第54話 VTuber祭 三日目 アナウンス

デバイスコーナーでの買い物を終え、次ははやて丸さんが行きたがっていたVTuberグッズのブースへ向かうことに。ちょうど【ユートピア】のイベントがステージ上で始まったばかりの時間帯。観客の多くはそちらに集まっているだろうというIQ9の読みだ。予想通り、グッズコーナーは多少空いていて、ゆっくり見て回れるくらいには人が少なかった。やったぜ。


はやて丸さんは真っ先に、事務所所属のVTuberたちのグッズコーナーへ向かっていった。


「サキさんとアカネちゃんも、グッズ出てるんだよね?」


「はい、出てますよ!」


「ええ。エンドレスのブースは、あそこね」


「なんか記念に買ってこうかな」


「あら、買ってくれるの?」


「僕のボイスを買ってくれたお礼も兼ねて、何か持っておこうかなと」


「ぼ、ボクのも……ですか?」


「うん。買っていい?」


「ど、どうぞ……!」


「いろいろあるけど、オススメはやっぱりアクスタかしら」


「じゃあ、それ買いますかー……あれ?」


二人分のアクリルスタンドを手に取ろうとしたその時、ふと目に入ったのは――大きくて、やたら可愛いぬいぐるみ。それも、サキさんとアカネちゃん、それぞれのが並んでいた。なんだこの可愛いのは。思わず、両手でふたつとも取っていた。あ、すんごい柔らかい。もっちもち。


「よし、これも買っちゃおう」


「えっ?」


サキさんが目を丸くする。


「だめ?」


「駄目じゃないけど……なんで?」


「可愛いから。単純に、欲しいなって」


「そ、そう……」


「でかぐるみも買うんですね……!」


「うん。可愛いし。あ、アカネちゃんはサキさんの持ってるんだっけ?」


「はい!お部屋に飾ってます!」


「じゃあ、おそろいだね」


アクスタも合わせてレジへと向かう。まぁ、マウスに比べたら安いもんだ。はやて丸さんもお目当てのグッズを手に入れて、満足そうな顔をしていた。あれが有名なほくほく丸ですか。栗みてぇな口しやがって……。


……んで、おっさんはどこに行った?まさか迷子……ではないか。でかいし。目立つし。あれで迷子になったら笑ってやろう。そんなことを思っていたら、あっさりとおっさんが見つかった。


「いやぁ〜、いい商品が多くて困るのぅ」


「お、いた。どこ行ってたん?」


「ふっふっふ……ちょっとな」


おっさんの歩いてきた方向を見ると「紳士向けコーナー」の看板が。おいマジか。いや、別に駄目じゃないけど、このメンツで行くんか。


「さいですか」


「紳士の嗜みだよ、キミィ」


「ずいぶん買い込んでるけど」


「嗜みだよ、嗜み。キミィ」


「はいはい」


この三日間で一番楽しそうだなこの人。すんげー笑顔。



はやて丸さんの目的、おっさんの目的。どちらも達成され、最後は私の番だ。「私にいい考えがある」などと言いながら、私が提案したのは、テラス席のある会場のカフェだった。天気は快晴。心地よい風が吹いていて、まさにカフェ日和。ああ、来てよかった。そう思えるひととき。


私たちは席に着く。私の隣にはおっさんが座り、向かいには女性陣が三人並んだ。左から可愛い、可愛い、美人すぎる、ですな。うーん、場違い感がすごい。


「キミがこういう提案をするとはな。ちょっと意外だったぞ」


「三日間、ずっと動きっぱなしだったからね。最後くらい、こういう時間があってもいいかなって」


「いいと思います……!」


「ちょうど休みたかったところでス!さすがせんぱいッス!」


「ふふ、これはポイント高いんじゃないかしら?」


「わーい。……なんのポイントだ???」


そこから私たちは、三日間の思い出を語り合った。姫のことには触れず、それぞれの「楽しかったこと」だけを持ち寄って。


時間を忘れるほど盛り上がったその雑談会は、場内に流れたアナウンスによって終わりを迎えた。最後のステージが始まるらしい。……え?もうそんな時間???


