27話 祝福


「ゴホッ、ゴホッ……ったく、ひでえ目に遭ったぜ……」


「だねぇ……」


「う、うむ……」


「本当、ですね……」


 あれからナセルたちが目を覚まし、ボロボロになりながらもギルドへ帰還したときだった。中から一際大きな歓声が起き、メンバーが一様に驚いた顔を見合わせる。


「お、おい……まさかこれって、俺たちが暴漢に襲われたことが話題になってて、それで無事に帰還したから祝福してるってことか?」


「だとすると、私たちって結構な有名人だったのね……!」


「オー、ワンダフルッ……! 自分らは相当な時間気絶していたから、きっと目撃者がギルドに知らせてくれていたのだよ……」


「な、なんだか感動的ですね、ぐすっ――」


「「「「「――カイン、おかえりっ!」」」」」


 A級冒険者のカインが二階から下りてきた直後、集まった冒険者たちから拍手喝采を浴びる。


「おうカイン、おかえり……って、な、なんだと……!?」


「カ、カイン……? あ、今思い出したわ! 確かあいつ、殺人罪で牢獄にいるんじゃ!?」


「あ、イエスッ! そうそう、自分らはそこに行く途中だったはずっ! なのに何故やつがここにっ……!?」


「あ、あたしも本当にわけがわからないです。殺人を犯したカインさんがどうしてこんなところにいて、その上歓迎なんてされちゃってるんですかね……」


 混乱した様子のナセルたちを尻目に、カインは祝福ムードの冒険者たちに囲まれつつ笑顔で語り始めた。


「無事に冤罪が晴れてよかった……。これも、僕の無実を信じてくれていた人たちの祈りが通じたからなのかも。どうもありがとう!」


「「「「「ワーッ!」」」」」


「……な、なんだって? 冤罪だと……? じゃ、じゃあ、俺たちは最後までカインのやつに踊らされてただけってわけかよ……。ち、畜生……!」


「あはっ……最後まで勘違いしちゃって……本当にバカみたいよね、私たちって……」


「オーマイゴッド! これではまさに骨折り損のくたびれ儲けではないかっ……!」


「はあ……。なんだか疲れが一気に来ちゃいましたぁ……」


 ナセルたちがその場でがっくりと両膝を落として惨めな姿を晒すも、彼らを気にかけてくれる者は誰一人現れることがなかった……。




 ◆◆◆




「カイン様、ご立派でした……」


「カインどの、よかったのだぁぁっ!」


「カイン、格好よすぎるぜっ!」


「エリス、リーネ、セニア、本当にありがとう……」


 あまりにも感動的で涙が出そうになったけど、僕はぐっと堪えた。泣いてる場合じゃない。


 強くなったことで過信してみんなを心配させてしまったことは確かなんだし、これからはもっと成長していかないとね。アルウも、夢の中だったけど僕を叱咤激励して勇気づけてくれたんじゃないかな……って、僕を支えてくれた人を忘れてるような。誰だっけ――


「――よう、カイン」


「えっ……」


 誰かに肩を叩かれて振り返ると、兎耳のお兄さんが凛々しい表情で僕を見下ろしていた。


「だ、誰ですか……?」


「俺はな、ミュリアの兄でクロードっていうんだ。よろしくな」


「あ、ミュリアのお兄さんなんですね! ク、クロードさん、よろしくっ」


 そうだ、忘れてたのはミュリアだった。なんで今まで思い出せなかったんだろう。それに彼女だけここに来てないみたいだけど、忙しいのかな……?


「おう。カイン、お前の噂は聞いてるぞ。異例の速さでA級冒険者に昇進しただけじゃなく、かけられた冤罪もすぐに晴らしてみせたそうだな。あまり褒めない妹も絶賛してるし、とんでもない才能を持った冒険者が現れたもんだ」


「い、いえっ、僕なんてまだまだっ」


 なんだかとっても優しいというか包容力がありそうな人で、油断すると吸い込まれるんじゃないかと思えるほどの魅力があった。こんな男の人と接するのは生まれて初めてだ。兎耳といい、ミュリアの兄っていうのも納得できる……。


「カイン、俺のことを本当の兄貴だと思ってなんでも相談してくれよ?」


「あ、は、はい――」


「――じ~」


「はっ!?」


 気付くとミュリアがすぐ近くに立っていた。び、びっくりした……。


「ミュ、ミュリア。いたんだ……」


「うん、カイン君。っていうか、ボクはずっとここにいたけどね~」


「え、ええ?」


 おっかしいなあ。それじゃ僕が彼女の存在に気付かなかっただけなのかな……?


「お兄ちゃんがちょっとしちゃったみたい」


「あ、そうなんだ……」


 ってことは、僕を驚かせるためにミュリアに隠れさせてたってことか。クロードって人、格好いいだけじゃなくてひょうきんなところもある人なんだなあ。欠点が全然見当たらなくて、正直同じ男として嫉妬してしまいそうだ。


「カイン。妹のミュリアはお前のことが大好きらしいから、結婚したら俺たち義理の兄弟になるわけだな!」


「あー、お兄ちゃん、そんなこと言ったらダメだよ~」


「隠すことはないだろー」


「あはは……」


 本当に茶目っ気たっぷりだった。でもこの人ならなんでも話せそうだね。アルウのことも――


『――ダメッ、その人にだけは絶対に話したらダメッ……!』


「えっ……」


「ん、どうした、カイン?」


「カイン君、どうしたの~?」


「あ、いや、なんでもないんだっ」


 今のは、なんだ……? アルウの悲痛の叫び声が聞こえてきた気がして、全身に寒気が走るような感覚を覚えた。


 こんなにいい人そうなのに、どうしてだろう? 気のせいだとは思うけど妙に嫌な予感がする。アルウをどうやって助ければいいのか他人の知恵を借りたいくらいだけど、今回は話すのをやめておくか……。

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