第9話 モヒカンの弊害
「モヒカンのコンテストで世界チャンピオンになった」と龍が嘘くさい紹介をした美容師に刈ってもらった。自分で言うと信憑性に欠けるが似合っていた。愛媛に帰ると、お世辞なんて言うはずのない弟に、「今まで見たモヒカンの中で一番格好いいと」と褒められた。はたして弟がどれほどのモヒカンを見たことがあるのか疑問は残るが、彼だけじゃなく色んな人に褒められた。
しかし、どんなに似合ったとしても、ちゃんとした社会人はモヒカンにはしない。「臭すぎてトラックに乗せられない」と苦情が来るようなヤツのことでも現場に送るのに、派遣会社の規定は髪色やピアス、タトゥーに関しては口うるさい。登録会で、「茶髪はOKだが金髪はNG」と説明を受けたが、モヒカンについて何か言っていた記憶がない。先にひとこと連絡を入れようかと思ったが、面倒くさくて後回しにしている内に、向こうから、
「急で悪いんですけど、明日重信の方で搬入作業があるんです――」と電話してきた。
「行けるんですけど、髪形をモヒカンにしてしまいまして。それでも大丈夫ですか?」というようなことを私が言うと、
「モヒカンってベッカムみたいな感じですか?」と聞いてきたので、
「ソフトモヒカンじゃなくて、北斗の拳に出てくる感じです」と答えた。相手は、
「とりあえず一旦確認して折り返します」と言って電話を切った。掛け直してきた電話で、
「とりあえず今回は違う人に行ってもらいます」と言われ、世紀末都市ならまだしも、地方都市ではモヒカンだというだけで労働力としてカウントされないことを悟った。
土木や鳶なら髪形ぐらいでいちいち口うるさいことは言われないだろうから、そういった業種で仕事を探すか、とりあえず飲みに行くか迷って、楽なのでとりあえず飲みに行くことにした。
すると、若い時というのはちゃんとしていなくても、なんとか人生が上手いこと転がるもので、寄った立ち飲み屋のオーナーに声を掛けられ、そこで働くことになった。
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