森の妖精

 翌朝、ギルドから依頼を受けたウォリー達はサイバスの森を探索していた。

 サイバスの森に出現するモンスターはBランクのものが多い。その森で次々と冒険者が行方不明になるという事件が起こっていた。

 捜索隊を送ろうにもモンスターが出て来ては襲って来るので、戦闘慣れしていない者は迂闊に森には入れない。

 そこで戦闘の実力のあるレビヤタンにこの話が行ったそうだが、結局行方不明の手掛かりすら掴めなかったとの事だ。

 単純にモンスターに襲われて死んだとしても、そこに骨や所持品などは残る筈。しかしそれすら見つからないので、冒険者達は不気味に思っていた。


「2人とも、今日の昼食だ」


 ダーシャはそう言って手拭いで包んだ食料を配る。中身はおにぎりでダーシャのお手製だ。

 冒険者は探索が長時間に渡る場合、ダンジョン内で食事をとる事が多い。しかしモンスターが出没するダンジョンで呑気に床に弁当を広げて食べるというわけにもいかないので、おにぎりやサンドイッチなど移動しながら食べられるものが好まれている。


「レビヤタンさえ達成出来なかった依頼だ、気合いを入れていこう!」


 そう言って張り切るダーシャだが、ウォリーとしてはあまり揉め事にしたくはなかったので複雑な心境だった。


「まぁ…私もレビヤタンについてはキツく言ったがな、あの赤髪の女性についてはそんなに悪い印象ではなかったぞ」


 ダーシャが言っているのはミリアの事だった。あの時レビヤタンの中で唯一、ウォリーを賞賛していた人物。


「ミリアは、僕の幼馴染でね…いつも僕をフォローしてくれてたんだ…」


 遠い目をしながらウォリーは言った。


「なるほど!だからウォリーとも仲がいい訳だな?何だったら、レビヤタンなんか抜けてこっちに入ったらいいのに…」


 そう言うダーシャに、ウォリーは首を振った。


「いいや、そこまでして貰うのは申し訳ないよ。レビヤタンを抜けると、色々と失うからね…特に支援金とか」

「支援金?」

「沢山の実績を上げて国に貢献したパーティは、政府から毎月支援金が貰えるんだ。その対象パーティの1つがレビヤタン。特にレビヤタンはAランクパーティの中でも1番の実績と実力があるから、結構高額な支援金を貰ってた。でもパーティを抜けたらそれも貰えなくなっちゃうからね…」

「なるほど…」


 ダーシャが眉をひそめた。


「あっ!見てくださいあそこ!」


 突然、リリが正面を指さす。他2人がその先に視線を向けると、そこに1人の女性が立っているのが見えた。服装からして冒険者の様だった。


「行方不明になった冒険者ですかね?」

「まさか…そんな簡単に見つかる訳が…」

「ちょっと話しかけみよう」


 ウォリー達は女性に向かって歩みを進めた。だが、彼女の表情が見えるくらいまで接近した時、彼らは違和感を覚えた。

 その女性はウォリー達をじっと見つめているが、その表情はまるで感情が無いかのような無表情だった。ウォリー達が「おーい」と呼びかけても、眉ひとつ動かさない。


「すいません。冒険者の方ですよね?」


 ある程度近付いてウォリーがそう声をかけた瞬間、彼女の背中から何かが飛び出した。


 ウォリー達の周囲に粉状のものがキラキラと輝きながら舞っている。

 見れば、女性の背中からは巨大な蝶の羽根が生え広がっていた。


「え…羽根が…!?」

「まさか…人間じゃない!?妖…精…?」


 ウォリー達は一瞬驚いたが、すぐに別の問題に気がつく。


「あ……れ…?」


 彼らの視界がぼやけ、まともに立っていられなくなり3人共その場に崩れ落ちる。

 自分達の状況を理解するよりも前に、ウォリー達はその場で眠りに落ちた。







「リリ…リリ!!」


 ウォリーに揺さぶられ、リリが意識を取り戻した。かのじょははっとして急いで身体を起こす。

 太陽の位置を見る限り、それほど長く眠っていた訳ではなさそうだ。


「さっきのキラキラしてた粉…恐らく鱗粉だよ。あれのせいで眠らされてたんだ」


 ウォリーは落ち着きのない様子で周囲をキョロキョロと見回しながらそう言った。


「でも、私達無事みたいですけど…」


 周囲は意識を失う前と同じ森の中だ。身体に傷も無い。眠らされている間にどこかに連れ去られたり攻撃を受けたりはしていない様だった。


「いや、まずい…」


 ウォリーは額に汗を垂らしながら言った。


「ダーシャが何処にも居ない」







 ピチャンと天井から水が落ちる音がする。

 ダーシャが意識を取り戻した時、周囲の景色は見知らぬ部屋だった。

 窓は1つも無く、その薄暗さと寒さから地下室だと思われる。


「くそっ!何だここは!離せ!!」


 ダーシャはテーブルの上に寝かされ、手足は鉄枷で拘束されていた。

 黒炎を使おうにも、何故か出せない。よく見れば鉄枷に呪文が彫ってある。恐らく魔法を封印する呪文だろう。


「ウォリー!!!リリ!!!どこだ!?無事か!?」


 ダーシャは唯一動かせる口で必死に叫ぶが、返事は無い。


 ギィィ…


 …と錆びた扉が開く音がして、誰かが入ってきた。

 白衣を着てメガネをかけた男が、ダーシャの視界に入ってくる。男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、ダーシャを見下ろす。


「何だ貴様は!私をどうするつもりだ!」


 すると男は、ダーシャの太ももを撫で始めた。


「ひっ!」


 ダーシャの身体に寒気が走る。


「いい素材だなぁ」


 男は不気味な笑みのまま呟いた。


「魔人族は差別の影響でこっちに入国してくる人は滅多に居ない。こんな所で出会えるとは…」

「貴様!やめろ!私に触るなあああ!!!」


 そう叫ぶダーシャの顔を男はゆっくりと覗き込んだ。メガネの奥に、三日月のような目が怪しく笑っている。


「それじゃ、今から君の身体をたっぷり弄らせて貰うよ〜ふひひひ。大丈夫、優しくしてあげるからねぇ~」


 男の言葉にダーシャは血の気が引いた。


「やめろ…やめろ!!やめろおおおおおおおああああああ!!!!!!!!」

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