第26話 告白

「奏介、スパーしようぜ」


ジムに入って2回目のトレーニングの際、いきなり達樹に切り出され、初めてバンテージを手に巻こうとしたんだけど、うまく巻くことができず。


ネットの動画配信サイトでは、みんな簡単そうに巻いてたのに、いざ自分でやってみると、なかなかうまくいかなかった。


誰も手伝ってくれずにいると、ベンチに座っていた千尋が駆け寄り、バンテージを巻いてくれたんだけど、かなりユルユルで違和感しかない。


動画では、各指の間にバンテージを通していたんだけど、千尋は包帯を巻くようにバンテージを巻き、そのままグローブをはめてくれたんだけど、グローブの中でバンテージが依れる感じがし、違和感しかなかった。


『普段、英雄さんが巻いてたし、自分では巻かないんだろうな…』


そう思いながら初めてリングに上がったんだけど、動きもパンチの出し方もわからず、サンドバックのように滅多打ちにされるだけで、トレーニングの時間を終えていた。



トレーニングを終え、エレベーターで2階に行こうとすると、千尋が後を追いかけてくる。


着替え終え、更衣室を出ると、千尋が待っていたんだけど、千尋は俺の顔を見るなり「ライン教えてくれるかな?」と切り出してきた。


ラインIDを交換し、1階にある入口の前から走って家に帰ろうとすると、千尋が「駅まで送ってくれないの?」と、寂しそうな目で訴えてくる。


『甘えてる? これって期待していい系?』


そんな風に思いながら、駅まで千尋を送ると、千尋は俺の腕をつかみ、物陰に引きずり込んだ。


「…私ね、奏介君のこと、初めて見た時から好きだったの」


突然の告白に驚き、何も言えないでいると、千尋は目をつむり、顔を近づけようと背伸びをしてくる。


その瞬間、昔、電車で見た元姉の姿を思い出し、背筋を伸ばして少し上を向き、唇が届かないようにしていた。


「あ、あのさ、付き合ってない奴とそう言うことは良くないと思うんだよね… 俺、付き合ってるやつとしか、そういう事したくないし…」


「付き合うの嫌?」


「…嫌じゃないんだけど、再会してまだ日が浅いし…」


「嫌なんだ。 お父さんが元世界チャンプだから嫌なんだ。 私の家、普通じゃないから嫌なんだ」


千尋はそう言いながら、次々に涙をこぼしている。


「ち、違うって! そうじゃなくて!! 俺もずっと千尋が好きだったよ? けど、いきなりそんなさ…」


「…両思いなのに、どうして付き合えないの?」


あまりにも積極的すぎる態度にうろたえていたんだけど、千尋はぼろぼろと涙を流し続けるだけ。



『え? マジで? マジで千尋と付き合っていいの?』



嬉しくないと言ったら嘘になる。


けど、過去にいくら話しかけても、ずっと無視をし続けていた千尋から、こんなふうに告られるなんて思いもしなかった。



『何もかも、あの頃の千尋とは変わっちゃったんだな…』



心にぽっかりと穴が開いたような寂しさを感じながら、幼い千尋のシルエットを思い浮かべていた。


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