第31話 sideシン 4


「ふぅん」

「ヒカリ、その方はやはり人間ではなかったの? 取り次いでもらうことは難しい?」

「!」


 馬車からもう一人女の子が出てきた。

 金髪碧眼のものすごい美少女。

 けれど、どこかで見たことがあるような顔立ち。

 いや、ある程度の“主要キャラ”はうっすら覚えてる。

 それに、この女の子の顔立ちはコニーにすごく似ているんだ。

 もしかして、この子がコニーの妹?

 多分そうだよな……コミカライズで『主人公の親友』として登場していたキャラ、の、はず。


「あら、でも……確かに人間族の方に見えますわね」

「え、あ、ええ……」


 困ったように目を背ける安藤さん(仮)。

 見た感じこの人……コニーの妹らしき女の子はラノベや漫画のことなんて知らないっぽい。

 にっこりと微笑んで、スカートを摘んで頭を下げる姿は本当に、ごくごく普通の、上品な女の子。

 でも、この子もコニーを見限ったんだよな。

 しかも、姉の婚約者と婚約し直して。


「はじめまして。わたくしはエリーリット・スウと申します。国交正常化のためにレイヴォル王国の国王陛下より仰せつかった者です。もしよろしければ、この国の国王陛下にお目通りする術など教えていただけませんか?」

「…………俺は、シン・カミサカといいます。はじめまして、エリーリットさん」


 やっぱり。

 頭を下げて、もう一度彼女に向き合うとずいぶん不思議な顔で見上げられた。

 それにしても、本当に姉の考えたストーリー通りに進んでいるんだな。

 確か、主人公のヒカリは唯一まだ得ていない加護——闇の聖霊神の加護を手に入れるためにこの国に来たのだ。

 魔族の国とは何百年も交流がなかった。

 こんなに簡単に国内どころか王都に人間族が入ってくる。

 結界は機能しているはずなのに、どうして……。



「あの……この国の王様にお会いできませんか?」


 改めて聞かれて、少し考える。

 ミゲルさんは「逆に利用する」前提だ。

 ストーリー通りに進めても、多分問題はない。

 でも、それがコニーにいい影響があるとも思えないんだよな。

 姉のストーリーで結局コニーは不幸になる、のかな?

 ちらりと彼女……安藤さん(仮)を見る。


「王弟のミゲルさんになら会えるけど」

「え! ミゲル様に!?」


 すごいわかりやすく食いついたな。


「案内してもいいけど、一つ聞きたい」

「なに!? なんでも聞いて!」


 調子いいなぁ、この人。


「……コニッシュ・スウは、最後どうなるの?」

「え?」

「お姉様……?」

「あ、えーと……妖霊神に取り込まれて……呪いを増幅させて魔族と人類に仇をなす妖魔になって、まあ、うん」

「光の聖霊神様が予言されていたのですよね? ね、ねえ、ヒカリ、お姉様はもう亡くなっているのではないの?」

「!」


 安藤さん(仮)はストーリーのことをエリーリットさんに話していたのか。

 しかも、それを『光の聖霊神』の予言だなんて言ってるのか。姑息だなぁ。

 はっきりと「死ぬ」と言わないあたりも姑息。


「お父様も、お姉様は体調が悪化して郊外の病院に緊急入院して、そのまま亡くなってしまったって……。それなのに光の聖霊神様は、お姉様が妖霊神などの器になると……そんなこと……」

「!」


 エリーリットさんはそう聞いているのか。

 俯いて、悲しそう。

 つい先入観から演技かな、と思ったけど、そんな感じに見えない。


「え、えーと……そ、そうよね。でも、光の聖霊神様はそうおっしゃってて……」

「……」

「でもきっと大丈夫よ! もしそうなっても、私がなんとかしてみせるわ!」

「……そ、そう、よね……うん」


 そんな風に言って、エリーリットさんを元気づけている安藤さん(仮)。

 でも、見当違いもいいところだな。

 彼女が気落ちしているのは、そういう意味ではないだろう。

 ただ普通に、姉が悪い神様に取り込まれて死ぬ……なんて——。


「…………」


 俯いているエリーリットさんの気持ちがほんの少しだけ理解できる。

 俺にも姉がいるから。

 いくら自分の姉が他人を不幸にしてしまうと言われたら、気が気でない。

 俺の姉はコニーのことを『悪役令嬢』として物語の中だから殺してしまうのかもしれないけど、エリーリットさんはその妹なんだよな……。

 そりゃ、「私がなんとかする」なんていう言葉を聞いたって、なんにも安心できない。

 どうしたって『姉が悪者になって人を傷つける』。

 そんなの、それだけで気持ちが落ち込むよ。


「ミゲルさんの予定を聞いてくるので、ここで待っててもらえますか? えっと、何人で来てるんですか」

「! 四人です! 私とエリーリットと、トール王子とセリックさん!」

「四人ですね、あまりうろちょろしないでください」


 一応この国の人じゃないわけだし。

 そう言って二人がボックス馬車の中に戻ったのを確認してから、溜息を吐く。

 ……まあ、あの『ヒカリ』が姉の物語通りの『聖女』だったとしても、俺はコニーを守ってあげたい。

 姉のせいで不幸になる人……死んでしまうかもしれない人……。

 そんなのは、嫌だ。

 それに、コニーは普通の女の子だった。

 なんでも自分のせいにしてしまう、かなり後ろ向きに全力な感じの人だけど。

 それだけ、妖霊神の【認識阻害】でつらい思いをしてきたからだろう。

 ……あれ? でも四人で来た割に二人しかいなかったな?

 まさか別行動してるのかな?

 いやいやいやいや、他国で……しかも神様に結界で国を分けられてしまうほど長い間戦争していたいわゆる敵国で、護衛もなく出歩くってヤバくない?

 平和ボケしてるのかな?

 それとも……あの『ヒカリ』は、四大元素聖霊神だけでなく、光の聖霊神も召喚できるのか?

 いや、さすがにそれはないかな。

 四大元素の聖霊神は召喚できるけど、闇と光の聖霊神は呼び出す術がない……って、ミゲルさんが言ってたし。


「おや、シン様、お帰りになられたのでは?」

「あ、ちょうど良かった、プリンさん。実は——」

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