第6話

 翌日、相原と縁野は朝からランニングをする為に集まっていた。


「何か最近毎日会ってる気がするね」


 相原は待合せ場所で合流した縁野に向けて声をかける。


「単純接触効果狙ってるの!」


 笑顔で答えてくる縁野に、今日も可愛いなと相原は内心一人ごちる。


「それじゃ行こうか」


 最初は軽めのジョギングをし、相原からの提案でウォーキングに切り替えることにした。


「ウォーキングにするんだ? いつもそういう風にしてるの?」


 昨日はランニングだったことを思い出し、ウォーキングに切り替えた理由を確認する縁野。


「いや! 普段はランニングなんだけど、縁野さんはダイエットがしたいんだよね? だったら激しい運動よりも軽めで出来るだけ長時間歩いた方が痩せるのに効果があるからさ」


「へーそなんだ! じゃあ私に合わせてくれてるってことかぁ……」


 じっと相原の顔を見つめる縁野。それに気づき少し恥ずかくなった相原は、気になっていることを聞きごまかすことにした。


「そういえば縁野さんは何でこの大学に来たの? 勉強熱心だし成績も良いって聞いたから、他の大学でも良かったような気もするけど」


「んー……この大学って結構受けられる授業が興味深いものが多かったり、在籍している先生が面白い人が多いんだよね。興味あることって色々なジャンル学んでみたくて……まぁ自分一人で勉強ばっかしてたから、女友達殆ど離れていっちゃったんだけど……」


 興味があることに没頭すると、周りが見えなくなる質らしい。


(友達の彼氏を貢がせた挙句、寝取ったからじゃなかったのか)


 大学からそれほど離れていない土手を、大学へ向かう方向とは逆方向に向かって歩く二人。


「俺、縁野さんのこと誤解してたや」


「誤解? どんな?」


「実は一部の男子の間で、男に金を貢がせる悪女って噂がある」


「そうなの!?」


 友達から聞いていた噂のことを素直に伝える相原。


「ぐぬぬ……絶対元彼だわその噂流したの……今度あいつのSNS炎上させてやる……」


「あはは……まぁ少なくとも俺の誤解は解けたわけだし、これからその噂は少しずつ消えていくんじゃないかな?」


「まぁそうか……相原君の誤解が解けたならそれでいっか……」


「そだね。最初は悪女でビッチだと思ってたけど……」


「やっぱ元彼ぶん殴ってくるわ」


 まぁまぁと笑いながら宥める相原に、縁野は少しずつ冷静さを取り戻していった。


「あーあ相原君にそんな風に思われてたのショックだなぁ……私処女なのになぁ」


「え? 何でそんな嘘つくの?」


 いきなりの縁野からカミングアウトに、素で返してしまう相原。


「いや嘘って……そりゃ私それなりに可愛い方だと思うけど、嘘じゃないもん」


「そんな可愛くてその歳まで守り抜くなんて無理でしょ」


 縁野が処女だということが信じられない相原。だがその発言で自分がどう思っているかを縁野に言ってしまったことに気づいていなかった。


「へぇー私の事可愛いと思ってくれてるんだ?」


 ニコニコしながら聞く縁野に、しまったと思い顔をそむける相原。


「そんなに信じられないなら、確かめてみれば良いじゃん!」


「確かめてみるってどうやって……」


 疑問符を浮かべる相原に、縁野は左手の指でわっかを作り、右手の人差し指をそのわっかの中に入れるしぐさをした。それを見て意味を理解した相原は焦りだす。


「こ、こら! 女の子がそんな動作男に見せないっ!」


 慌ててその手の動作を縁野の手をとり辞めさせる相原。


「えへへ……相原君が私の手、触ってくれた……」


「っ……」


 あまりの可愛さに手を握ったまま動けなくなってしまう相原。


「ねぇ相原君」


「ん?」


「私と付き合ってください」


「喜んで」


「本当!? やった!」


 縁野からの突然の告白を即答でOKする相原。


「もうね。完全に落ちてましたよ正直。可愛すぎて抱きしめたくなってましたよまじで」


「うー! 嬉しい! 今すぐ抱きしめていいよ?」


「今は汗かいてるから遠慮しとくね」


 恥ずかしがりながらも自分の気持ちを伝える相原に、嬉しそうに歩き続ける縁野。


「ただ一つ条件があります。俺は今貧乏学生であまりお金はありません! だから縁野さんの財布にはなれません」


「むぅ……それは元彼が流したデマだってさっきわかったはずじゃんかぁ……」


 解けた筈の誤解を口にする相原に、しょんぼりする縁野。


「だからね。恋人として、対等なパートナーとして、これからよろしくお願いします」


 縁野はその言葉を聞き、目を見開いた。


 その言葉は、パートナー探しをしていた縁野が一番言ってもらいたかった言葉だった。そしてそれを他でもない相原の口から聞けたのだ。


「よろしくお願いします!」


 嬉しさがこみ上げてきた縁野は、我慢できずに隣を歩いていた相原に抱き着いた。


「ぎゃぁああああ! 汗かいてるから今は遠慮しとくって言ったのに!」


 こうして彼らは付き合うことになった。


 相原は縁野の『財布』ではなく、対等な『恋人』として。きっと彼らはこれから上手くやっていけるだろう。


『俺は君の財布にはならない』


~完~

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俺は君の財布にはならない 猫被 犬 @kaburi-cat

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