第五章

3人の家

 目を覚ますと眩しい光が瞼の隙間から入って来たので、ウォリーは思わず顔を腕で覆った。

 少しだけ時間をおいて、彼はゆっくりと身を起こすとベッドから降りた。

 住み始めたばかりの部屋は、まだ家具もそれほど揃ってなくがらんとしている。

 ウォリーは元々ここに住むつもりは無かった。だがその意思を伝えた途端ダーシャとリリに一緒に住むように強要された。


「お前1人だけ仲間外れにしているようで良い気がせん!」

「パーティのお金で借りるのにウォリーさんが住まないなんておかしいですよ!」

「部屋を分ければ済む話だろう!」


 彼女達は口々に言い、ウォリーに反論の余地を与えなかった。

 結局、3人で住める家を探してそこを借りて住むことになった。

 冒険者向けの宿屋は低価格の代わりに風呂やキッチンなどは部屋に個別で備わっておらず、共用で使用する事になっていた。それを考えれば今ウォリーが住んでいる家も3人それぞれ部屋は分かれているので、宿屋を使うのと環境はあまり変わらないのかもしれない。

 それでも1つ屋根の下に女2人と一緒に住むという状況に、まだウォリーは少し落ち着けていなかった。


 ウォリーは寝起きで開ききらない目を擦りながら、着替えを済ませる。部屋の扉を開けダイニングへ向かうと、良い匂いが漂ってきた。


「おおウォリー、おはよう」


 キッチンで朝食を作っていたダーシャがそう声をかけてきた。ダーシャは男勝りな性格だが、意外と料理が上手い。聞けば実家がそういう教育を徹底している所らしく、幼い頃から一通り教わっていたらしい。

 彼女から感じる気高さだったり魔人族と人間族の和解といった壮大な使命感を持っていたりするのは、そういった教育が影響しているのかもしれない。


 ウォリーが料理をする彼女を何となく眺めていると、玄関の扉が開く音がした。それと同時に、犬の鳴き声が聞こえてくる。


「ただいま〜。あ、ウォリーさんおはようございます!」


 リリが犬を連れてやって来る。どうやらウォリーより早く起きて、犬を散歩に連れて行っていたようだ。


「おはようリリ、それからブレイブも」


 ブレイブと言うのは犬の名前だ。名付けたのはリリで、由来は囚われのダーシャを救い出したブレイブ勇者だからだそう。因みにその勇ましい名前とは裏腹に性別はメスだ。

 野犬だった時は全身土で汚れていて毛も乱れていたが、この家に来てすぐリリが身体を洗ってやり、今では綺麗に整った茶色の毛並みが輝いている。

 リリはブレイブにぞっこんで、散歩から餌やりなど世話は全部彼女が率先してやっていた。寝る時は自分の部屋に連れ込んで毎晩一緒に寝たりと、常に一緒に居る。従えたのはウォリーなのだが、今やリリの方が主人のようになってしまっている。


 ウォリーはと言えばこの家では主に掃除などを担当している。

 つい最近彼は新しいお助けスキル『清掃マン』を取得したばかりだった。その名の通り掃除が上手くなり、さらに掃除スピードもアップするというスキルだ。

 ダーシャは料理を作ってくれて、リリは犬の世話を全部やってくれる。そんな中でウォリーが自分もこの家で何か2人の助けになりたいと頭を悩ませた時、このスキルが取得可能になった。

 ウォリーのこのスキルのおかげで、物件の中では安い方だったこの家も今では新築のような美しさを放っていた。


「今日は休みにしようと思うんだ」


 ダーシャが作ったオムライスにフォークを沈ませながら、ウォリーは言った。


「そうだな、最近は依頼をひたすらこなす日が続いていたからな」

「じゃあ1日何をして過ごしましょうか?」

「ショッピングとかどうかな? まだこの家も殺風景だし、インテリアとか見るのもいいかも」

「じゃあ昼食は街で外食にしませんか? 前から気になってたレストランがあって……」


 そんな会話をしながら朝食の時間が過ぎて行く。


 差別を受けて1人孤独に戦ってきたダーシャ。パーティメンバーから道具の様に扱われてきたリリ。そして、その性格を嫌われてついにはパーティを追放されたウォリー。

 この3人が冒険者になってから初めて経験する、和やかな仲間とのひと時だった。

 1つ屋根の下に住んでいるという事も相まって、本当に自分達が家族になったような感覚をそれぞれが感じていた。

 そして、これからもずっとこの仲間達と共に冒険者をやっていけると思っていた。


 しかし……








「ポセイドンのメンバー、ウォリー、ダーシャ、リリ。以上この3名をギルド追放処分とする」


 ギルドの会議室。呼び出されたウォリー達にギルド職員はそう言い放った。

 3人は顔を青くしたまま俯いている。


(どうして……どうしてこんな事になった)


 ウォリーは考えを巡らしながら頭を抱えた。

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