ベルティーナの尋問

 蒼白の顔で硬直するウォリー達とは対照的に、ベルティーナはいかにも上機嫌な足取りで3人の前に着席した。

 彼女は机に頬杖をついて、見下すような視線を目の前の3人に送る。


「まったく、悪い子ちゃん達だねぇ〜」


 手元の書類に視線を移し、彼女は語りはじめた。


「ディーノ氏の報告によればぁ〜? ウォリー、ダーシャ、リリの3名は金庫室の警備を任されていながら、侵入者が金庫の中身を持ち去るのを許し、その後ディーノ氏に報告もせずその場で談笑をしていた。状況から見て侵入者の犯行を阻止しようとした形跡無し」


 彼女はそこまで語って、目を見開いてわざとらしく驚いた素ぶりをしてみせた。


「うわぁ〜、これは酷い職務放棄じゃ〜ん!」


 ウォリー達は歯を食いしばった。彼女の言った事は紛れも無い事実だ。自分達が確かにやったという記憶がはっきりと残っていた。


「待ってください」


 ウォリーが声をあげた。


「確かにディーノさんのその報告の通りです。しかし、あの時の僕達は正常ではありませんでした。何らかの魔術にかけられていたとしか……」

「魔術? どんな魔術よ」

「わかりません。ただ、気分が常に楽しくなっていて、目の前に泥棒が居ても許してしまう。そんな風に人を狂わせてしまうような何かが僕らに働いたのかと……」


 そこまでウォリーが言うと、彼女は大欠伸をした。


「はぁ〜、そんな曖昧な事言われてもわかんないしぃ〜。てか、あんたらが元から異常だったってだけなんじゃね?」

「ふざけるな!こっちは真剣に……」


 ベルティーナの態度にダーシャが怒りの声をあげた。


「じゃあさ〜。魔術をかけられたって言うならもっと詳細に話してよ。かけた相手はどんな詠唱をしたとか、魔術の射程範囲はどのくらいだったとか、いろいろあるじゃん?」

「そこまでは……わからない」

「わからないぃ〜? 何もわからない癖に魔術だって決めつけてんの?ウケる〜!」


 手を叩いて笑うベルティーナを、ただただダーシャは睨みつけていた。


「僕達が狂ってしまった時、金庫室には僕ら以外誰も居ませんでした。だから魔術をかけられた瞬間を誰も見ていないんです」


 ウォリーのその言葉にベルティーナの笑い声は一層大きくなった。


「はぁ〜? 部屋に入って来ても無いのにどうやって魔術をかけんだよ!あんたらマジやばくね〜!?」


 どうやらウォリー達の言葉をまともに信じる気が無いようだった。むしろ有罪であって欲しいというのが彼女の本心だろう。厄介な相手に遭遇してしまったと、3人は改めて思い知る。


「ふふん、あんた達やっべえよ。多分このまま行けばギルド追放だね〜」

「なっ!? それはいくらなんでも罰が重すぎだろ!仲間殺しをやった訳じゃあるまいし」


 堪らずダーシャがテーブルを叩いて立ち上がった。


「おすわり!」


 ベルティーナが彼女を怒鳴りつける。


「ダシャっち〜、まだ自分達のやった事の重大さがわかってないみたいね〜。ディーノといえばこの街の大富豪にしてうちのギルドに多額の出資をしてる人物なの。そのディーノ相手に粗相をしたって事は、ギルド全体に損害を与えるって事なワケ。お、わ、か、りぃ〜?」

「だからって追放なんて……」

「じゃあ何? 盗まれた財宝分の金額をダシャっちが弁償してくれるとでも言うワケ〜? あんたが一生働いても稼げる額じゃないんですケド〜」

「貴様! さっきから言わせておけば! おい、担当を代われ! お前じゃ話にならん!」


 ダーシャが今にも飛びかかりそうな勢いでベルティーナを怒鳴った。


「はぁ? なんなんその態度。ここで話した事は全部上に報告する事になってっから、私への態度はそのまま上の評価に影響するよ〜?」

「くっ……」


 ダーシャは彼女を睨みつけながらゆっくりと腰をおろした。


「んじゃっ! 犯人特定の為に侵入者の容姿についての聴き取りを行いま〜す」


 ダーシャを黙らせた事でさらに上機嫌になった様子で、ベルティーナは手元の書類にペンを走らせた。

 その後、彼女の尋問は1時間近く続けられた。







「はぁ……」


 ダーシャはもう今日何度目かもわからない溜息をついた。

ベルティーナから解放され、自宅への帰路を3人は弱々しい足取りで歩いている。


「本当に、私達追放されちゃうんでしょうか……」


 リリが言うが、ウォリーもダーシャも押し黙ったままだった。

 今の段階では何とも言えないが、ベルティーナの様子からして追放の可能性は高い方だろう。ギルドからは明日また来るようにと言われている。今日のベルティーナの報告がギルド上層部へ行き、明日にはウォリー達の処分が言い渡されるそうだ。


 暗い気持ちのまま自分達の家へ到着し、ウォリーが玄関を開ける。

 すると、ブレイブがものすごい勢いで飛び出して来た。尻尾を千切れるかというくらいに振り回しながら、リリに飛びついた。


「きゃあ! もう……こんなに喜んで」


 リリが笑みを浮かべてブレイブを撫でた。その様子に、落ち込んでいたウォリー達の表情も少し明るくなる。


「今日のブレイブはやけに興奮してるね」


 見ればブレイブは3人の前で腹を上に向けて転がってみたり、同じ所でぐるぐると回転したり、家の中へ走り去ったかと思えばまた戻って来たりと、落ち着き無く動き回っている。

 いつもウォリー達が帰宅すると喜んで出迎えてくれてはいるが、ここまで興奮しているのは珍しかった。


「もしかして僕達が落ち込んでるのを察して、元気付けようとしてくれてるのかな?」


 ウォリーは呟くと、ブレイブの頭をそっと撫でた。

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