プロの泥棒

「ディーノ様、あの冒険者達が再びお会いしたいと……」


 自室の机に向かっていたディーノに、使用人はそう声をかける。その瞬間、ディーノの眉間に皺が寄った。

 あの冒険者というのはウォリー達の事だろう。もう顔も見たくない連中だ。


「会う気は無い。ネズミ駆除が終わったならとっとと出て行って貰え」


 使用人の方に目を向ける事もせず、ディーノは答えた。大方、ネズミを捕まえたから次の仕事を与えてくれとでも言いに来るつもりだったのだろう。これ以上ウォリー達に付き合うのはうんざりだった。

 しかし、彼にとって予想外の事が使用人の口から告げられる。


「それが、盗まれた財宝を見つけたとの事で……」


 その時初めてディーノは顔を上げた。

 使用人の目をじっと見つめる。


「なんだと?」







 ディーノの部屋に通されたウォリーの肩には、何故かネズミがちょこんと乗っていた。


「うわ! 何だそれは! 汚いな!」


 自分の部屋にネズミを持ち込まれれて、ディーノが不快そうな声をあげる。


「すみません。食糧庫のネズミを捕まえましたので、こうしてお見せしている次第です」


 ウォリーは爽やかな笑顔を作り答えた。


「なぜそのネズミは逃げない?」

「僕はテイマーに似たスキルを持っています。その能力で、この子を従える事が出来ました」


 実際にはこのネズミを捕まえるのにウォリー達はかなり手こずった。物陰から物陰へ素早く移動する相手を捉えるのは容易では無い。おまけに知能が高く、トラップの類は全て看破されてしまった。

ウォリー達はまずリリの能力で食糧庫の四方を防壁で取り囲んだ。壁の穴や扉の隙間から逃げ出さないようにする為だ。

 ダーシャとウォリーはその中を必死で走り回ってネズミを追い込み、リリの近くまで来た所で彼女のバリアジェイルによって捕獲した。

 その後調教マンを使い、何とかネズミを従える事に成功した。


「言っておくがな、ネズミ1匹捕まえた所で何の助けにもならん。今私が求めているのは、盗まれた財宝を取り戻す事だ」


 厳しく言い放つディーノだが、ウォリーは自信ありげに背筋を伸ばしている。


「はい。その財宝、つい先程見つけ出しました」


 ディーノは思わず失笑した。


「お前達は先程まで食糧庫に居たはずだ。それなのに、どうやって財宝を見つけたと言うんだ」


 嘲笑うかのような表情をウォリーに向けていたディーノだったが、ウォリーが差し出した手の中にある物を見て彼の表情は一変した。


「まずはこちらをお返しします」


 彼の掌の上に、古びたコインが置かれている。それは紛れもなくディーノが金庫に保管していた古代のコインだった。


「こ、これが……どうしてここに?」

「他の財宝の在り処も見当がついています」


 ウォリーは困惑するディーノを見つめて言った。


「案内して頂けますか? ペリーさんの部屋まで」




 ペリーの部屋は地上1階に有った。ディーノがノックすると、だるそうな表情を浮かべたペリーが扉の隙間から顔を覗かせる。

 ディーノの他にウォリー達も揃っている事に気づくと、彼は怪訝な顔をした。


「何でこいつらがここに」


 そのペリーの問いにディーノが答えるよりも前に、ウォリーが語り始めた。


「あの日、金庫室を警備していた僕達の他に屋敷の周辺にも見張りが居ました。しかし、僕達以外の誰も怪盗キングの姿を目撃していない」


 何が言いたのかわからずペリーが首を傾げた。ウォリーは続けて語る。


「金庫室に予告状を置くのも、外の見張りに気付かれずに金庫室へ入るのも、屋敷の内部の人間なら可能です。屋敷の中を自由に動ける彼なら」

「なんだお前! 俺を犯人扱いするのつもりか!?」


 ペリーが顔を真っ赤にしてウォリーに掴みかかった。だが、ウォリーは淡々と語り続ける。


「あの時の僕達は明らかに正常ではありませんでした。後から気が付きました。あの時あなたに幻惑剤を飲まされていた事に」

「幻惑剤?」


 幻惑剤とはイマジンマッシュルームというキノコから作られる薬だ。飲めば気分が高揚し、楽観的になって正常な判断が出来なくなってしまう。


「お前いい加減にしろよ、泥棒に入られたのはお前らの怠慢だろうが! 俺に罪をなすりつけるつもりか!」


 ディーノはその様子を見て困惑していた。確かにウォリー達の言い分はとんでもない事だ。しかし、彼らが盗まれたはずのコインを見つけ出した事も事実であった。信じるべきかどうか、判断に迷っていた。


