第10話 脱出後の騒動

 ダンジョンを脱出すると外は真っ暗だった。ダンジョンを出るときに時間の確認はしなかったが、どうやら外は夜だったようだ。


 あたりを見渡すとそこは彼女たちが落ちた穴があったところで、瑞希か買い物をしたコンビニや、自分たちの周りがKeep outと書かれたテープで囲まれていることに気が付いた。



「君たち、そんなところで何をしているんだ!」



 瑞希と凛華がこれからどうするか、と話をしていると急に男性の声が聞こえてライトで照らされた。



 急に顔に向かってライトを向けられたので、瑞希と凛華は反射的に顔を手で覆い、凛華は指の隙間から相手を確認すると、声をかけてきたのが怪しい人ではなく警官だとわかると瑞希の前に出て努めて平然とした様子で返事をした。


「あ、すいません。今から帰ろうと思っていたんです」


「今から? 今が何時だと思っているんだ? それにそこは…、ってあれ、そこにはダンジョンの穴があったはず…。それにその恰好…」



 警官は凛華と瑞希の姿を見て、近くの高校の制服を着ているが、2人とも剣と刀を腰や背中に身に着けていたりして、まるでダンジョンに向かうところか、帰るとこであるかのように思えた。



 瑞希と凛華は顔を見合わせて誤魔化して逃げるよりも先に事情を話した方がこの後もスムーズに事が進むと思い、凛華から警官へと事情が説明された。



 警官は2人の話に驚き、自分だけでは判断が難しいということを告げると所にいる先輩やダンジョン委員会の方へ連絡をし、それから2人には家族に連絡をするように伝えたが、既にダンジョンにいる間に2日も経過しているのでスマホの充電は切れていたので、警官からケータイを借りて家に連絡を取った。




「瑞希…っ!」


「お母さん、お父さん…っ!」



「大丈夫だったか!? 怪我はないか!?」


 それから2人は時間が夜だったにもかかわらず長い話し合いに巻き込まれた。警察署で事情を話し一時的に迎えが来るまでの保護をされ、瑞希は、迎えに来た両親からは心配をしたということで泣きつかれ、感情が溢れて止められなかった瑞希も泣きだした。



「凛華」


「父さん」


「よく帰って来たな」


「うん、父さんたちも協力をしてくれたし、お爺ちゃんの刀もあったからね」



 凛華は無茶をして私たちに心配かけすぎないでくれ、頭を軽くポンポンと叩かれ声をかけただけのように思えたが、小声で凛華の耳元に「よくやった」と囁かれていたことが瑞希にも聞こえてきていた。



 一応建前としてはダンジョンに蒔きこれた友人を勝手に追いかけて行ったということにされているようで、表立ってほめることができなかったのでこのような形で凛華の父親は凛華をほめたのだった。



 両家の親が落ち着くまでの間は警察も特に話に介入してくることはなかったが、落ち着いてからは軽くどういう事情であったかという話を聞かれただけで済んだ。


「ご協力ありがとうございました。私たちからは以上ですが、そろそろ、あ、来ましたね。ダンジョン委員会でも似たようなことは聞かれると思いますし、もしかしたらそれ以上に詳しく聞かれるかもしれませんので、頑張ってください」



 警察の方はそう言うと出口まで案内をしてくれた。


 出口の方まで行くと既に委員会からの迎えの人が来ていた。



「そちらが今回通報の合った方ですか?」


「まぁそうですね。通報というよりも連絡といってほしいですが」


「ダンジョンに行き、攻略をしたにもかかわらずすぐに連絡もせず武器を携帯しているような人たちを保護することはできませんので」


「そうですか」




 瑞希と凛華は顔を見合わせ、彼女たちの両親も委員会の迎えの人に対していい印象を抱いてはいなかった。


 また、これは後日あまりの態度だったのでどういうことだったのか警察の人に話を聞いたのだが、委員会と警察はあまり良好な関係を築いていないようだった。



 警察の方からは、ダンジョンで鍛えられた特異な武器や魔法を操る探索者を取り締まることができないので、委員会の方でそう言った問題を起こす人たち取り締まるなり逮捕して欲しいと要請しているのに対し、委員会はあくまでダンジョン内で探索者が引き起こしたことに関しては介入するが、それ以外のところは警察の領分だろうとその意見を突き返しているのだ。



 委員会も発足したてで、人数は不足しているので余計なところまで手が回らないのだ。ただでさえ買い取り価格をどうするか、探索者の質を上げるにはどうすればいいのか、国から求められる成果をどうすれば上げられるか、等とあちこちとの連携も図らなければならないうえに結果を求められるのでかなり大変なのだ。



 今回迎えに来た人はそうした事務仕事で忙しいにもかかわらず、深夜に呼び出され、屈強な男たちや訓練を積んでいる兵たちでも突破が難しいとされているダンジョンを、(それが例え突発型の低級なダンジョンであっても)攻略したというのが信じられないのだ。



