第8話 改造人間サマーン~悪の組織、黎明変~

「それでは、第1回、悪の組織 アストロ団、スタッフによる悪の報告会を開催します」

メイド服姿の雅が言って、他の連中が一斉に拍手をした。

ここは、俺の住んでいるハイツのいつもの空き部屋というか、もう、ほとんだ、悪の組織 アストロ団のスタッフルームとして定着しつつある部屋だった。

実際、入り口には、張り紙がしてあるし、ほぼ、毎日、この連中が入り浸っていた。

安井さんにいたっては、ここに住んでいるといってもいい状態だった。

俺は、後で、大家に連絡しておこうと心の中にメモをした。


「それでは、間 構成員から順番に、最近行った。悪いことを発表してください」

雅に言われて、間さんが返事をした。

「はい」

俺たちは、部屋の中央におかれたちゃぶ台を囲んで車座に座っているわけだが、間さんは、その場に立ち上がると、堂々といい放った。

「自分は、近所の飼い猫に、フライドチキンを与えるふりをして、猫の目の前でうまそうに食ってやりました」

「ほう」

兄貴が、頷く。

「かわいらしい奴等の心を翻弄してやったわけだな」

「はい」

間さんは、ニヤリと不気味に笑った。

「しかも、食べ終わった後の、チキンの骨を与えるふりをして、回収し、奴等をがっくりさせてやりました」

「何」

安井さんが、膝を打つ。

「何て、悪辣な!」

「間 構成員に、拍手!」

雅がいい、みんなが拍手し、間さんが頭を下げて、座った。

「次は、安井 構成員、お願いします」

「はい」

安井さんが、大儀そうに巨体をゆすって立ち上がると言った。

「俺は、オンラインゲーム内で、17才の女子高生と身分を偽って参加し、同じゲーマーのいかにも、ダメそうな奴っぽい野郎とゲーム内で結婚してやりました」

「おおっ」

間さんが信じられないというような表情で言った。

「詐欺、じゃないか!」

「ああ」

にやりと、安井さんは、笑った。

「しかも」

安井さんは、ふっと笑って言った。

「ゲーム内で、他の男と不倫してやりました」

「何ということを」

兄貴が感嘆の声をあげる。

「君は、悪の中の悪だな」

「ありがとうございます」

安井さんが頭を下げる。

雅たちは、拍手をした。

「次は、川島 構成員、お願いします」

「はい」

めがねっ娘の川島さんが立ち上がると、言った。

「私は、スーパーで商品を万引きするふりをして、他のスーパーで買ってきたものを、そっと置いてきました」

「なんだって?」

兄貴の目が輝く。

「まさか、そんなこと!もちろん、同系統の品の中に、紛れ込ませたんだよな?」

「いいえ」

めがねっ娘のメガネがきらっと光った。

「仮面○イダーのおまけ付きおやつをお魚コーナーのマグロの刺身の横に置いてやりました」

「何?」

辺りがざわめく。

間さんが言った。

「そんなことをしたら仮面ラ○ダーのおやつが、水に濡れてしまうではないか!」

「そこが、ポイントです」

めがねっ娘が、にっと笑った。

「手に取った客が、一瞬、不快な思いをするように、そこに置きました」

「何てことを!」

安井さんが、感極まって言った。

「さずが、川島さん、俺たちでは、思いもつかないような悪事を」

「すごい!」

間さんが言う。

「もし、子供なら、落胆から、ちょっと、泣きそうになっちゃうかも」

「いや」

兄貴が言う。

「さらに、親の置いておきなさい発言にあい、確実に、泣くな」

「おおっ!」

みんなが、拍手した。

「次は、田中 構成員」

「はい」

田中君が立ち上がって言った。

「僕は、実は、付き合っている相手がいるんですが」

田中君が、ちらっと俺の方を見た。

俺の背筋を冷たいものが走る。

「その相手にべたべたしてくる連中に一斉に、不幸のメールを送信してやりました」

「ええっ?」

俺は、言った。

「どうやって?」

「その子の隙をついて携帯の中にあるそれらしい番号全部にその携帯から『この人物と付き合うと不幸になる』って内容のメールを送りました」

「マジで?」

俺は、はっとした。

そういえば、最近、友人たちがなんだか、よそよそしかった。

俺が、面変わりした後も、変わらず、付き合ってくれていた奴等が、一歩引いてる感じがあった。

こいつのせい、か!

「何てことをするんだ!犯罪だぞ、犯罪!」

「まさしく」

兄貴が言った。

「悪の組織の面目躍如だな」

「ええっ?」

俺は、きいた。

「人として、ダメなんじゃないの?」

「サマーンよ」

兄貴は、言った。

「我々は、悪の組織、だ。人に嫌われてなんぼだ」

「田中 構成員に、拍手!」

みんなが、田中君に拍手を送った。

俺は、マジで、みんなとの距離を感じていた。

「次は、サマーン」

雅が言った。

俺は、きいた。

「えっ?俺も?」

「もちろんだ。さっさと自分のやった悪事を吐け、この豚野郎!」

雅が、言った。

俺は、ムッとして言った。

「俺は、そんな小ネタ、持ち合わせてねぇんだよ」

「ふん」

雅が言った。

「相変わらず、ケツの穴の小さい奴だな」

「本当にね」

田中君が、くすっと笑って、俺は、びくっとしてしまった。

「では、以上で悪の組織 アストロ団の悪の報告会を終了します」

最後に、雅が言った。

「これからも、小さな悪を積み重ねていってくださいね、みなさん」

「おおっ!」

みんなが盛り上がるなかで、俺は、一人、宇宙の果てまでひいていた。

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