第8話 水着の少女たち


              ☆☆☆その①☆☆☆


 渋滞に嵌ることもなく、車は海へと到着。

 駐車場は警備員の人たちがいて、しかし公序良俗に反しない程度には使用可能という、親切な案内だった。

 以外に大型SUV車やワゴンが多いのは、家族連れの海水浴客が多いからだろう。

 駐車スペースに車を停めて、青年は着替えを持って、車外へ出る。

「僕はタオルを巻いて外で着替えるから、みんなは車の中で義換えてね」

「「「は~い♪」」」

 海の家の更衣室でも着替えられるけれど、家族連れでなかなか混んでいるらしく、駐車場で着替えている若い人たちも、少数だけどいた。

 ワゴンのカーテンが閉められて、育郎は腰にタオルを巻いて海パンに着替える。

 社内からは、女子たちのキャッキャうふふトークが、漏れ聞こえてきていた。

『あれトモちゃん、なんか胸 おっきくなってない?』

『ちょっとだけ 成長したよ~♪』

『やはり、恋人に毎晩…はふぅ…』

(じょっ、女子トークっ!)

 リアルで聞くのは初めてだ。

 聞いては失礼かと思いつつ、でも僕が外にいるって知ってるわけだしとか、悩みながらも耳を傾けてしまった。

『っていうか~、ミッキーの方が大きくなってるでしょ~?』

『なんかねぇ。短距離のタイムの伸びが悪いの、コイツのおかげなんじゃ?』

『大会のコース上で、欲求に猛る男子たちの視線が…はふぅ…』

『そんなヤツいないって』

『桃ちゃんのスレンダーなシルエットとか、やっぱり女の子らしくて綺麗だよね~♪』

『ですが、煽情性には乏しいですし…』

『そんなの好みによるって。ネットとかだと、桃ちゃんみたいな女子が好みって男子、結構多いみたいだよ』

『う~ん…ですが もう少し、バストが欲しいです…』

 女子同士だから、バストを隠さないどころか、観察し合って雑談をしている。

 ミッキー嬢も桃嬢も、亜栖羽のバストを見ているのだ。

(…羨ましい…っ!)

 強く拳を握る二十九歳。

 キャッキャしながら着替えが終わると、ワゴンの後部が開けられて、三人の女子が水着で参上をする。

「お待たせしました~♪」

「それじゃ 行こうか…おおおおおっ!」

 振り向いた育郎は、思わず唸ってしまった。


              ☆☆☆その②☆☆☆ 


 ミッキー嬢は、聞こえた会話の通り、たっぷりと実った巨乳を水色の柄物ビキニのトップに押し込めている。

 陸上で鍛えた小麦色の身体は、女子としてかなり引き締まっていて、ボーイッシュなショートカットと良く似合っていて、そして大きなバストがミスマッチ的な魅力を存分に発揮していた。

 桃嬢は、ライトグリーンのビキニをスレンダーな肢体に纏っている。

 透き通るような白い肌と相まって、深い森の清楚な水の妖精みたいにも感じられて、話で聞こえたとおり男子たちに人気があるであろうことは、容易に想像できた。

 スレンダーゆえの儚さや無垢性が、男性の庇護欲を強く刺激するだろう。

 そして亜栖羽は、朱色のビキニと白い肌が、絶妙に輝いていた。

 バランスの良いシルエットに、包まれた豊乳やくびれたウェスト、大きなヒップも水着が軽く食い込んでいて、エッチに見える。

 清純性とほのかな色香が極上に表現された、まさしく天使の水着姿。

「ふ…ふむぅ…っ!」

 つい興奮して魅入ってしまう青年に、ミッキー嬢が呆れて突っ込む。

「GOさん、涎ダレダレっスよ」

「こうして、亜栖羽さんの身体を貪る筋肉の大男…はふぅ…」

「ハっ–ごご、ごめんなさいっ!」

「えへへ♪ オジサンに気に入って貰えて 嬉しいです~♪」

 そう答える亜栖羽は、頬が少し上気していた。

「それにしても…GOさん 凄いっスね…っ!」

 何の事かと思ったら、トランクスタイプの海パン一丁な育郎の、筋肉を見て驚いている様子だ。

「胸筋とか分厚いですし、筋肉的には水泳系って感じっスけど、何かやってるんスか?」

 筋肉モリモリな胸板を、女子三人に観察されて恥ずかしい育郎である。

 とはいえ、ここで照れてしまっては、大人の男性としての威厳が。

「ま、まぁ…体力づくりっていう意味では、柔軟とかランニングとか…。あ、あとは時々だけど、区民プールで泳いだりしてる程度だよ」

 よし。落ち着いて受け答えが出来た。

「ほへ~」

 陸上部のミッキー嬢は特に、筋肉関係に興味津々のご様子だ。

 青年の巨体をマジマジと見つめる友達に、桃嬢の妄想も捗っているっぽい。

「その猛々しい筋肉で…亜栖羽さんだけでなく、美樹さんまで虜にして手籠めに…はふぅ…」

「てっ、手籠めになんてしません…っ!」

 思わず否定する育郎を、言われたミッキー嬢もあらためて評価したり。

「三大トップに入る丸閥大学を首席で卒業して、この体格にこの筋肉…。トモちゃん、初めての恋人なのに なんて優良物件を…っ!」

「本当に…ああ、かどわかされたフリをして、亜栖羽さんが かどわかしていた…はふぅ…」

 なんだか、女子特有な感じのトークになってきた気がする。

「えっと…」

 どう返して良いのか解らない青年を、亜栖羽は自慢げに、あらためて紹介。

「えっへん。オジサンは、お顔以外はパーフェクト・ヒューマンなんだから~♪」

 とか言われて、反論できないだけに、ちょっと悔しい。

 なので、育郎も言ってみる。

「そ、それを言うなら、亜栖羽ちゃんだって 成績以外は完璧美少女でしょ…」

 言ってから、ちょっと言い過ぎたかも。怒られたりしないかな。とか、不安になる青年だ。

 だけど。

「えへへ~♪ オジサンに褒められちゃった~♡」

「え、そうなの…?」

「うわぁ、犬も食わないってハナシ、初めて目の当たりにしたっスよ」

「亜栖羽さん、既に身も心も、ふっ様の所有物なのですね…はふぅ…」

 亜栖羽は素で喜んでいて、ミッキー嬢は呆れていて、桃嬢は独自なあだ名で妄想を加速させていた。

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