堅物なやもめ浪人と美貌の若侍が繰り広げる、江戸の情緒が香る人情劇
- ★★★ Excellent!!!
読み終わるのがもったいないくらい、江戸の情緒と人情のあふれる世界に浸りました。
長屋に住むやもめの浪人が、傷を負った若侍を助けたことから起こる人間の悲喜こもごも。堅物な主人公と、見た目だけは美しい謎の侍の軽薄さとの対照が鮮やかです。侍らしからぬ男に振り回される主人公のユーモアのあるぼやきが端々に散りばめられて、同情しながらもついつい笑ってしまう。この語りのなんともいえない可笑しみが魅力です。
江戸の町を本当に見ているかのような生き生きとした描写。下町の長屋の暮らしぶりや、四季を通して移り変わる江戸の景色。そして町人から医師や侍まで、ひと癖ある個性的な脇役陣。生活の匂いが伝わってくる描写に、彼らと一緒にこの時代の浅草を歩いているような心地になります。
過ぎゆく季節を通して、人生の喜びや哀愁をときに笑わせ、ときにしんみりと綴る人情劇。最後には思わぬ展開の連続で引き込まれること間違いなし。
とにかく素晴らしいのひと言に尽きます。時代小説のファンはもちろん、なじみのない方でもあっという間に虜になる一作です!