 また、彼女は何かイカサマをしていたり、お金を摘んでいいものを使って攻略をしたりとかした面倒くさい奴なんだろうと思っているのだ。彼女はダンジョンに突いては実際に挑んだこともなく、金払いのいい仕事だからと引き受けた仕事なのでそこまでダンジョンにもいい感情を持っていないということでこのような態度を取っていたのだ。



 警察としてもダンジョン関係のことにはあまり関わりたくはないようで、委員会とは距離を取っているようで今後も難しい関係だろうと最後に言っていた。




「それでは、こちらに」



 迎えに来た女性に連れられて着いたのはやはり委員会の支部だった。



 本部は東京都の新宿に位置しており、支部はダンジョンが発生したという地域の近くに設立されている。


 今回彼女たちが連れて行かれたのは埼玉県の久喜支部だった。本来ならもう少しダンジョンの近くに設置されることが求められていたのだが、久喜、春日部、幸手、加須、白岡と他の地域の近くにもダンジョンが発生してしまい、あまり乱立させるも問題だと考えられて、久喜と春日部の2か所にダンジョン委員会の支部が設置されたのだ。今回彼女たちが巻き込まれたのは加須だったので少々移動に時間も取られた。



 迎えに来てくれた人の案内で通されたのは支部長室だった。瑞希と凛華の付き添いには両家の父親が来ており、瑞希の母親は凛華の家に顛末を話すのと感謝を伝えに行くために一足先に戻っていた。



「よくきたな。ダンジョン員会久喜支部の、久喜 伸平だ。立ち話もなんだからそこに座ってくれ」



 支部長室で座ったまま出迎えたのは30後半の少々体格のいいおじさんだった。彼は瑞希と凛華を見て一瞬侮るような表情を見せるが後ろから父親たちも来ていたためか、その表情を隠したのを瑞希と凛華は見逃さなかった。



「それで、そこの女の子2人がダンジョンを攻略したということでいいのかい?」


「はい、そうです」



 凛華はそれ以上の情報は与えないということで簡潔に返事をした。


「そうか。それならその時のことを詳しく話してくれるかい? 突発型ダンジョンの報告はうちの支部では初めてだし、他のところでもそんなに報告はないようだからね」



「それは強制ですか?」



 凛華は答えるのを渋るようにそう返した。この返事には父親たちや支部長である久喜も驚いていた。



「もちろん任意ではあるが協力をしてくれると助かるよ。それでどれだけの人の命が助かるか、わかるだろう? 情報は大切で知っていれば防げたこともあるからね」


 久喜は凛華が話すの渋るので瑞希に狙いを定めたのか、彼女の同情心を誘うかのように彼女をじっと見ながらそのように言った。


「それならその情報を話すことに報酬はあるの? 私たちはただ巻き込まれた一般人で委員会の所属ではないから話す義務はないはずよ」


「それなら委員会への所属手続きを…」



 久喜が事前に用意をしていたかのようにカードを取り出そうとするが、凛華はそれを遮った。


「結構よ。私たちはダンジョンに潜るつもりはないし巻き込まれただけだから。今回のことを話す代わりに要求するのは別のことよ」



 凛華は久喜の話を遮ると同時に伝えたかったのは、ダンジョンの情報を話す見返りを要求するためだった。


「いやいや、せっかく攻略をしたというのにもかかわらずその力を遊ばせておくのは勿体ないと思わないのかい?」



 茎は凛華がダンジョンに潜ることはないと言ったところに激しく動揺を示し、何とか委員会に所属させようと委員会に所属する利点をつらつらと述べ始めた。



「そこまでにしてもらいましょうか。うちの娘はまだ高校生だ。所属する気がないと本人がいうのなら私も許可を出さない」


「それは私も同じです」


「しかし…」


「というか、私の条件を飲むなら情報を話すって言ったのを忘れないで欲しいんだけど」



 凛華も父親たちが参戦をしてきてしまったので、そろそろ本筋に話を戻さないと余計に時間がかかってしまうと思い口を挟んだ。



「そ、そうだね。それで話してくれる条件というのは何だね?」


「要求は簡単よ。私と瑞希、私たち2人にダンジョン関係者がこれ以上関わらないこと、これが条件」


「ど、どういうことかな?」



 凛華が出した条件があまりにも簡潔過ぎて久喜は何を言いたいのか理解できなかった。


「そんなに難しいことじゃないよ。情報は話すけど、こちらにそれ以上関わらないでくれって言ってるの。私たちはダンジョンを突破したと言っても低レベルのものにすぎないし、まだ高校生活も始まったばかりだしそんな面倒なことをするつもりがないから余計な口を出さないでくれって言ってるの。私たちが手に入れたものは私たちのものだし、ダンジョンに入るも入らないも私たちの勝手。そっちの都合で振り回さないで欲しいってだけだよ」