「教えてくれたのはブレイブなんです」

「あぁ? ブレイブぅ?」

「うちで飼っている犬です。僕達がこの屋敷を出た翌日、ブレイブは妙に興奮していました。その時は大きな疑問は抱きませんでしたが、その後、ブレイブはリリのハンカチを咥えて持ち去っていた事が分かったんです。そう言えばあの時ダーシャが自分の服に紅茶をこぼしてしまい、それをリリがハンカチで拭いていました……」


 突然犬の話をされ訳がわからずペリーの苛立ちは増していった。顔を真っ赤にし、歯をくいしばってウォリーを睨みつけている。


「幻惑剤は紅茶の中に仕込まれていたんです。その紅茶が染み込んだハンカチを咥えたせいでブレイブは興奮状態になってしまった。そして、その紅茶を運んできたのはあなたですよ、ペリーさん」

「デタラメ言うな! そんな証拠がどこにある!」


 ペリーは鼻と鼻がぶつかりそうな距離までウォリーに顔を近づけ、怒鳴った。だがウォリーは動じる事なく冷たい視線をペリーに送っている。


「では、あなたの部屋を調べさせてください。僕の考えではそこに盗品があるはずです」


 そこで、ペリーの身体が少し退いた。怒りの表情のまま、視線をあちこちに移し、何かを考えている。


「断る! お前らに部屋を見せる筋合いは無い。プライバシーの侵害だ」

「ご安心ください。何も部屋中ひっくり返そうなんて思っていません。一箇所だけ見せて貰えればいいですから」


 そう言うとウォリーはペリーを突き放して、部屋の入り口へ向かって歩いて行った。


「おい待て! 何を勝手に……」

「あれをもう一枚持ってきてくれる?」


 ペリーを無視してウォリーは肩に留まっているネズミに語りかけた。ネズミはぴょんと地面へ着地するとペリーの部屋へ駆け込んで行った。


「なっ!? ネズミが!」


 ネズミがペリーの本棚の裏に入り込む。ウォリーはそれを確認すると、ディーノの方に身体を向けた。


「ディーノさん、ネズミの駆除を志願したのはあの子を味方につけたかったからなんです。あのネズミはずっとこの屋敷に住み着いて食糧を盗み続けている、言わばプロの泥棒です。あの子ならこの屋敷の事を熟知しているのではないかと思っていました。私はあの子を従えてすぐ、ペリーさんの部屋に入ってある物を探し出して来るように命じたんです」


 やがてネズミがペリーの部屋から飛び出して来た。ネズミはウォリーの服をよじ登って、再び彼の肩に乗った。


「あっ!」


 そのネズミの口元を見てディーノが声をあげた。ネズミの口には、盗まれた古いコインが咥えられていた。


「最初にディーノさんにお渡した1枚目も、この子がペリーさんの部屋から見つけ出したものだったんです。そして、先程この子は本棚の裏に入って行きました。財宝は、本棚の裏に隠してあるのですね?」


 そう言ってウォリーは本棚に近づいて行く。ペリーは慌ててそれを止めようと動き出した。


「てめえ! 何勝手に俺の部屋に入ってんだ!」


 ペリーがウォリーの肩を掴もうとした瞬間、ダーシャが背後から彼を羽交い締めにした。


「やましい事が無ければ見せられるはずだろう!」


 必死にもがくペリーを他所に、ウォリーは本棚に手をかけた。そして、本棚を横にずらしていく。

 本棚の裏には隠し扉があった。

 それが露わになった瞬間、ペリーの顔が青ざめる。

 ウォリーによって隠し扉が開かれる。

 金庫から盗まれた財宝の数々が、扉の奥から顔をのぞかせていた。

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