第18話


「うおおおおおおおおおっっっっ」


 昼休み、俺が教室に戻ると、突然、男子生徒の叫び声が聞こえてきた。


声の主は、大柄な男子生徒だった。


「どうした、フィリップ?」


 ブランとかいう、あのイケメンが聞いた。


「お、おれの、おれの弁当がねえんだよっ!!」


 荒い息でフィリップが答える。


「自分で食べてしまったんじゃないかい?」


 小柄で痩せた男子生徒が文庫本に視線を落としたまま指摘した。


「ウィリアム、確かにオレはすでに1個食べちまった。

だがな、オレは3つ弁当を持ってきてるのよ。

残り2個の中身が全部食われちまってるんだ!!」


「じゃあ、いったい誰が食べたっていうのさ?」


 ウィリアムという生徒はなおも視線を上げようとしなかった。


 よっぽど本が好きらしい。


「それは……」


 フィリップが答えに詰まっているとどこからともなく「ホー」と言う鳴き声が聞こえた。


「ああーーーっっ」


 フィリップがロッカーの上を指差す。


 ロッカーの上で、アモンが美味そうにソーセージを突いている。


「あいつだ!!あいつがおれの弁当を盗んだ犯人だ」


 目を血走らせながらフィリップが叫ぶ。


 りんこが「しまった」という表情で口を押さえた。


 どうやら、りんこが気づかぬうちにアモンは帽子から脱走していたらしい。


「ゆるさんっ。おれのソーセージをかえせっ」


 フィリップがロッカーをよじ登……れるわけもなく、バタバタと手足を動かしてアモンを威嚇している。


 アモンは涼しい顔で食事を満喫していた。


「だから言ったじゃない」


 レモンは勝ち誇ったように胸をそらす。


「どうしよう……」


 りんこはオロオロしながら言った。


「まあ、いいじゃないか、フィリップ。これを機にダイエットでもはじめたらどうだい?」


 ウィリアムはニヤニヤしている。


「うるせえ」


 怒ったフィリップがウィリアムの本を奪い取ると、フクロウに向かって投げつけた。


 本はフクロウを大きく外して壁に当たり地面に落ちたが、予想外の反撃を食らって興奮したアモンは、教室中を飛び回って次々と他の生徒たちの弁当を襲撃し始めた。


 あっちこっちで悲鳴が上がる。


「おい、なにするんだ!?」


「やめて! わたしのサンドイッチが!」


「もう許さんっ!」


 さながら地獄絵図である。


 フクロウは生徒たちの弁当をつまみ食いしながら余裕の顔で飛び回る。


「アモン、逃げてっ!」


 りんこはいきなり駆けだしたと思ったら、窓をバーッと開け放った。


 アモンは生徒たちの罵声を浴びながら外に飛び出していく。


「ホー、ホー」


 森の方に向かって飛び去るアモン。


「いっちゃった……」


 呆然と見送るりんこ。


「まったくひどい目にあったな」


「お昼ごはん、どうしよう」


「なんでフクロウが教室にいるんだよー」


 生徒たちはブツブツ言いながら後片付けを始めている。


 午後の授業が始まったが、りんこはずっと窓の外を見ながらぼーっとしていた。


 飛んでいってしまったアモンのことが気になっているらしい。


 放課後になり、レモンが「一緒に帰ろう」とりんこを誘った。


 2人は教室を出た。


 俺はその2メートルくらい後ろからついていく。


 学校を出たところで、りんこは急に立ち止まった。


「レモン、やっぱりわたし、アモンを探しに行く!」


 おいおい、なにを言い出すんだよ!


「アモンって、あのフクロウのこと?」


「うん……。あの子、ケガしたばかりで、まだ治ってないし……」


「でも、森に行くのは危険よ。朝、ブランが言ってたじゃない、森の方で巨人が出たって」


 その時、ぬぼーっと大きな影が目の前に現われた。


 ブランとかいう男子生徒だ。その後ろには、食いしん坊のフィリップと本好きのウィリアムもいる。


「巨人がどうしたってーッ?」


 バカでかい声でブランが聞く。


「ブ、ブラン……」


 レモンが急に腹部を押さえ始める。


 りんこはフクロウを探しに森に行こうとしていることをブランに話した。


 すると、ブランは人懐っこい笑顔で言った。


「よし、わかった。俺たちもフクロウ探し、手伝うよッ!」


「こらこら、余計なことを言うなよ」


 文句を言ったが、天使の俺の声は、りんこ以外の人間には聞こえない。


 こんな時だけでも、こいつらに俺の声が聞こえたらなあ。


 ブランの言葉を聞いて、りんこの顔がパーッと明るくなる。


「ありがとう、ブラン!」


 ブランはお腹を押さえて青白い顔をしているレモンにも声をかけた。


「レモンも一緒に行くよな」


「えっ……う、うん……」


 レモンがうなずく。


 俺はすっかり乗り気になっているりんこに言った。


「りんこ、ダメだ。キミはHPが1しかないんだし、バベルの命運を握る救世主なんだぞっ」


 りんこはすまなそうに手を合わせ、片目を瞑った。


「ごめんね。わたし、やっぱりアモンがほっとけないの」


 フクロウ救出隊がゾロゾロと森のほうに向かって歩き出した。


(ハァ、しょうがないなあ)


 俺はトボトボとりんこたちの後についていった。



つづく!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る