第26話 ホストと喧嘩したらしい。


駅に向かう途中、スバルが何度も俺の顔色を伺うのを感じたが、全部無視した。不機嫌をアピールしたいわけでも、傷つけたいわけでもないのに、感情がコントロールできなくて、そんな自分が嫌になる。



「優也、怒ってるの?」

「……」

「ねえ、なんか言ってよ」

「怒ってないよ。なんで俺が怒るんだよ」



嫉妬をしているから?

嫉妬をして、理不尽な怒りを、いまスバルにぶつけそうになっている?



自ら導き出した答えにうんざりとして、ますます黙り込んでしまう。そんなこと口が裂けても言えるわけがない。



「月島先輩はいい人なんだよ」

「知ってる。いま一緒に仕事してるんだから」

「優也が心配してるようなこと、なにもないよ」



俺が心配してるようなことってなんだ。

俺はなにも心配なんかしていない。



「別にお前と月島さんの間になにがあっても、俺には関係ないよ」

「なんでそういう、突き放すようなこと言うの。この頃、優也、なんか変だよ」

「変……?」



気がついたら立ち止まっていた。

確かに俺はここのところ、ずっと変だったかもしれない。

でも。



「俺のこと、友達だって言って突き放したのはお前だろ」



そう言って振り向いたら、スバルが傷ついた顔をしていた。

月島さんと向かい合ったときとは比べ物にならない。言ってはいけないことを言ってしまったと後悔したが、もう取り消すことはできなかった。



「あれは違うよ……あの、ごめん」

「謝らなくていいよ。俺も、お前を好きだと思ってる気持ちは変わらないけど、男同士で付き合うってなんなんだろうって、最近ずっともやもやしてたんだ」

「え……」

「……」

「それは、僕と別れたいってことなの?」



今日、スバルが会いに来てくれて嬉しかった。それなのに、俺はどうしていま、こんな話をしているのだろう。

頷いたらすべてが終わるとわかっているので、それだけは絶対にできなかった。



「違うけど……ただ色々と整理がつかない。お前さ、月島さんのこと、好きだったんだろ」



これまでスバルに過去のことを聞かなかったのは、興味がなかったからだ。

それは悪い意味ではなく、どんな過去があったって関係ないと思えたからで、今だってその気持ちは変わらない。

でもいざ目の前であんな顔をされたら、平静ではいられなかった。その事実に、自分自身がショックを受けている。



スバルはなにも答えなかったが、俺にはわかっていた。一緒にいるうちに、顔を見れば考えていることがわかるようになってしまったのだ。今に限っては、そんな特殊能力を身につけてしまった自分を呪いたい。だいたいむかし好きだったというただそれだけなら、ここまでダメージは受けない。



月島さんを見るスバルの目は、懐かしい思い出の中の人を見るそれではなかった。

今でも折に触れて記憶をなぞり、愛おしんで、思い出をそのまま生きる希望にしているような、そういう、切ない目をしていたじゃないか。



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