「……もう終わり?」


「でスね。あと一つだけステージがあって、それで完全に終了でス」


「そっか」


「た、楽しかったですね」


「ええ、とても」


「また来たいのぅ」


「また皆で行こう」


 私のその言葉に、全員が目を丸くして――そして、笑った。笑うんじゃないよ。


「難しいこと言いおったぞ、こいつ」


「その自信、分けてほしいです……」


「でも、そうね。また皆で来ましょう?」


「はい!絶対に、またこのメンバーで!」


まぁ来年は無理だろうけど、いつか来れるだろ、うん。


 荷物を手にカフェを出ようとした、その時。サキさんのスマホが鳴った。画面を見たサキさんは、少し困ったような顔をしてから通話に出る。そして、なぜか私にスマホを差し出してきた。なにこれ、ボイス録音しようとしてる?


「貴方と話したい人がいるの。……お願い、受け取って」


言われるがまま、スマホを受け取り、耳に当てる。人のスマホで電話に出るの、ちょっとドキドキするよね。そんなことを思っていると、つい最近、というか、昨日聞いたばかりの声が聞こえ始めた。


「昨日ぶりね、雹夜くん」


「……アヤさん?えーと、こんにちは」


「こんにちは。楽しいところ悪いのだけど、ちょっといいかしら?」


「えーと……なんでしょう?」


「あなた、時報アナウンスをやってみない?」




 さて、なぜこうなったのか。誰か分かる人はいるだろうか?私にもわからん。カフェで一段落してもう終わりだねーまた来ようねーって気持ちよく終われそうだったのに、ここにきて緊急の招集です。そして呼ばれたのは、私。呼んだのは、昨日初めて会った、サキさんの同期でアカネちゃんの大先輩の、事務所エンドレス所属のVTuber、アヤさん。呼ばれた理由は、時報アナウンス。……なんで???


 よくわからないまま、私はサキさんと二人で指定された場所に向かった。おっさんとアカネちゃんとはやて丸さんは、会場の入口近くで待っていると言って送り出してくれた。私の頭の中は混乱と、予想される事態に備えて精神を落ち着かせていた。いや、まさかね。


 「お疲れ様です、雹夜です」

 

 「来たわね、お疲れ様。悪いわね、急に呼びつけてしまって」

 

 「お疲れ様です。アヤさん、どういう事ですか?」

 

 「サキも悪いわね。早速だけど、雹夜くんにはこの後のこの時間にアナウンスをしてほしいの」


 アヤさんは持っていた数枚の紙を私に差し出した。私は受け取り、中身を確認する。


 「この後最後のステージがあるのだけど、そのステージの前に二回アナウンスがあるの。2つ目のアナウンスは誰がやるか決まってるのだけど、最初のアナウンスを誰がやるかは、まだ決まってないの」

 

 「なんで今なんですか?」


 サキさんがアヤさんに問いかける。そりゃそうだ、事前にわかってたなら決められたはずなのに。……うん?事前に??キュピーンと、頭の中で何かがよぎる。まるで名探偵みたい。


 「……もしかして、急遽決まりました?」

 

 「正解。よくわかったわね」

 

 「マジかぁ」

 

 「理由はなんなんですか?」

 

 「会場に人が集まりすぎてるのよ」

 

 「……ほむ?」

 

 私はわからず、頭にハテナを浮かべる。


 「今日のユートピアのステージ目当てで、三日目に来る人が多かったの。今までは問題なく運営出来ていたから規制は掛けていなかったらしいのだけど、運営が予想する以上にユートピアのファンが来ちゃったみたい。それが問題になったわけね」


 「あーなるほど」


 「そしてもう一つの問題が、ユートピアのファンにあるのよ」


 「ファン???」

 

 「ユートピアのファンは少し過激というか……」

 

 「一日目のユートピアのVTuberのアナウンスに、その場で土下座したり、叫んだ人が結構いたのよ。それも通路のど真ん中で」

 

 「えぇ……」

 

 「あそこのファンが全員そうというわけじゃないけど、そういうのが目立ってきてるわけ。で、流石にどうにかしないとって話に」

 

 「そこのVTuberさんが注意するとかは……?」

 

 「勿論してるわ。でも聞かないみたい」

 

 「ですよねー……」

 

 果たしてそれはファンと言えるのだろうか???


