第12話 姫乃ちゃんの料理教室

今日は昨日から楽しみにしている、姫乃ちゃん主催の料理教室の日である。


昨日のように遅くまで残業なんかしないように、朝から頭の回転を上げる。

そして、重要度と緊急度を確認しながら業務を仕上げていく。


これまでは家に帰って特にやりたいこともなかったから、降り注いでくる業務を手当たり次第に消化してから帰宅していた。


だけどこれからの私は変わるんだ!

めっちゃ美味しい料理を食べるために!


そのためには絶対に残業はしないという鋼の意志を持って、降り注ぐ上司からの業務をなんとかこなしていかないといけない。



朝からハイペースで頑張ったおかげで、この日はなんとか定時で帰ることに成功した。

今日はこのまま、姫乃ちゃんと一緒にスーパーに寄ってから家に帰ることになった。


我が家に着いて買い物袋をテーブルの上におく。

そして二人して手洗いを済ませるといよいよ料理教室が始まった。


今日の料理は簡単で定番、そして大量に作って置けると言うことで、カレーとなった。

私としても、変におしゃれな料理よりも、普段から作れそうで簡単なのが良かったのやる気が出た。


それにしても、姫乃ちゃんは教えるのが上手だ。

今まで会社では後輩だから、私が教えることしかなかったから気づかなかった。


例えば、包丁の握り方なんか知らないから適当に握っていたら、後ろからそっと近づいてきて


「紗希先輩、野菜を切る時には包丁の持ち方をこうした方が切りやすいんですよ?」


そう言いながら、私の手を柔らかく動かしていく。


「あと、切る時にはまな板に対してこういう姿勢で切ると綺麗に切れますよ?」


そして私の腰に手を当てて、まな板と並行に立っていた体の向きを変える


それ以外にも、姫乃ちゃんのお手本を見ながらジャガイモを切ると、


「うん、均等に綺麗に切れてて良いですよ紗希先輩♪」


とかいちいち言ってくれるから、私としてもやる気を保ったまま料理ができる。

正直、褒めすぎじゃないかとも思う。

だけど、こんなに褒めらることなんてなかったから、姫乃ちゃんの方が年下なのについつい甘えてしまう。


「野菜を炒めるのはこのぐらいで大丈夫?」

「はい良いですよ、それじゃあ次はお肉を投入しましょう」

「は~い」


料理がこんなに楽しいものだなんて知らなかった。

家庭料理ってしょうがなく作るもので、むしろ作らなくても食べるものがあれば作らなくても良いものだと思っていた。


でも、姫乃ちゃんに料理を教えてもらうと違うんだなぁって分かった。

一緒に作っているとワクワクするし、これを姫乃ちゃんに食べてもらえるんだと思うと嬉しくなる。

私の方が年上で先輩なのに、私はこんなことも知らなかったんだと思う。


きっと姫乃ちゃんは、小さい頃から家族に大事に育てられたんだろうな。

きっと毎日笑いが絶えない家で育てられたんだろうな。


そんなことを考えていると、姫乃ちゃんが下から覗き込みながら話しかけてきた


「どうしたんですか紗希先輩?何か考え事ですか?」


いけないいけない。折角の姫乃ちゃんとの楽しい料理教室なのに、どうでも良いことを考えていた。


「いや何でもないよ、こんなに美味しそうな料理が作れるなら早めに料理教室でもいけばよかったかな?って思ってた所。」

「それはダメです」


適当に言い訳をして話を変えようとする私に、珍しく否定の言葉を返された。

基本的に肯定の意見しか返してこない姫乃ちゃんに驚いていると、


「もしも料理教室に通っていたら、私がこうして紗希先輩と一緒にいる口実がなかったじゃないですか!」

「そうかなぁ?」

「そうです!だから料理教室にはいってなくてよかったんです」


こんな私との時間を大切に思ってくれているならとても嬉しいな。


ありがと、姫乃ちゃん。


「ふふっ、そうだね」

「はい!そうです」



そうして出来上がったカレーはとってもおいしかった。

レトルトやコンビニのカレーって辛さや濃さなんかにインパクトがある。

だけど、姫乃ちゃんと作ったカレーは全然違う。


暴力的な味ではなくてインパクトは無い。

だけど、何だか柔らかく包んでくれるような味で、ずっと食べていたいと思うような中毒性がある。


「どうですか紗希先輩?私の家の味なんで先輩の好みに合えば良いんですけど…」

「そんな心配なんかする必要ないよ。とっても美味しいよ。」


それにこれが家庭の味なんだと思うと、なんだか嬉しいような泣きたくなるような。

自分でもよくわからない感情が生まれてくる。


でもこんな場面に涙は似合わないから、精一杯の笑顔で姫乃ちゃんには感謝する。


「そう言ってもらえると安心しました。でもこれで、紗希先輩が作るカレーと我が家のカレーは同じ味になりましたね?ふふっ先輩をちょっとだけ私色に染めちゃいましたね♪」


何やら面白い怖いことを言ってくる後輩になんて返事をしたものかと思いながらカレーを食べ進める。



あぁ~美味しい~



カレーを食べ終わった後はちょっとお話をしてから姫乃ちゃんを家まで送って行った。

別れる際に姫乃ちゃんが寂しそうにするから、心の中ではギュッと抱きしめてあげた。


まぁ普通にまた明日って言って帰ったけどね。


木曜日は重要度も緊急度も高い業務があったので、早々に姫乃ちゃんの料理は諦めた。


その代わり、週末の姫乃ちゃんとの飲みで、ちょっと姫乃ちゃんにおねだりしてみた。


「姫乃ちゃん。明日は我が家で飲まない?そして、姫乃ちゃんセレクトのつまみを作って欲しいなぁ~?なんてだめかな?」

「良いでいすよ、紗希先輩を虜にするようなおつまみを作ってあげますね!」



そして今、特にヤバイ業務もなく今週も終えることができそうだ。姫乃ちゃんとの飲みが待っている~♪

そんなことを考えていたら、フラッと上司がやってきて、とんでもないことを言い出した。


「来期から導入するシステムで仕様の追加をした方がいい箇所があると思うから確認して」


…はぁ!?馬鹿じゃないの!

仕様はこれでいいってきまったの!

もうこの仕様で動き出してるんだよ!


私と姫乃ちゃんとの飲みが危ぶまれてきた。


**************

作者より みんなへ

いつも応援してくれてありがとう。

執筆中に挫けそうになるとき

みんなの応援と★での評価が私を頑張らせてくれています!

なのであなたの心が少しでも動いたら★で評価してくれると

とっても嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る