第1話

この国、日本では犯罪件数が世界中で比較的少ない方らしい。

しかし、完璧に発生しないとは限らない。

新聞を見れば小さな事件から、見出しに書かれるほどの大きな事件などほぼ毎日のように掲載されている。

そして、ネット内では、事件の犯人探しや誹謗中傷、被害者へのコメントなど、様々な情報が飛び交っている。

という名の面を付けて。



俺は、そんな電子世界が好きだ。

例え、リアルでどんな人間だろうとネットの世界では”なりたい自分”とやらになれる。

非現実世界で、もう一つの人生が得られる。

最近発売された新作ゲーム

『phantom《 ファントム》』

興味本位で購入したRPGゲーム。

退屈な大学生活だと思っていたが、案外楽しいものだった。俺は、ゲームを好んでする方ではない。

そんな自分から、『こんなに楽しいなら、もっと早く始めれば良かった。』という感想がでるとは思わなかった。

実際、俺はこのゲームにのめり込み、ゲーム内でちょっと顔の知れたプレイヤーになっていた。


【こんにちは、Rさん。】


『phantom』の俺のアカウントに、突然メッセージが届いた。

相手は、何度か話したこと(といってもチャットなのだが)がある程度のプレイヤー、KH《ケーエイチ》125だった。


〖こんにちは〗

【最近どうですか?】

〖まあまあですね。KH125さんは、どうですか?〗

【こっちもぼちぼちって感じですかね。】


久しぶりに会うネット仲間ということもあり、近況報告に花を咲かせていた。


【あっ、そういえば最近ネット上である噂が流行ってるの知ってますか?】

〖噂?〗

【ええ、復讐屋についてです】

〖最近の話ですか?聞いたことがないんですけど〗

【そういえばRさん、最近ログインしてなかったですもんね。】


確かにそうだ。大学のレポートにおわれていて全くログインできていなかった。


〖復讐屋ってそもそもなんですか?〗

【義賊や詐欺師など言われてるんですが、それが不思議なんですよ。誰に聞いても、必ず一つだけ同じ内容の部分があるんです。】

〖誰に聞いてもですか?〗

【そうなんですよ。みんな必ず、同じ。と言うんです。不思議ですよね。】


何人もの人間が同じような内容の話をするなんてあるのだろうか?それがホントなら、偶然にしては出来すぎている。

その後、KH125と世間話程度の他愛もない話をしログアウトした。


しかし、何時間経っても『復讐屋』という言葉が頭から離れなかった。

詐欺かもしれない。

嘘かもしれない。

もしかしたら自分が思っているよりも危険な話かもしれない。

ただ、興味があった。

もしかしたら・・・

という好奇心から俺は、KH125にあらかじめ聞いておいたURLを検索した。

開いたページはただ真っ黒だった。マウスをうごしても、クリックしても何も起きない。

『やはりどっかの暇人が流した噂に便乗して面白半分で作られたサイトなのだろう』

そう思いサイトを閉じようとした瞬間、画面上にゆっくりと文字が浮かび上がってきた。

そこにはただ




《復讐をご所望ですか?》





と書かれていた。

”復讐。やはり噂は本当だったのだろうか”

半信半疑に思っているとまた文字が浮かび上がってきた。





《はい》   《いいえ》




たったそれだけの選択肢。

だが、俺の手は震えていた。

恐怖からの震えでは無い。

この後どんなことが起こるのか。ラノベのように気がついたら異世界に転生していた。なんてことがあるかもしれない。

そんな馬鹿なことを考える余裕はあった。

そして、今俺がするべきなのは目の前にあるマウスをワンクリックするだけの単純なこと。たったそれだけのことだったが、緊張と興奮でたまらなかった。


俺は、震える手で《はい》をクリックした。

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美しい復讐を・・・ R0I @R0I

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