第六章

レビヤタンの魔法剣士

 朝を知らせる鳥の声を聴き、宿屋の一室でミリアは目を覚ました。

 ベッドから降り、彼女は寝巻きを脱ぐ。

 裸になって、鏡の前に自分の身体を映した。

 彼女の肢体は程よく引き締められ、筋肉の形が浮かび上がっている。

 鍛え上げられた上腕の筋肉は、街で見かけるお洒落に夢中なか細い女の腕とは一線を画す。幼い頃から剣を振り鍛え続けた努力の賜物だ。

 ミリアは魔法剣士。魔術と剣術の合わせ技を得意とするが、剣術のみで戦ってもAランクの冒険者と引けを取らない。

 同じパーティには剣の達人と呼ばれるジャックがいる。だが、それは彼が剣聖のスキルを持っているからだ。

 スキルや魔法抜きでの単純な剣技なら、自らがパーティ最強である自信を彼女は持っていた。


 彼女は自分の身体の仕上がりをしばらく眺めて満足すると、冒険用の動きやすい服に着替えた。

 真っ赤な髪をツインテールに縛り、冒険者ミリアの姿へとなる。

 木製のテーブルに目をやると、昨夜眺めていたノートが開きっぱなしになっていた。

 レビヤタンのメンバーと合流する時間までまだ余裕がある。ミリアはテーブルの前に座り、もう一度ノートを見て思考を巡らせた。

 ノートには新聞の切り抜きがいくつか貼り付けてある。

 その中の1つを読み返してみる。

 ベボーテ村が盗賊の襲撃を受けた事件。村の村長が盗賊と繋がっていた事が衝撃を与え、当時は話題になった。

 その時村を救ったとされる冒険者達の中に、ウォリーとダーシャの名が有る。

 ウォリー。自分の幼馴染でありかつて同じパーティに所属していた男。そしてダーシャという女は魔人族で、そのウォリーと現在パーティを組んでいる人物だ。

 記事には毒に侵された村人達をウォリーが回復したと書かれている。治癒師の彼の回復魔法と元々持っている多量の魔力があればまあ可能だろう。だが盗賊の頭のゴメスを斬り、捕らえたのもウォリーだというのはどういう事だろう。ウォリーは近接戦闘が苦手だったはずだ。

 さらにわからないのは次の記事だ。

 サイバスの森で冒険者が神隠しに合うという事件。レビヤタンもこの依頼を受けたが結局失踪した冒険者を見つけられなかった。その依頼を達成したのがウォリー達のパーティ、ポセイドンだ。

犯人は人間で、地下に冒険者を連れ去って人体実験のような事をしていた。記事によればモンスターと人間を融合させて新生物を作っていたらしい。

 しかし姿を変えられた冒険者達は全員元の姿で救出されている。助けられた冒険者の証言では、彼らを治したのはウォリーだという話だ。

 ウォリーは治癒師だが融合された生物を元に戻す力などないはず。そこがどうもわからない。

 別の記事を見ると、つい最近街のカジノオーナーであるディーノの家から財宝が盗まれたという。その責任を負いポセイドンはギルドを追放されたが、直後に盗まれた財宝をウォリー達が見つけ出したためギルド追放は取り消された。

 盗んだ犯人が誰なのかは明かされていない。

 ミリアはディーノが経営するカジノへ行った事がある。そこにはガラスの箱に入れられたネズミが展示されていた。

 何でもディーノの財宝を探り当てたのはこのネズミだそうで、縁起が良いという事でネズミ目当てでカジノへ来る客が増加したそうだ。

 ネズミを使ってウォリー達が財宝を見つけたのだとすれば、ポセイドンのパーティにはテイマーが存在する事になる。

 ウォリーのスキルは治癒師だ。だとすればテイマーはダーシャか、もう1人のメンバーである背の高い女リリ。

 しかし、ミリアがベボーテ村の住人と、今はギルド追放となったアンゲロスというパーティのメンバーに聞き込みをした所、2人のスキルは黒炎とガーディアンだとわかった。


 ミリアの中で胸騒ぎがした。

 今のウォリーは自分が知っているウォリーでは無いのかもしれない。

 ミリアは目を閉じて彼の事を思い浮かべる。

 彼と過ごした幼い頃を思い出すと、胸が苦しくなる。

 大勢の大人から自分へ向けられる視線。

 痛々しい記憶が押し寄せてくる。

 気がつけば、ミリアは手元のノートをぐしゃぐしゃに丸めて握っていた。


(次の手を打たないと……)


 ミリアが立ち上がると、1羽の鳩が部屋に飛び込んできた。

 鳩はミリアの腕に止まると、光を放って消滅した。

 そして、鳩がいた場所からポトリと手紙が落ちる。

 魔法で作られた伝書鳩。


 ギルドからの緊急の呼び出しだった。

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