コーディネーターの沈黙
- ★★★ Excellent!!!
男性を女性へと「変身」させる特殊な才能を持つ主人公。風俗店で出会った少年を見事に女性へと変貌させたことをきっかけに暴力団関係者に見出され、彼は風俗業界で「コーディネーター」として働くことになります。
主人公の「変身」に対する美学と現実のおぞましさが交錯する様が、倫理的な曖昧さを見事に描き出します。社会の闇と狂った権力が織りなす世界観は、読者の心に不穏な余韻を残します。
純粋な「変身」の喜びを追い求めていた主人公が罪の意識に苛まれていく様子は、ノワールサスペンスの重要な要素である「堕落」のテーマを体現しています。
淡々とした語りの中に垣間見える主人公の内面の葛藤が、読者を物語の奥深くへと引き込みます。徐々に闇の世界へと引きずり込まれていく過程が冷徹かつ詩的に描かれ、「変身」という行為に対する主人公の美意識が商品として消費される、現実との乖離が生み出す緊張感は秀逸です。
アイデンティティや変容、社会の闇といったテーマを掘り下げた本作。読者は主人公とともに、美意識や善悪の境界線が曖昧になっていく世界を旅することになります。この旅の終着点で待ち受けるものが何なのか、読者自身が想像せざるを得ない余白が、この物語の最大の魅力かも知れません。