一人遊び

 所有できるものには限りがある。ただ許容量さえ超えなければ、逆説的には何でも持てるということだ。二ノ宮サヨリは自分専用の仮想国家オフラインサーバーにアクセスした。仮想空間のなかの自分だけのスペース。そこのとある部屋を訪れた。

 "一人遊び世界大会"と題されたその部屋は、二ノ宮がかつて設営した──言うなれば情報の履歴ログが残っている場所。過去に撮影した二ノ宮自身の姿が幾つか並び、ランキングが表示されている。一位は五ヶ月前の自分。二位は一ヶ月前の自分。三位は一年前の自分だ。

 記憶メモリーを呼び起こし、ドローンを通して自分自身のホログラム映像を浮かべる。自室に二ノ宮が五人並んだ。さて、今から"一人遊び世界大会"を開催する。因みにここで言う世界とは、二ノ宮のサーバーを意味している。

 種目は三つ。けん玉、ルービックキューブ、射撃である。室内でできるのはこれくらいしかない。ならば外で存分にスポーツを楽しめば良いのでは、と思うかもしれない。が、今日は生憎の雨。大人しく篭るというのもしゃくに障るので、こうして寂しい独り相撲を演じてやろうとしているのだ。

 二ノ宮の手元にホロ映像で再現されたけん玉が現れる。物理演算式に重力という概念を持つために、それは本物と近しい動きをする。が、実際には何も持っていないので非常にやり難い。タイマーを設定して、どれだけ早く剣先に五回玉を入れられるか。スコアアタックの自己ベストは二分だった。

 深呼吸して、二ノ宮は試合に臨む。次いでルービックキューブ、射撃へと競技が移り、結果は二位を更新。まずまずの結果だった。

 すると、『遊びの王様』という名前のアカウントからアクセスがあった。調べてみると、相手は一ノ瀬エマであった。一人遊び世界大会に参加したいのだという。彼女が加わった瞬間にコンセプトは崩れ去るが、まあ良い。二ノ宮は参加を許可して、共有空間を作った。

「やっほー」一ノ瀬の第一声は感動詞だった。「元気してる?」

「雨の日は憂鬱」

「それにしても愉快な遊びしてるじゃん。混ぜてよ」

「もう混ぜてるよ」二ノ宮はくすりと笑って、「まさかここを見つけるとは、流石は"遊びの王様"。──アカウント名変えた?」

「この為にね」

スコレーなの?」

学校スクールが休みだからね。それじゃあ、対戦宜しくお願いします」

「お願いします」

 二人は三つの競技に集中した。友人と言えど、世界大会においては選手であり、ライバルである。そこにあるのはスポーツマンシップに則った、公平な競争だけ。二ノ宮は拳を握り締めて呟いた。

「参りました」

 結果は一ノ瀬の圧勝。ランキングも一位を更新し、二位とは大差をつけた。

「ち、チートじゃない?」

 "疑う時はまず枠組みから"が二ノ宮のモットーである。

「実力です。おほほほ」

「何という……」

 二ノ宮は一ノ瀬の映像を、後で練習するために保存した。残ったのは悔しさばかりで、今にも叫び出しそうになった。

「何がいけないんだろう」二ノ宮の言葉に、

「重心がブレブレなのよ。体内にナノマシンを飼ってるせいじゃない?」一ノ瀬は高らかに笑った後、「ところで、対戦ありがとうございました」

 と、抜けていった。

「くそう、勝ち逃げだ……」二ノ宮は腕を組み、呻いた。「プロ選手たるもの、この雪辱は次の大会で果たしてやる。覚えていろよう」

 翌日、二ノ宮はぐっすり眠ってすっきり忘れた。

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