 「流石に可哀想だし、私も協力できるか話を聞きに行ったの」

 

 「それが、アナウンスなんですね?」

 

 「そう。まぁ正直効果は薄いと思うけど、最初のアナウンスで事前にステージ前に集まってもらうように伝えるの。その後、ステージが始まる前にユートピアの人が最後のお願いとしてアナウンスを流すの」

 

 「なるほど」

 

 なるほど???

 

 「で、問題はここからなんだけど……正直、適任者がいないのよね」

 

 「アヤさん達がやるのは駄目なんですか?」


 私の言葉に、アヤさんは首を振る。


 「なぜかわからないけど、私達の事務所はあそこのファンに敵対視されてるのよ。事務所同士は別に仲悪く無いんだけどね。ブーイングが起きて、下手したらステージ自体が中止になりえるかもしれないわ」

 

 「厄介すぎません???」


 思わず正直に答えてしまった。いや、というか本当にファンなのか???まぁ過激ファンっているみたいだし、実際炎上した時もいたしなぁ。


 「まぁ、そうね。それで他のVTuberさんに頼みたいのだけど、あいにく信頼できる人が今日いないのよ」

 

 「うーん……あ、ユメレイドのようじょ先輩は?」

 

 「あら、あの子の事知ってるの?」

 

 「不思議な縁で知り合いました」

 

 「ふむ……残念だけど、あの子も無理ね。会場にはいるんだけどね」

 

 「……迷子?」

 

 「ええ」

 

 期待を裏切らない人だなぁ。


 「ちなみに、僕を選んだ理由を聞いても?」

 

 「昨日、雹夜くんの事を調べたのよ。貴方、声が凄く褒められてるじゃない?ボイスも販売してるみたいだし、配信スタイルも読み聞かせがほとんど。はやて丸ちゃんとも、月一だけど定期的に情報番組をやっている。条件に当てはまるじゃない?」

 

 「はやて丸さんじゃ駄目なんですか?」

 

 「あの子の声もいいわよね。でも、だめ。今のあの子じゃ失敗するわ」

 

 「僕も失敗しますよ?」

 

 「その時はその時よ。でも、貴方のほうがまだ可能性はある」

 

 「その根拠は……?」


 「あの堅物のサキが懐いているから」


 「堅物なんですか?」


 「私の知るサキはね」


 「ほぉー。うーん……」

 

 「ここまで話しておいてなんだけど、断ってもいいのよ?」

 

 「いいんですか?」

 

 マジ?やらなくていいの?


 「ええ。元々あの事務所の子達じゃないと無理じゃないかって話だったしね。彼女達も、最悪中止で構わないって言ってたわ」

 

 「いやそれは流石に……」

 

 「私もそう思ったからいろいろ考えて、貴方に話を持ってきたの。でも、判断は雹夜くんに任せるわ」

 

 ……まぁ、ここまで言われて、断る人はいないんじゃないか?成功すれば恩は売れるけど、失敗したら、また炎上かなぁ。……まぁ炎上程度ならいいか。うん、炎上くらいならいいや。


 「……ふぅ。やりますか」

 

 「ほんとに?」

 

 「雹くん、無理しなくていいのよ?」

 

 「やりますよ。ここまで聞かされちゃねぇ?」

 

 「ごめんなさいね」

 

 「いいえー。失敗したらごめんなさい」

 

 「その時は私達の事務所で拾ってあげるわ」

 

 お???本当か???


 「炎上しても?」

 

 「もちろん」

 

 「やったぜ」


 言質取ったぜ。これからは私も事務所所属かぁ。



 「ふふ、それじゃ悪いけど、お願いね。アナウンス室に案内するわ」


 「はい。あ、サキさん」


 「どうしたの?」


 「会場に戻って、おっさん達と合流してください」


 「……一人で大丈夫?」


 「大丈夫」


 「……わかったわ。雹くん、ごめんね。任せたわ」


 「任されました」

 

 いやほんと、人生何があるかわからんね。これも、サキさんと出会った縁なのかなぁ。……よし、行きますか。


 私は案内された部屋で、時間ギリギリまで復習を繰り返す。幸いな事に、今日の喉の調子は良かった。漢字にもルビを振ってもらったし、準備は万全。深呼吸をして、その時を待つ。


 そして、その時間がやってきた。しゃーない、やってみるか。



 結果から言うと、私はある意味で失敗したのだった。すまん。いや本当に。

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