 凛華はそう言い放つと、どうするの? というような目で久喜を見つめた。瑞希はこれまで言葉を発していないが、事前に凛華と打ち合わせていた通り、あまり信用ができないという判断を下している以上表に出ないように言われていたので、彼らのやり取りをずっと聞いているだけだったのだ。



 久喜はあまり進捗の芳しくないダンジョン探索に光明が見えたと思ったが、ダンジョンに対してあまりにも消極的で最低限の成果すら得られなさそうなこの状況に内心で怒り心頭だったが、表に出すようなことはせずに自身を律して重々しくその口を開いた。



「……わかりました。その条件でいいでしょう」



 凛華は相手が納得を示し、この場には彼女たちの両親もいて他の承認になる人材もいたので問題ないと思い、ダンジョンでのことを話した。



 凛華がダンジョンのことで話したのは瑞希から聞いた紫色の通常とは異なる強さを持ったゴブリンの情報や、瑞希が視た宝箱を守護する騎士がいたこと、道中ではゴブリンとコウモリが出てきて最奥ではレッサーオーガと戦闘を行ったということだ。



 どうやってモンスターの情報を得たのかは使い切りの鑑定の道具を手に入れて使用したからだと報告をしていた。今の瑞希と凛華は手ぶらに近く、持っているのは学校帰りの荷物と武器だけでマジックバッグの存在を隠そうとしているので何も戦利品がないと思わせるにはそうするしかなかったのだ。



「…なるほど。それでその騎士風のモンスターや変異種のゴブリンは倒したんですか? 話を聞いた限りではそれほどの強さのモンスターが一階層で出てきたなら討伐できたように思えませんが?」


 久喜は何か隠していることがあるということは察していたので突いてぼろが出そうなところから突っついていくことにしたのだ。


「確かに倒すのは苦戦したけど、正直運がよかったね。騎士は正々堂々としか戦いを挑んでこないから、隙をついて私が斬り倒しただけだし、ゴブリンは落とし穴に落ちたところをチクチク倒しただけだからね」


「落とし穴ですか?」


「そう。正解の道には時々罠が出てきたよ。落とし穴とか矢が飛んできたり、足元から棘が生えてきたりとかね」


「なるほど…。よく回避できましたね。何かそういうのが分かるスキルを手に入れたんですか?」


「スキルについてはノーコメント。それは個人情報なので教えられません」


「残念ですね…。では、そちらの黛瑞希さんはどうなのですか? 武藤凛華さんの口ぶりからはあまり戦闘をしていないようですが」



 凛華は瑞希に振られたのを答えるわけにはいかないと思い、やられたと思ったが、瑞希にアイコンタクトをし、瑞希も任せて、と目で答えた。


「私はこの剣を手に入れてからは戦闘をしましたがそれ以前は、基本的には私が注意を引いて彼女のサポートに徹していました」


「なるほど…、怖くはなかったんですか? 防具も付けていないのに注意を引くだなんて攻撃を受けたら死んでしまいますよ」



「確かにそうです。けど、私がそうするおかげで彼女が攻撃を決められるなら問題ありません。私は彼女を信頼していますし、彼女のためなら盾にも矛にもなりますから」


「そうですか…。他の探索者のために協力をしてくれれば傷つく人も減るのに残念です」



 久喜は凛華にしか向けられていない意識を他の人にも向けるように遠回りに示唆して瑞希の感情に揺さぶりをかけようとするが、瑞希の気持ちは元から凛華にしか向いていなかったのでその作戦は意味をなさなかった。



「協力をしてくれる人がいるといいですね。では、私の方からの話は以上です。もう時間も遅いので帰宅してもいいですか?」



 瑞希としてもこれ以上付き合いきれないと思いそう口にすると、久喜は話をいきなり辞められるとは想定していなかったのか「え?」という表情を晒した。


「ないようですね。それでは今日は金曜日で…、いえ、すでに土曜日ですが、娘たちは午前中に授業もありますのでここで失礼させていただきます」



 瑞希の父親もこれ以上は口を出させないという勢いで会話を止め、もう話は済んだのだから帰らせてもらうというような態度で席を立った。



「あ、え、その」


「それでは、娘たちとの約束は忘れないでください。もしもここでの約束を反故にするようなことがあればそのときはしかるべき手段を持って対応させてもらいますので」



 凛華の父親は手にスマホを取り出してひらひらと見せつけると、久喜はこの会話を録音されていたことを察し二の句を告げずに彼らが立ち去るのをただただ茫然と見送るしかなかった。




「これでよかったのかい?」


「うん、ありがとうお父さん」


「娘の頼みだし、委員会のあの態度はどうも好きになれないからこれぐらいかまわないよ」


「そうだぞ。それに、凛華ちゃんには瑞希を助けてもらった礼もあるからね。協力できることはするし、これからもうちの瑞希と仲良くして欲しい」


「ありがとうございます」



 委員会をあとにした4人は終電を逃していたので、適当にタクシーを捕まえてそのままそれぞれの家に帰宅をしていった。

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