憧憬の眼差し③

 話は一週間前に遡る。


 ファハドに呪い装備を押し付けて、晴れて普通の冒険者に戻ったサイード、ムルジャーナ、アサーラの三人はパーティを組み、依頼をこなすためにダンジョンンの一つであるアスワッドに潜った。


 サイード一行は冒険前の景気付けとして、アスワッドの酒場に足を運んでいた。


「そういえば聞いたか、ファハドのこと」


「ファハドぉ? 誰だっけぇ?」


「私たちのために呪い装備を引き取ってくれた、あの間抜けな冒険者でしょ?」


「あぁ~居た居たぁ。うけるよねぇ。そんでサイっちん、ファハドがどうしたのぉ?」


「それがどうやら呪い装備を付けたまま遺跡に入って、行方不明になったらしい」


「え? それって自殺……?」


 ムルジャーナは眉を顰めていった。


「あー、いわれてみればそういうことしそうな人だったよねぇ。うじうじして、暗かったしぃ」


「俺たちを恨んで、化けて出てくるかもな」


「ちょっと、冗談でもそういうこというのやめて!」


 ムルジャーナは本気で嫌がっている様子だった。


「おっと、ごめんごめん」


「ムルちゃんはお化けとか苦手なんだよねぇ」


「だってあいつら、言葉とか通じなさそうだし」


「ぷっはっはっは、何だよそれ。よし、気を取り直して依頼の確認をするぞ」


 サイードは一頻り笑うと、居住まいを正した。


「はぁい」


「今回はヤタラワーの森にあるゴブリンのコロニーの殲滅だ。それだけで一人当たり10000マネーももらえるぼろい依頼だ」


「でもそういう依頼ってぇ、やばいやつ多くなぁい?」


「どうして高々ゴブリンの殲滅にそこまでの報酬金が出るかについては、ちゃんとした理由がある。コロニーにゴブリンロードが居るんだ」


「えぇ、ゴブリンロードなんて出てきたら、あたしらじゃ無理じゃん」


 アサーラはしゃくれたような顔をした。


「そりゃ俺だってゴブリンロードと正面きってやり合うつもりはない。ただ、コロニーにゴブリンロードは居ないんだ」


「それってぇ、どういう意味ぃ?」


「本当、うちのリーダーは悪党だね」


 ムルジャーナは何かを察した様子だった。


「コロニーを発見した斥候が商売仲間だったからな。小銭を渡してちょっとばかし話を盛ってもらったのさ」


「サイっちん頭いいー!」


「ここは弱肉強食の世界、騙される方が悪いと思わないか?」


「そうね」


 こうしてサイード一行は易々とゴブリンのコロニーを殲滅し、楽々と大金を手に入れるはずだったが、想定外の事態が起こった。


 ゴブリンの血の臭いに釣られて、オルトロスが現れたのである。


 サイード一行は持てる装備を駆使して、どうにかオルトロスの追撃から逃れて、崖のへりにできた段差に身を隠すことに成功した。


 とはいえ、アイテムを使い果たし、身動きが取れなくなってしまった。下手に動いて再びオルトロスの群れと遭遇すれば、今度こそ一巻の終わりだからである。


「行ったみたいだな」


 崖のへりは地上の狩人から隠れるには最適の場所だったけれど、空の狩人からは丸見えだった。


 サイード一行がそれでもやり過ごせていたのは、ムルジャーナのスキル『リフレクション』によって光の屈折を変化させ、姿を隠していたからである。


「ねえ、いつまで待てばいいの?」


 ムルジャーナは顔に疲労の色を浮かべていた。


 三日もの間、満足のいかない食事と睡眠で断続的にスキルを使い続け、精神も肉体も限界が近かった。


「ゴブリンのコロニーがあった場所から俺たちの逃げた痕跡を見付ければ、凡その方角はわかるはずだ。今日にでも捜索隊が見付けてくれるさ」


「昨日も同じこといってたよね」


 ムルジャーナはうんざりした感じでいった。


「ああそうだ、いつ助けが来るかなんてわかるわけないだろ」


「はぁ、あんたたちとパーティなんて組むんじゃなかった」


「何だと!? 抜けたきゃ好きにしろ。その時はお前が呪い装備を押し付けて冒険者を殺した人殺しだって噂を広めるてやるからな」


 限界が来ているのはサイードも同じだった。


「はんっ、本当に最低ね。プラチナ級冒険者っていってたけど、それも今回みたいに依頼主を騙して得た評価なんでしょ」


「てめぇ、もう一遍いってみろ!」


「喧嘩はやめようよぉ、あたしたち仲間じゃんかぁ!」


 アサーラは今にも取っ組み合いを始めそうだった二人の間に割って入った。


「そうね。とりあえず、ここから生きて帰ることを考えましょう」


「まったく、無駄な体力を使っちまった」


 サイードとムルジャーナが鞘を納めた直後だった。


「ワオーーーーーーーーーーーーーーーン!」


 間近いところからオルトロスの遠吠えが聞こえた。


 三人が慌てて崖のへりから確認すると、一頭のオルトロスが真っ直ぐとこちらを見据えていた。


「もしかして仲間を呼んだの……?」


「ああ、だろうな」


「あんたたちが大声出すからぁ、気付かれちゃったじゃんかぁ!」


 アサーラは吐き捨てるようにいった。

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