんに似てるような… んな訳ないか! 英雄さんの娘は千尋だし、下の名前が違うしな! …あいつ、下の名前なんて言ってたっけ? あの横顔、どっかで見たことがあるような無いような…』


そんな風に思いながら、畠山君のパンチをミットで受け続けていた。



部活を終え、急いで公園で待つ千尋のもとに行き、二人並んで駅に向っていたんだけど、どうしても『中田』のことが気になる。


『絶対どっかで見たことがあるような気がするんだよなぁ…』


俺を待っている間、千尋がネットで見た話を聞かないまま、ずっと考えていたんだけど、どうしても思い出せないままでいた。


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