33話 釘付け


『――コオオォォ……』


「あっ……」


 ドッペルゲンガーの両目が光り、こっちに向かってゆっくりと歩き始めた矢先だった、フッとやつの姿が消えて僕のすぐ目の前に現れたかと思うと、足元に魔法陣が出現したのだ。これは……特殊回避の影移動に加えてあれを使う気だ。一撃で相手を殺せる驚異のスキル【瞬殺】を……。


 その恐ろしい効果を自慢するかのように、魔法陣はやつの足元でゆっくりと回り始めた。でも、僕には【削除&復元】っていうスキルがある。相手のスキルが仮に発動しても、削除できれば……って、待てよ? この【瞬殺】スキルの効果だと、もし削除できたとしても発動はしてるわけで、ってことになるんじゃ……?


「はっ……!?」


 僕は咄嗟に【殺意の波動】によってドッペルゲンガーの動きを封じると、《跳躍・中》で後方に下がっていった。頼む、間に合ってくれ……!


「……」


 敵の魔法陣が止まり、僕はゆっくりと呼吸を試してみた。


「……すー、はー……」


 最初は緊張からか息を吸えなくてびっくりしたけど、大丈夫だ。生きてる……。


 それでも距離的にはギリギリだったし、次はもっと考えていかないとそこら中に転がる死体と同化してしまうことになる。


 でも、一体どうしたら……? 相手のスキルの範囲内じゃないと削除しようとしても空振りになっちゃうだろうし、数に限りのある疲労や頭痛とか、吸収の眼光、毒針のような特殊攻撃を浴びせる程度じゃ、相手の体力の高さを考えても焼け石に水だ。


 攻撃自体がまったく通用しない上、スキルを削除しようにもそれをやったときには自分が死んでしまうような化け物相手に、どう立ち向かっていけばいいっていうんだ……?


 僕の命が二つあればいけるんだけど……って、二つ……? そうだ、があった……!




 ◆◆◆




「い、今のはっ……!?」


 エルゼバランの村近くの丘の上にて、騎乗した少女が思わず身を乗り出してしまいそうになるほど、目下で繰り広げられている少年と化け物の戦いに夢中な様子であった。


「はっ、どうやら少年が化け物の攻撃をかわしたようで――」


「――そ、そんなことは誰でもわかるっ! あれをよく見よ……普通の者ならば、死が間近に迫ると頭の中が真っ白になり、何もできなくなってしまうもの。そんな崖っぷちの状況で、あの者はスキルかテクニックのようなものを駆使して凌ぎ切ったのだぞ……」


「なるほど、あの若さで銀色の双竜を胸に飾るだけはありますな……」


「うむ、それにあの者は若さ特有の勢いだけではない……何か、を感じる。血が……この血が騒ぐのだっ……!」


 少年を見下ろす少女の瞳は、いつの間にか燃え盛るような強い輝きを放っていた……。




 ◆◆◆




「お、おい見ろっ、カインの野郎が化け物と戦ってやがるっ……!」


 家の陰からこっそり戦況を覗いていたナセルたち。パーティーリーダーの彼を筆頭に、カインが戦う様子に釘付けになっていた。


「ホ、ホント……。あんなどうしようもない怪物を相手にカインが頑張ってる!」


「オーッ、あのカインが……アンビリーバブルッ……!」


「す、凄いですけど、カインさんってあんなキャラでしたっけ……? 死ぬのが怖くないんでしょうかねぇ……」


「「「「……」」」」


 しばらく彼らは神妙な表情で同じ方向を向いていたが、まもなくナセルがはっとした顔で振り返る。


「というかよ、おい、お前たち……誰か早くカインを手伝えって! そういう作戦だろうがっ!」


「い、いや、それならまずナセルが手本を示すべきでしょ!?」


「オー、イエスッ! まずはリーダーが弓矢で援護射撃をするべきだっ」


「そ、そうですよっ。リーダーさんがやってくれたらあたしたちも頑張りますのでっ……!」


「お、おいっ! そんなこと言って、あの化け物が怒って向かってきたらどうせ俺だけ置いて逃げるつもりだろっ! バレバレなんだよ!」


「「「うっ……」」」


「図星かよっ! なあお前たち、それでもパーティーメンバーなのか……? 絆の欠片もないっていうのか……!?」


「はあ? ナセルったら……追放したカインに協力して恩を着せようとか、そんな無茶な作戦立てておいてよく言うわよ!」


「ファリムに同意だ!」


「あたしもです!」


「お、おいっ! お前らだって最初は承諾しただろうがよっ!」


 ナセルたちは言い争いに夢中で、その場を離れてでもカインを援護しようとする者は誰一人としていなかった……。

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