ハナの気持ち

「ク、クラーケンドラゴン!?」


 受付嬢からその名前を聞き、ウォリー達の顔は凍りついた。


「はい。以前レビヤタンが討伐に失敗し、撃退をしたクラーケンドラゴンを仕留める事が今回の試験内容となります」

「難易度が高すぎないか? Aランクのレビヤタンが倒せなかったモンスターの討伐など……」

「前回の戦いでクラーケンドラゴンの角は片方折られています。それに、ポセイドンのメンバーのうち2人は元レビヤタンのメンバーです。それらを考慮してギルドはこの試験内容は妥当だと判断致しました」


 ウォリー達は顔を見合わせる。この試験を受けるかどうか、互いに視線で尋ね合っていた。


「もし依頼を受けて失敗した場合、1年間はAランク試験を受ける事が出来なくなります。ムキになって何度も再挑戦し、命を落としてしまうパーティが出ては困りますのでこのような決まりがあります。ご理解ください」


 受付嬢はそう言って軽く頭を下げた後、さらに続けた。


「先程も言いましたが試験を受けるか辞退するかの判断は慎重にお願い致します。Aランク昇格試験は大きな危険を伴います。自分達の実力を冷静に分析し、安全第一でお願い致します」


 受付嬢の言葉にウォリーは頷くと、仲間達一人一人に視線を送った。


「みんな、Aランクに上がりたい気持ちは僕にもある。だけどこれはみんなの命にも関わる問題だ。急がずにゆっくり考えた方がいいと思う」


 結局その日、ウォリー達はすぐに返答をする事は出来ずこの問題は一旦持ち帰る事となった。







「へぇ〜クラーケンドラゴンねぇ」


 その夜、レストランでミリアとハナは食事をしていた。

 ウォリー達のAランク昇格試験の話はハナを通じてすぐにミリアの耳に入る事になった。


「もし、私達が討伐に失敗したクラーケンドラゴンをウォリーが討伐したとなれば、あいつらをAランクに上げてしまう事だけでなく私達よりもあいつらの方が上だと証明してしまうようなもの……この試験は絶対に阻止しなくちゃいけない」


 ミリアは小指程の大きさの小瓶をテーブルに置いた。

 瓶の中には黄色い粉末が入れられていた。


「これは何?」


 ハナが聞くと、ミリアは不敵な笑みを浮かべる。


「睡眠薬よ」


 ミリアはその瓶を6本テーブルに並べると、ハナの方に突き出した。


「試験前になったら隙を見てこの睡眠薬をダーシャのマジックポーションの中に入れてくれる?」

「えっ!?」

「あなたがくれた情報によればダーシャのスキルは魔力の消費が激しく、彼女はマジックポーションを常備しているそうじゃない。そのポーションの瓶にこれを混入させておくの」


 ミリアは小瓶をひとつ摘むとそれをじっと眺めた。


「これはそんなに強くない。飲んだところで強烈に睡魔に襲われるなんて事はない。ポイントは少しずつ、少しずぅ〜つ弱らせていく事だよ。ポーションを飲んでいきなり眠り込んだら怪しまれるからね。なんか今日ダルいな〜って程度に留めておくのがいいんだよ。それでも相手はあのクラーケンドラゴンだ、小さな体調不良が大きな危険に繋がる。Aランク昇格を阻止するには十分だ」


 邪悪な表情で語るミリアに、ハナは寒気を覚えた。


「どうして……ダーシャなの?」

「クラーケンドラゴンの角の破壊の難点はその頭の高さにある。残る一本の角を破壊するためにはあの高さまで上がらなきゃいけない。となれば、ダーシャの飛行能力、これが1番効果的だ。この試験の要となるのはダーシャなんだよ。逆に言えば、ダーシャさえ脱落させれば試験を達成する事は出来ない」


 ミリアはハナの手を取ると、強引に小瓶を握らせた。


「安心してよ〜。ウォリー達が試験に失敗したらハナちゃんの任務は終わり。またレビヤタンに戻してあげるから。そうしたらまたマロンちゃんの治療に十分な金を受け取ることが出来る。あ、ウォリー達が仮にAランクに上がっても支援金は貰えないよ。あれはAランクに上がった後1年以上活動してる事が条件の1つにあるからね」


 ハナは気が進まなかった。

 当然、ミリアの言いなりに動く事は癪に触る。

 しかしそれだけではない。ポセイドンに入って初めの頃は、ウォリー達がAランクに失敗しようがどうでもよかった。しかし最近は、彼らを裏切る事への罪悪感が日に日に大きくなっている。

 ハナは自分の変化に戸惑っていた。

 あれだけ嫌いだったウォリーを以前よりも受け入れているのは何故だろうか。ダーシャとはいつも喧嘩をしているが、不思議と嫌いになれないのは何故だろうか。

 手にある小瓶をじっと見つめて考え込む。

 目を固く閉じると、妹、マロンの顔が頭に浮かび上がってきた。

 マロンはあとどれくらい生きられるだろうか。有名な医者を何人もあたったが、彼女の病気を治せる者は居なかった。

 おそらくもう治らないのだろう。

 ならば少しでも、たった1秒でも長く生きさせてあげたい。その為なら何だってする。

 ハナはギュッと瓶を握りしめた。



「わかったわ……」


 気がつくとハナは涙を流していた。

 目を赤くして睨んでくる彼女を、ミリアは愉快そうに見つめた。

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