一人遊び
所有できるものには限りがある。ただ許容量さえ超えなければ、逆説的には何でも持てるということだ。二ノ宮サヨリは自分専用の
"一人遊び世界大会"と題されたその部屋は、二ノ宮がかつて設営した──言うなれば情報の
種目は三つ。けん玉、ルービックキューブ、射撃である。室内でできるのはこれくらいしかない。ならば外で存分にスポーツを楽しめば良いのでは、と思うかもしれない。が、今日は生憎の雨。大人しく篭るというのも
二ノ宮の手元にホロ映像で再現されたけん玉が現れる。物理演算式に重力という概念を持つために、それは本物と近しい動きをする。が、実際には何も持っていないので非常にやり難い。タイマーを設定して、どれだけ早く剣先に五回玉を入れられるか。スコアアタックの自己ベストは二分だった。
深呼吸して、二ノ宮は試合に臨む。次いでルービックキューブ、射撃へと競技が移り、結果は二位を更新。まずまずの結果だった。
すると、『遊びの王様』という名前のアカウントからアクセスがあった。調べてみると、相手は一ノ瀬エマであった。一人遊び世界大会に参加したいのだという。彼女が加わった瞬間にコンセプトは崩れ去るが、まあ良い。二ノ宮は参加を許可して、共有空間を作った。
「やっほー」一ノ瀬の第一声は感動詞だった。「元気してる?」
「雨の日は憂鬱」
「それにしても愉快な遊びしてるじゃん。混ぜてよ」
「もう混ぜてるよ」二ノ宮はくすりと笑って、「まさかここを見つけるとは、流石は"遊びの王様"。──アカウント名変えた?」
「この為にね」
「
「
「お願いします」
二人は三つの競技に集中した。友人と言えど、世界大会においては選手であり、ライバルである。そこにあるのはスポーツマンシップに則った、公平な競争だけ。二ノ宮は拳を握り締めて呟いた。
「参りました」
結果は一ノ瀬の圧勝。ランキングも一位を更新し、二位とは大差をつけた。
「ち、チートじゃない?」
"疑う時はまず枠組みから"が二ノ宮のモットーである。
「実力です。おほほほ」
「何という……」
二ノ宮は一ノ瀬の映像を、後で練習するために保存した。残ったのは悔しさばかりで、今にも叫び出しそうになった。
「何がいけないんだろう」二ノ宮の言葉に、
「重心がブレブレなのよ。体内に
と、抜けていった。
「くそう、勝ち逃げだ……」二ノ宮は腕を組み、呻いた。「プロ選手たるもの、この雪辱は次の大会で果たしてやる。覚えていろよう」
翌日、二ノ宮はぐっすり眠ってすっきり忘れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます