第4話

 次の日、相原は法律の科目ではない授業に出ていた。


 科目は『心理学』。必修科目ではないものの、興味がある分野だった。


 心理学の授業の準備のためにノートを開く。すると相原の隣の席に一人の女性が座り込んだ。


「ここ良いかな?」


「縁野さん!?」


 隣の席に座ってきたのは縁野美姫。相原のかなり近いところに位置取っている。


「ど、どうぞ」


 咄嗟に断る理由が思いつかず、受け入れてしまう相原。


「縁野さんもこの授業とってたっけ?」


 今まで心理学の授業で縁野を見かけたことがなかった。


「私はこの授業取ってないよ?」


「え?」


「この授業取ってないけど、興味あって無断で受けちゃおっかなぁと思って……教授には内緒ね?」


 取っていない授業を受けるのは当然良いことではない。そもそも授業料があるのだ。


「バレても知らないよ? まぁ俺から密告なんてしないからそこら辺は安心して」


「へへ……ありがと」


 相原が仕方なく受け入れたところで、教授が教団に立ち授業が始まった。


 しばらくして授業が終わり、二人で心理学の時の事を話し出す。


「縁野さんって凄い真剣に授業聞くんだね。隣で見てて集中力が凄かったよ」


 相原は真剣に教授の話に聞き入る縁野を見て以外に思っていた。噂を聞いていたからというのもあるが、授業をそこまで真剣に受けるイメージではなかったからだ。というか勉強なんて真剣に取り組まないビッチだと思っていた。


「うん! 自分の為になりそうな事は勉強でも何でも真剣にするよ! それは自分磨きの一環にもなるからね!」


「ほうほう」


 縁野の意外な一面を知り、関心した相原。だがすぐに我に返り考え直した。良い面を見つけたことは認めるが、こいつは男に金を貢がせるビッチだということを忘れてはならないと。



「でも授業で言ってた単純接触効果って、繰り返し接すると好意度や印象が高まるというものなんだよね?」


 考えにふけっていた相原は、急に質問され我に返る。


「うん確かそうだったね。何度も会って話したりするうちに、初めのうちは興味がなかったり苦手だったりしたものも、次第によい感情が起こるようになってくるってやつだね」


 うんうんと頷いて見せる縁野は、相原を見つめ返事を返す。


「じゃあさじゃあさ! 私も何度も相原君に会って話してたら、好意持ってもらえるようになるってことかな?」


 目を輝かせながら話してくる縁野に相原は思ってしまった。


(くっそかっわぃいいいいい)



 縁野の目を直視することが出来ず目を伏せる相原。


「そ、そうかもね」


 と歯切れの悪い言葉しか返すことが出来なかった。


(さすが男を貢がせると噂の子だ。噂を聞いていなければ完全に落とされていた。危ない危ない)


「あれー? どうして顔見て話してくれないの?」


 顔を覗き込んで来ようとする縁野に、恥ずかしさが限界に達した相原はその場から離れることにした。


「ご、ごめん。今日はこれから用事があったの思い出したから帰るね?」


 そう言うとそそくさと帰り支度をはじめ、相原は教室を後にした。一人教室に残ることになった縁野は不満そうに呟いた。


「ちぇっ! 今日でもっと仲良くなれるかと思ったのに。意外と手強いなぁ相原君」


 もう既に落ちかけているちょろい相原の心情などつゆ知らず、縁野はさらに相原と仲良くなる算段を考えることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る