30話 衝撃的


 受付嬢のエリスから渡されたもの……それは紛れもなく、僕がずっと探していたA級の依頼の貼り紙だった。


「こ、これをどうしてエリスが? 担当してたものだとしても、補充員が貼るために持ってるものじゃ……?」


「いえ、これは私の担当ではなく、ほかの受付の方に受理された上で既に補充員によって依頼スペースに貼られていたものなのです……」


「ええ……? じゃあ誰かに剥がされちゃったってこと……?」


「はい。それもA級の依頼の貼り紙ばかりを狙って……」


「……」


 エリスの消え入りそうな言葉で僕は色々と察した。


「やっぱりギルド長様が僕を追い出したがって――」


「――それは否定できませんが、ギルド長様はこのような小細工を弄するようなお方ではありません。あの方であれば、もっと奥行きのあるような手段を使うかと思われます。おそらく、ギルド長様の支持者が勝手にやっていることなのでしょう……」


「なるほどね……」


 それにしても、まさかここまで陰湿なことをやられるなんて思いもしなかった。住み慣れたこの第二の故郷ヘイムダルの都をしばらく離れるのもありなのかもね。でもそれだと、エリスはもちろんリーネやミュリアとも離れ離れになっちゃうわけなんだけど……。


「あのっ……その、カイン様……」


「エリス……?」


「もしあなたがここを離れるおつもりなら、私もついていきます……」


「エ、エリス――」


「――わおっ、いいムードすぎて火傷しそうだぜっ……!」


「「あっ……」」


 誰かと思ったらセニアで、ウェイトレスみたいな格好をしていて両手にはこれでもかと皿が積み上げられていた。


「セ、セニア……?」


「あ……カイン様、話すのを忘れちゃってました。実は、セニア様をここで接客員として雇うことになったんです。ちなみに、依頼の貼り紙が剥がされているのを最初に見つけてくださったのが彼女なんですよ」


「へえ……凄いね、セニア」


「えへへっ。そんなに褒められたらオレ、照れちゃうってぇ……っとお!」


「「わわっ……!」」


 セニアの持ってる皿が大きく揺れたので心配したけど、間一髪大丈夫だった。彼女って悪事を発見する能力でもあるんじゃないかっていうくらい勘が鋭いのかもね。セニアのおかげで殺され屋の件は解決できたようなもんだし……。


「っていうか……二人がここから出ていくっていうならオレもついていってもいい?」


「「えっ」」


「ラブラブな二人の仲を邪魔とかしないから心配はご無用っ。エリスがカインの正妻としてさあ、オレは愛人枠でどうかな? あはんっ……」


「「……」」


 ここまで言い切っちゃうともう冗談半分としか思えないけど、セニアの言ってる内容が内容なだけに、僕はエリスと一緒に赤面しつつ項垂れるしかなかった。


 気のせいか、ダストボックスの中から『バカッ』っていう声も聞こえてくる。この妙な流れを早く変えたい……って、そうだ。依頼の内容をちゃんと見てなかったから確認しないと……。


「……え……」


 空気を変えるために依頼の内容に初めて着目したところ、僕にとってはそれがあまりにも衝撃的すぎてしばらく呼吸ができなくなるほどだった。


「カイン様……?」


「カイン?」


 その内容っていうのが、僕の故郷の村でが現れ、甚大な被害が出ているというものだった。思い起こせば両親が離婚してからというもの、あの村での思い出は暗くて冷たいものばかりだったけど、それでも生まれ育った故郷であることになんら変わりはないわけだからね。


「そのご様子であれば、尋常ではない依頼内容のようですね。危険なのでもうしばらく様子を見てはいかがでしょうか……」


「オレもエリスに同意するぜ。やるにしてもさあ、もうちっと情報が集まってからにしたほうが絶対いいって……」


「いや、すぐに行かなきゃ」


「カ、カイン様っ!?」


「カイン!?」


 エリスとセニアの言うことも一理あると思うけど、僕はいてもたってもいられずにギルドを飛び出した。こういうのは理屈じゃないんだ。勝手に動いた体がそう訴えてる。


 それに、僕のことを落ちこぼれだとバカにしたあの村人たちを見返すなら今こそ絶好の機会じゃないか。普通に酷い目に遭わせてやり返すよりも、こういう風に危機的な状況から助けたほうがよっぽど見返すことになるはず……。

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